結論から言います。
配管の中を水がどう流れ、どれだけエネルギーを失うか――これを計算するのが配管の流体力学です。水系消火設備のポンプ選定や配管設計で「なぜこのポンプ出力が必要なのか」「なぜこの口径なのか」を理解するには、連続の式・ベルヌーイの定理・ハーゼンウィリアムズ式の3つが欠かせません。
「圧力・流体の基礎|パスカルの原理とボイルの法則」の記事では"止まった流体"の話をしましたが、今回は"流れている水"の話です。消防ポンプの全揚程計算に直結する内容なので、しっかり押さえましょう。
連続の式 ─ 「入る水の量=出る水の量」
連続の式とは?
配管の途中で水が消えたり増えたりすることはありません。ホースの一方から入った水は、必ず同じ量が反対側から出てきます。これを式にしたのが連続の式(連続の方程式)です。
Q:流量 [m³/s] A:断面積 [m²] v:流速 [m/s]
配管の断面積が変わっても、流量Qは変わりません。つまり:
太い管(断面積大)→ 流速は遅い
細い管(断面積小)→ 流速は速い
身近なイメージ ─ ホースの先をつまむ
庭でホースに水を流しているとき、先端を指でつまむと勢いよく水が飛びますよね。あれは断面積が小さくなったことで流速が上がったからです。水の量(流量Q)自体は変わっていません。
消防設備でも同じことが起きています。配管の口径が途中で細くなれば、流速が上がります。逆に太くなれば、流速は下がります。
A = 大
v = 遅い
A = 小
v = 速い
計算例
問題:内径50mmの配管を流速2 m/sで水が流れている。この配管が内径25mmに絞られたとき、流速は何m/sになるか。
解き方:
- A₁ × v₁ = A₂ × v₂ を使う
- 断面積 A = π/4 × d² なので、直径の比で考える
- d₁ = 50mm、d₂ = 25mm → 直径は1/2
- 断面積は直径の2乗に比例するので、A₂ = A₁ × (1/2)² = A₁/4
- A₁ × 2 = (A₁/4) × v₂
- v₂ = 2 × 4 = 8 m/s
直径が半分になると、断面積は1/4になり、流速は4倍になります。口径選定が重要な理由がここにあります。
ベルヌーイの定理 ─ 「流体のエネルギー保存則」
ベルヌーイの定理とは?
摩擦がない理想的な流れでは、流体が持つエネルギーの合計は一定です。これがベルヌーイの定理です。
流体のエネルギーは3つの形で存在します:
P/ρg + v²/2g + h = 一定
P:圧力 [Pa] ρ:水の密度(1000 kg/m³) g:重力加速度(9.8 m/s²)
v:流速 [m/s] h:基準面からの高さ [m]
ここで出てくる「水頭」(すいとう)という言葉は、エネルギーを"水柱の高さ"に換算したものです。圧力も、速度も、高さも、すべて「メートル(m)」の単位で統一して比べられるのがポイントです。
3つの水頭を理解する
消防設備での意味
ベルヌーイの定理が消防設備で重要な理由は、次の2つの現象を説明するからです。
1. 管が細くなると圧力が下がる
連続の式で「管が細くなると流速が上がる」ことがわかりました。ベルヌーイの定理によれば、流速が上がると、その分だけ圧力が下がります。
これは「ポンプの種類と性能」で解説した渦巻ポンプのケーシングの原理と逆の関係です。ケーシングでは流路が広がることで流速が下がり、圧力が上がるのでしたね。
2. 高いところに水を送ると圧力が下がる
1階のポンプから10階の消火栓に水を送る場合、位置水頭が増える分だけ圧力水頭が減ります。つまり、高い場所ほど水圧が低くなるということです。
これが消防ポンプの全揚程計算で「落差(実揚程)」を加算する理由です。高い場所に水を届けるには、その高さ分のエネルギーを上乗せしなければなりません。
速度水頭↑ ← → 圧力水頭↓
(流速が上がる代わりに圧力が下がる)
位置水頭↑ ← → 圧力水頭↓
(高さが増える代わりに圧力が下がる)
ベルヌーイの定理の限界
ベルヌーイの定理は「摩擦がない理想状態」を前提としています。しかし、現実の配管では水と管壁の摩擦でエネルギーが失われます。この失われる分が次に解説する摩擦損失です。
現実の配管に適用するときは、ベルヌーイの定理に摩擦損失の項を追加します:
hf:摩擦損失水頭 [m](管の摩擦で失われるエネルギー)
摩擦損失 ─ 「配管を流れるたびに水はエネルギーを失う」
摩擦損失とは?
水が配管の中を流れると、管壁との摩擦や水流の乱れによってエネルギーが熱に変わって失われます。この失われたエネルギーを水頭(m)で表したものが摩擦損失水頭(まさつそんしつすいとう)です。
ポンプは、この摩擦損失の分だけ余分にエネルギーを出さなければなりません。だから、摩擦損失を正しく計算できなければ、ポンプの必要揚程もわからないのです。
摩擦損失の2つの種類
摩擦損失に影響する4つの要素
摩擦損失の大きさを決める要素は4つです。試験では「何が増えると損失が大きくなるか」がよく問われます。
| 要素 | 損失への影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 流量(Q) | Q↑ → 損失↑↑ | 流量の約1.85乗に比例。流量が2倍なら損失は約3.6倍 |
| 管の内径(d) | d↑ → 損失↓↓↓ | 内径の約4.87乗に反比例。口径を1サイズ上げるだけで損失が激減 |
| 管の長さ(L) | L↑ → 損失↑ | 長さに正比例。2倍の長さなら損失も2倍 |
| 管の粗さ(C値) | C↑ → 損失↓ | 内面が滑らかな管(C値が大きい)ほど摩擦が小さい |
特に注目すべきは管の内径の影響です。内径の約4.87乗に反比例するため、口径がわずかに変わるだけで摩擦損失は劇的に変化します。これが配管口径の選定が非常に重要な理由です。
ハーゼンウィリアムズ式 ─ 「消防設備の摩擦損失計算」
なぜこの式を使うのか
摩擦損失を計算する公式はいくつかありますが、消防設備の分野ではハーゼンウィリアムズ式(Hazen-Williams式)が標準的に使われています。
理由はシンプルで、水の流れに特化した実用的な計算式だからです。常温の水(消火用水)を扱う消防設備にぴったりの式というわけです。
ハーゼンウィリアムズ式
配管1mあたりの摩擦損失水頭を求める公式:
Q:流量 [L/min]
C:管の粗さ係数(C値)── 大きいほど滑らか
d:管の内径 [mm]
公式をまるごと暗記する必要はありません。大切なのは、4つの変数が摩擦損失にどう影響するかという関係性です。
C値(管の粗さ係数)
C値は管の内面の滑らかさを数値化したものです。新品の管は滑らかですが、古くなってサビや付着物が増えると表面が粗くなり、C値は下がります。
| 管の種類 | C値 | 特徴 |
|---|---|---|
| 配管用炭素鋼鋼管(SGP) | 80 | 経年でサビやすい |
| 圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG) | 100 | SGPより高圧対応 |
| ステンレス鋼管(SUS) | 100〜120 | サビにくく長寿命 |
| 硬質塩化ビニル管(VP) | 150 | 最も滑らか・腐食なし |
C値が大きい管ほど滑らかで摩擦損失が小さくなります。たとえば、同じ条件でSGP(C=80)とVP管(C=150)を比べると、VP管のほうが摩擦損失は大幅に小さくなります。
ただし、消防設備の配管には耐火性や耐圧性の要件もあるため、摩擦損失だけで管種を選ぶわけではありません。
計算例
問題:内径40mmの鋼管(C=100)に130 L/minの水を流す。配管の長さが50mのとき、摩擦損失水頭はいくらか。
解き方:
- まず1mあたりの損失を求める
- h = 6.05 × 10⁵ × 1301.85 / (1001.85 × 404.87)
- 1301.85 ≒ 8,142
- 1001.85 ≒ 5,012
- 404.87 ≒ 8,318万(8.318 × 10⁷)
- h = 6.05 × 10⁵ × 8,142 / (5,012 × 8.318 × 10⁷)
- h ≒ 0.0118 m/m
- 総摩擦損失 = 0.0118 × 50 = 約0.59 m
50mの配管で約0.6mの摩擦損失です。これは「ポンプが0.6m分余計に水を押し上げる力を出さないといけない」という意味です。
等価管長 ─ 「バルブやエルボも直管に換算」
等価管長とは?
実際の配管にはまっすぐな部分だけでなく、曲がり(エルボ)、分岐(T字管)、バルブなどの管継手(かんつぎて)が数多く存在します。これらの箇所では水流が乱れて、余分な損失(局部損失)が発生します。
この局部損失を簡単に計算するために使うのが等価管長(とうかかんちょう)という考え方です。
管継手で発生する損失を
「同じ損失を生む直管の長さ」に換算した値
たとえば、「90°エルボの等価管長 = 1.5m」というのは、そのエルボを通過するときの損失が、直管1.5m分の摩擦損失と同じということです。
主な管継手の等価管長(目安)
| 管継手の種類 | 等価管長の目安 |
|---|---|
| 90°エルボ | 口径の約30〜50倍 |
| 45°エルボ | 口径の約15〜25倍 |
| T字管(分岐) | 口径の約40〜60倍 |
| 仕切弁(全開) | 口径の約7〜10倍 |
| 逆止弁 | 口径の約100〜150倍 |
※等価管長は口径や製品によって異なります。実際の設計ではメーカーのデータを使います。
総配管長の求め方
摩擦損失の計算に使う配管の長さは、直管部分だけでなく管継手の等価管長も加えた「総配管長」を使います。
この総配管長をハーゼンウィリアムズ式のLに代入する
全揚程の計算 ─ 「ポンプに必要な力を求める」
全揚程とは
ここまで学んだ流体力学の知識は、最終的に全揚程(ぜんようてい)の計算に集約されます。全揚程とは「ポンプが水に与えなければならないエネルギーの合計」を水頭(m)で表したものです。
「加圧送水装置と附属装置」の記事でも触れましたが、改めて計算式を確認しましょう。
h₁:落差(実揚程)── ポンプから最遠・最高の放水口までの垂直距離
h₂:配管の摩擦損失水頭 ── ハーゼンウィリアムズ式で求めた値
h₃:放水圧力換算水頭 ── ノズル先端で必要な圧力をmに換算
▼ h₁:落差(高さ分のエネルギー)
▼ h₂:摩擦損失(配管で失われるエネルギー)
▼ h₃:放水圧力(ノズルから水を出す力)
消火栓ノズル(最上階)
ベルヌーイの定理で考えると、ポンプが与える圧力エネルギーは、位置水頭の変化(h₁)、摩擦による損失(h₂)、放水に必要な圧力(h₃)の3つに振り分けられるということです。
圧力と水頭の換算
消防設備では圧力を MPa(メガパスカル)で表すことが多いですが、全揚程計算では m(メートル)を使います。換算式は次のとおりです:
(正確には 0.1 MPa = 10.2 m。試験では 0.1 MPa = 10 m で計算してOK)
たとえば、「屋内消火栓設備の構造と機能」で学んだ2号消火栓のノズル放水圧力は0.25 MPa以上です。これを水頭に換算すると 0.25 × 100 = 25 m になります。
まとめ
2. ベルヌーイの定理 ── 圧力水頭+速度水頭+位置水頭=一定。流速UP→圧力DOWN、高さUP→圧力DOWN
3. 摩擦損失 ── 管径↑→損失激減、流量↑→損失増大、管が長い→損失増大、C値が大きい→損失減少
4. ハーゼンウィリアムズ式 ── 消防設備の摩擦損失計算の標準式。C値は管の粗さ係数
5. 等価管長 ── エルボやバルブの局部損失を直管の長さに換算して合算する
6. 全揚程 ── H = h₁(落差)+ h₂(摩擦損失)+ h₃(放水圧力)。すべての知識がここに集約される
理解度チェック!確認問題
問1:内径60mmの配管を流れている水が、内径30mmの配管に入ったとき、流速はどう変化するか。
(1)変化しない
(2)2倍になる
(3)4倍になる
(4)8倍になる
問2:ベルヌーイの定理について、正しいものはどれか。
(1)管の断面積が小さくなると、流速が上がり圧力も上がる
(2)管の断面積が小さくなると、流速が上がり圧力は下がる
(3)水を高い場所に送ると、位置水頭が増え圧力水頭も増える
(4)摩擦のある実際の配管でもエネルギーの合計は常に一定である
問3:ハーゼンウィリアムズ式に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)流量が増えると摩擦損失は増大する
(2)管の内径が大きくなると摩擦損失は減少する
(3)C値(管の粗さ係数)が大きいほど摩擦損失は大きくなる
(4)管の長さが2倍になると摩擦損失も2倍になる
問4:消防ポンプの全揚程の計算について、考慮する必要がないものはどれか。
(1)ポンプから最上階の消火栓までの高さ(落差)
(2)配管の摩擦損失水頭
(3)ノズル先端で必要な放水圧力
(4)配管に使用する金属の融点
問5(応用):同じ流量の水を送る場合、配管用炭素鋼鋼管(SGP:C=80)から硬質塩化ビニル管(VP:C=150)に変更すると、摩擦損失はどのように変化するか。その理由も含めて正しいものはどれか。
(1)摩擦損失は増加する。VP管は軽量で強度が低いため
(2)摩擦損失は減少する。VP管は内面が滑らかでC値が大きいため
(3)摩擦損失は変化しない。管の材質は摩擦損失に影響しないため
(4)摩擦損失は増加する。VP管は熱に弱く水との摩擦が大きいため