結論:水系消火設備は「水の冷却力」で火を消す5つの設備
水系消火設備とは、水を使って火災を消す5つの消火設備の総称です。消防法施行令7条2項に定められた消火設備のうち、水を消火剤とする以下の5設備が甲種1類・乙種1類の試験範囲になります。
これら5つの設備はすべて「水の冷却力」という共通の原理で火を消します。構成機器にも共通点が多いので、まずは全体像を掴んでから個別の設備に進むのが効率的です。
なぜ「水」で消火するのか? — 水の3つの強み
消火設備にはガスや粉末を使うものもありますが、水系消火設備が最も広く使われています。その理由は、水が消火剤として3つの圧倒的な強みを持っているからです。
強み① 冷却効果が抜群
水の比熱(温まりにくさ)は、あらゆる液体の中でトップクラスです。さらに、水が蒸発するときに大量の熱を奪います(蒸発潜熱)。
1Lの水が蒸発すると、約2,257kJもの熱を吸収します。これは火災の発熱量を効率よく奪い取り、燃焼を止めるのに最適です。
強み② 窒息効果もある
水が蒸発すると体積が約1,700倍に膨張します。この大量の水蒸気が燃焼面を覆って酸素を遮断し、窒息効果も発揮します。水噴霧消火設備は、この窒息効果を特に活用した設備です。
強み③ 安価で入手しやすい
水は地球上で最も手に入りやすい消火剤です。ガス消火剤のような補充コストがなく、人体にも無害。大量に使っても環境への影響が小さいため、大規模な建物でも安心して使えます。
水が使えない場面もある
万能に見える水ですが、使えない場面もあります。
- 電気火災 — 水は電気を通すため、感電のおそれがある
- 油火災(大量の油) — 水をかけると油が飛び散って延焼する危険がある
- 精密機器 — 水損(水による被害)が大きくなりすぎる
このような場所には、ガス消火設備(甲種3類)や泡消火設備(甲種2類)が使われます。
5つの設備に共通する構成機器
水系消火設備は名前も役割もバラバラに見えますが、水を送る仕組みは共通です。どの設備も基本的に以下の機器で構成されています。
この「水源 → ポンプ → 配管 → 放水」の流れは、5つの設備すべてに共通する基本構造です。それぞれの設備で違うのは、放水の方式(手動 or 自動、ノズル or ヘッド)と使う場面(屋内 or 屋外、一般 or 特殊)です。
共通する附属機器
メインの構成に加えて、以下の附属機器も共通で使われます。
- 呼水装置 — ポンプが空回りしないように、あらかじめポンプ内を水で満たしておく装置
- 補助用高架水槽 — ポンプが起動するまでの間、配管内の圧力を維持する小さな水槽(屋上に設置)
- 非常電源 — 停電時でもポンプを動かすための自家発電設備や蓄電池
- 起動装置 — ポンプを起動させるスイッチや圧力スイッチ
- 制御盤 — ポンプの運転状態を監視・制御する盤
- 送水口 — 消防隊が消防車から建物の配管に水を送り込むための接続口
5つの設備を比較する
ここからは5つの設備を個別に見ていきます。各設備のポイントだけを掴んでください。詳しい構造は後続の記事で解説します。
❶ 屋内消火栓設備 — 建物の中から人が消す
建物の各階に設置された消火栓箱の中に、ホース・ノズル・開閉弁が収められています。火災を発見した人が自分でホースを伸ばして放水する設備です。
| 種類 | 操作人数 | 放水量 |
|---|---|---|
| 1号消火栓 | 2人 | 130L/min以上 |
| 易操作性1号 | 1人 | 130L/min以上 |
| 2号消火栓 | 1人 | 60L/min以上 |
| 広範囲型2号 | 1人 | 80L/min以上 |
1号消火栓は放水量が大きい代わりに2人で操作する必要があります。最近の建物では、1人でも使える易操作性1号消火栓や2号消火栓が主流です。
❷ スプリンクラー設備 — 自動で消す最強の設備
天井にスプリンクラーヘッドが設置されており、火災の熱でヘッドの感熱体(ヒュージブルリンクやガラス球)が壊れると、人の操作なしに自動で放水が始まります。
消防設備の中で最も信頼性が高く、最も多くの命を救っている設備です。病院・ホテル・大規模商業施設など、不特定多数が利用する建物に広く設置されています。
| 方式 | 特徴 |
|---|---|
| 湿式 | 配管内に常時加圧水。最も一般的 |
| 乾式 | 配管内は圧縮空気。凍結のおそれがある場所に |
| 予作動式 | 感知器と連動。誤放水を防ぎたい場所に |
| 開放型 | ヘッドに感熱体なし。一斉に放水する方式 |
❸ 水噴霧消火設備 — 霧で冷却+窒息+乳化
水を微細な霧状にして噴射する設備です。普通の水では消しにくい油火災や電気火災にも使えるのが特徴です。
霧状の水は表面積が大きいため冷却効果が高く、大量の水蒸気を発生させて窒息効果も発揮します。さらに油面では乳化効果(油と水が混ざって燃えにくくなる現象)も働きます。
主な設置場所は駐車場・変電設備・危険物施設などです。
❹ 屋外消火栓設備 — 建物の外から消す
建物の外側に設置された消火栓で、1階および2階の火災に対して建物の外から放水します。屋内消火栓が「中から消す」のに対し、屋外消火栓は「外から消す」設備です。
放水量は350L/min以上と、屋内消火栓の約2.7倍です。大きな建物の外周を守るために設置されます。
❺ 動力消防ポンプ設備 — エンジンで動くポンプ
エンジン(内燃機関)で駆動するポンプに、ホースやノズルを組み合わせた設備です。電源が不要なのが最大の特徴で、屋外消火栓設備の代替として設置できます。
水源は防火水槽やプール、河川などを利用します。
5つの設備を一覧で比較
| 設備名 | 操作 | 主な設置場所 |
|---|---|---|
| 屋内消火栓 | 手動 | ほぼ全ての建物 |
| スプリンクラー | 自動 | 病院・ホテル・大規模施設 |
| 水噴霧 | 自動 | 駐車場・変電設備 |
| 屋外消火栓 | 手動 | 大規模建物の外周 |
| 動力消防ポンプ | 手動 | 屋外消火栓の代替 |
1類と他の類の関係
消火設備は水系だけではありません。1類の水系消火設備と、他の類が扱う消火設備の関係を整理しておきましょう。
2類の泡消火設備は「水+泡」を使うため、1類の知識がベースになります。1類を学んだ後に2類に進むとスムーズに理解できます。
なぜ5つも種類があるのか?
「水で消すなら1種類でいいのでは?」と思うかもしれません。5つに分かれている理由は、建物の規模・用途・火災の危険度がバラバラだからです。
- 小〜中規模の建物 → 屋内消火栓設備で十分。人が操作して局所的に消火
- 大規模・多人数の建物 → スプリンクラー設備。人の操作を待たずに自動で消火
- 油や電気を扱う場所 → 水噴霧消火設備。霧状の水なら感電リスクが低い
- 大きな建物の外周 → 屋外消火栓設備。外から大量放水して延焼を防ぐ
- 電源がない・水道がない場所 → 動力消防ポンプ設備。エンジン駆動で自立して使える
つまり、「どんな建物で」「どんな火災が起きやすいか」に応じて最適な設備が選ばれる仕組みです。この考え方は法令(施行令11条〜20条)の設置基準にもそのまま反映されています。
これからの学習の進め方
この記事で5つの設備の全体像を掴んだら、次のステップに進みましょう。
- 各設備の構造と機能を1つずつ理解する(屋内消火栓 → スプリンクラー → …)
- 共通する加圧送水装置(消防ポンプ)のしくみを学ぶ
- ポンプや配管の機械基礎(全揚程・摩擦損失など)を押さえる
- 法令で設置基準を学ぶ
- 工事・整備の実務知識を身につける
- 甲種は製図(水力計算・配管設計)が加わる
まずは次の記事で屋内消火栓設備の構造と機能を詳しく見ていきます。
まとめ問題
この記事の内容が頭に入っているか、チェックしてみましょう。
第1問
水系消火設備5つのうち、人の操作なしに自動で放水が始まる設備はどれか。
(1)屋内消火栓設備と屋外消火栓設備
(2)スプリンクラー設備と水噴霧消火設備
(3)水噴霧消火設備と動力消防ポンプ設備
(4)スプリンクラー設備と屋内消火栓設備
第2問
水が消火剤として優れている理由として、誤っているものはどれか。
(1)比熱が大きく、燃焼物の温度を効率よく下げられる
(2)蒸発すると体積が約1,700倍になり、酸素を遮断できる
(3)電気を通さないため、電気火災にも安全に使える
(4)安価で大量に入手でき、人体にも無害である
第3問
水系消火設備に共通する構成として、水が放水口に届くまでの流れで正しいものはどれか。
(1)加圧送水装置 → 水源 → 配管 → 放水口
(2)水源 → 配管 → 加圧送水装置 → 放水口
(3)水源 → 加圧送水装置 → 配管 → 放水口
(4)配管 → 水源 → 加圧送水装置 → 放水口
第4問
水噴霧消火設備が油火災に有効な理由として、最も適切なものはどれか。
(1)放水量が屋外消火栓設備より多いため
(2)霧状の水が油面で乳化効果を発揮し、可燃性蒸気の発生を抑えるため
(3)配管内の水圧が他の設備より高いため
(4)ポンプの全揚程が最も大きいため
第5問
5つの水系消火設備のうち、屋外消火栓設備の代替として設置できる設備はどれか。
(1)屋内消火栓設備
(2)スプリンクラー設備
(3)水噴霧消火設備
(4)動力消防ポンプ設備