甲種5類/乙種5類

避難器具の点検・整備と試験方法|降下テスト・器具別チェックポイントをわかりやすく解説

結論から言います

避難器具の点検は、「いざというとき本当に使えるか」を確認する作業です。

消防法第17条の3の3に基づいて、避難器具は機器点検(6ヶ月に1回)総合点検(1年に1回)の2段階で点検します。機器点検では「見た目」と「動き」をチェックし、総合点検では実際に荷重をかけて降下テストを行います。

火災時に「使おうとしたら壊れていた」では命に関わります。だからこそ、定期的に点検して異常を早期発見し、必要なら整備(部品交換・注油など)を行う――これが甲種5類・乙種5類の重要な業務です。

それでは、点検の種類・具体的な確認項目・器具別のポイント・整備の内容を順番に見ていきましょう。

点検の種類と頻度

避難器具の点検は、消防法第17条の3の3と消防庁告示の点検要領に基づいて行います。

避難器具の点検体系
機器点検(6ヶ月に1回)
① 外観点検
→ 目視で損傷・腐食・設置状況を確認

② 機能点検
→ 操作部品を動かして正常動作を確認

総合点検(1年に1回)
③ 総合的な機能確認
→ 実荷重で降下テストを実施
→ 降下速度・展張状態を測定
→ 実際の使用条件に近い形で確認

報告の頻度

点検結果の報告先は管轄の消防署です。報告の頻度は建物の種類で異なります。

建物の種類 報告頻度
特定防火対象物 1年に1回
非特定防火対象物 3年に1回

この点検報告制度については「点検報告制度とは?消防法第17条の3の3をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

外観点検の確認項目

外観点検は目視で器具と設置環境の異常を発見する点検です。すべての避難器具に共通する確認項目を整理します。

器具本体の確認

確認項目 判定基準
変形・損傷 ひび割れ・曲がり・破損がないこと
腐食・さび 著しい腐食がないこと(表面の軽微なさびは経過観察)
塗装の剥離 防錆塗装が著しく剥がれていないこと
ボルト・ナット 緩み・脱落がないこと
溶接部 亀裂・剥離がないこと

設置環境の確認

確認項目 判定基準
降下空間 障害物(看板・植栽・駐輪等)がないこと
操作面積 0.5m×0.5m以上の操作スペースが確保されていること
降着面 平坦で障害物がなく、安全に着地できること
開口部 開閉が容易で、寸法が基準を満たしていること
標識・表示 器具名・使用方法の標識が見やすい状態であること
格納箱 変形・腐食がなく、開閉がスムーズであること

設置場所の基準(降下空間・操作面積・開口部の寸法)については「避難器具の設置場所と降下空間|開口部・操作面積・取付部の基準をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

取付部の確認

取付部は避難器具の安全性を左右する最も重要な部分です。

  • 取付金具の変形・腐食・緩みがないか
  • 取付部が主要構造部(柱・梁・床など)に固定されているか
  • コンクリートアンカーの引き抜けがないか
  • 間仕切り壁やALC板など強度不足の部材に取り付けられていないか

機能点検の確認項目

機能点検は実際に部品を操作して正常に動作するか確認する点検です。ただし、荷重をかけた降下テストは行いません(それは総合点検で実施します)。

共通の確認項目

確認項目 確認方法
操作装置 ロック解除・レバー操作がスムーズにできるか
可動部 回転部・摺動部が円滑に動くか(引っかかりがないか)
ロープ類 キンク(ねじれ)・摩耗・変色・素線切れがないか
ベルト・着用具 劣化・ほつれ・金具の破損がないか
格納状態 所定の位置に正しく格納されているか

ハッチ用避難はしごの機能確認

ハッチ用避難はしごは操作手順が多いため、機能点検でも実際に操作確認を行います。

  1. 上ぶたを開ける → スムーズに開くか
  2. はしごを展張する → 自動展張なら自重で開くか
  3. 下ぶたを開ける → 連動して開くか
  4. はしごの横さん(踏みさん)に変形・溶接割れがないか
  5. 格納がスムーズにできるか

総合点検の内容

総合点検は実際の使用条件に近い状態で器具の性能を確認する点検です。これが避難器具の点検で最も重要な部分です。

降下テスト(荷重試験)

砂袋などのおもりを使って実荷重での降下テストを行います。人が乗って降りる代わりに、所定の荷重をかけて器具の性能を確認します。

降下テストの流れ
Step 1 器具を使用状態にセット(展張・取付)

Step 2 所定の荷重(砂袋等)をかける

Step 3 降下させて速度・動作を確認

Step 4 各部に異常(変形・異音・引っかかり)がないか確認

Step 5 器具を格納状態に戻す

器具別の総合点検ポイント

器具の種類によって確認すべき内容が変わります。ここからは、試験に出やすい主要器具を詳しく見ていきます。

緩降機の点検ポイント

緩降機は調速器でロープの降下速度を制御する器具です。調速器が正しく機能しないと、急速落下や途中停止の危険があります。

緩降機の構造については「緩降機・救助袋の構造と機能|調速器・交互式・垂直式・斜降式をわかりやすく解説」を参照してください。

外観・機能点検

確認箇所 確認内容
調速器 外観の損傷・油漏れ・異音がないか
ロープ キンク・摩耗・素線切れ・変色がないか
着用具 ベルトの劣化・縫い目のほつれ・金具の変形がないか
取付具 固定式/半固定式の取付状態・ボルトの緩みがないか
リール ロープの巻き取り・繰り出しがスムーズか

総合点検(降下速度の確認)

緩降機の総合点検では降下速度の測定が最重要です。

項目 基準値
降下速度 16cm/秒 〜 150cm/秒
試験荷重 100kgの荷重をかけて測定
動作 途中で停止・急加速しないこと

降下速度が16cm/秒未満だと遅すぎて避難に時間がかかりすぎ、150cm/秒を超えると速すぎて着地時に危険です。この範囲に入っていることを確認します。

注意

緩降機は交互式(1台で2人が交互に降下)が主流です。片側にロープを送ると反対側が上がる仕組みなので、両方のロープで降下テストを実施する必要があります。

救助袋の点検ポイント

救助袋は布製の袋の中を滑り降りる器具です。袋の破れやカビが致命的な欠陥になります。

外観・機能点検

確認箇所 確認内容
袋本体 破れ・穴・縫い目のほつれ・カビ・変色がないか
取付金具 腐食・変形・ボルトの緩みがないか
支持枠 変形・損傷がないか(垂直式の入口枠)
展張ロープ 摩耗・切断・結び目の緩みがないか
誘導ロープ 斜降式の角度調整ロープに異常がないか

総合点検(展張テスト)

救助袋の総合点検では実際に展張して降下通路を確認します。

  1. 展張 — 袋を降ろして完全に展開できるか
  2. 入口部 — 支持枠がしっかり固定され、入口が十分に開いているか
  3. 降下通路 — 袋内部にねじれ・つぶれがないか
  4. 着地部 — 出口が地面に接し、安全に脱出できるか
  5. 荷重テスト — 砂袋を滑らせてスムーズに降下するか

垂直式と斜降式の違い

垂直式は二重構造の袋の中をらせん状に降下するため、袋内部のらせん構造が正常か確認します。斜降式は斜めのシュートなので、角度(おおむね45度)と固定アンカーの状態を確認します。

避難はしごの点検ポイント

避難はしごには固定式・立てかけ式・つり下げ式・ハッチ用の4タイプがあります。タイプごとに確認箇所が少し異なります。

避難はしごの種類については「避難はしご・すべり台・その他の避難器具|4タイプの構造と横さん間隔をわかりやすく解説」を参照してください。

共通の確認項目

確認箇所 確認内容
横さん(踏みさん) 変形・曲がり・溶接割れがないか
縦さん 変形・腐食がないか
横さん間隔 25cm〜35cmの等間隔が維持されているか
突子(壁当て) 壁面との間隔を保つ突起が正常か
固定金具 ボルト・ナットの緩み・脱落がないか

タイプ別の追加確認

タイプ 追加確認事項
固定式 壁面の固定ボルトに緩みがないか
立てかけ式 すべり止め(ゴム脚)が劣化していないか
つり下げ式 つり下げ金具・フックの変形がないか
ハッチ用 上ぶた・下ぶたの開閉、自動展張機構の動作

総合点検

荷重をかけた状態で各部の安全性を確認します。はしごの使用荷重は130kgです。横さんに荷重をかけて変形・破損がないことを確認します。

その他の器具の点検ポイント

すべり台

  • すべり面の腐食・摩耗・凹みがないか
  • 手すりの固定状態(ボルトの緩み・溶接割れ)
  • 基礎部分の沈下・傾きがないか
  • 総合点検では実際にすべらせてスムーズに降下するか確認

避難ロープ

  • ロープの直径12mm以上が維持されているか(摩耗で細くなっていないか)
  • 結び目(こぶ)の間隔が適切か
  • 取付金具の固定状態

避難タラップ・避難橋

  • 金属部分の腐食・変形
  • 固定ボルトの緩み
  • 避難橋は隣接建物側の受け部も確認

整備の内容

点検で異常が見つかった場合、整備を行って正常な状態に戻します。

主な整備作業

整備内容 対象・内容
注油・グリスアップ 緩降機の調速器、可動部品の潤滑
ロープ交換 摩耗・素線切れ・キンクのあるロープを新品に交換
部品交換 着用具のベルト、ゴム脚、パッキン等の消耗品
防錆処理 腐食部分のさび落とし→防錆塗装
格納箱の補修 変形の矯正、扉の調整、錠前の交換
袋の補修 救助袋の小さな破れの縫合(大きな損傷は交換)

甲種5類と乙種5類の業務範囲

甲種5類
✅ 工事(新設・移設)
✅ 整備(部品交換・注油等)
✅ 点検
乙種5類
❌ 工事(できない)
✅ 整備(部品交換・注油等)
✅ 点検

対象となる器具は金属製避難はしご・救助袋・緩降機の3種類です。この3つは検定対象品目でもあります。それ以外の避難器具(すべり台・避難橋・避難ロープなど)は消防設備士の独占業務の対象外です。

消防設備士制度の詳細は「消防設備士制度とは?消防法第17条の5をわかりやすく解説」を参照してください。

点検表の記録

点検結果は点検票に記録して消防署に報告します。避難器具の点検票には以下の内容を記載します。

  • 設置場所(階・室名・位置)
  • 器具の種類数量
  • 点検日点検者名
  • 判定結果(○:良好 / ×:不良 / △:要注意)
  • 不良内容措置内容(整備・交換など)

点検票は消防署に提出するだけでなく、建物の関係者が保管しておく義務もあります。

他の設備の点検との比較

これまでの類で学んだ点検と比較して、避難器具の点検の特徴を整理します。

設備 総合点検の特徴
消火器(乙6) 抜き取り方式で内部点検
自火報(甲4) 加熱・加煙試験で感知器を作動
水系設備(甲1) 放水試験でポンプ性能を確認
泡設備(甲2) 発泡倍率・還元時間を測定
ガス系設備(甲3) 連動試験で安全シーケンスを確認
避難器具(甲5) 実荷重で降下テストを実施

避難器具の点検は、他の設備と違って「人が実際に使う動作を再現する」ことが特徴です。消火設備は水や薬剤を出して性能を測りますが、避難器具は「降りる」「滑る」という物理的な動作そのものを確認します。

まとめ問題

最後に理解度チェックです。

【問題1】避難器具の機器点検と総合点検について、正しいものはどれか。

(1)機器点検は1年に1回、総合点検は3年に1回実施する
(2)機器点検は6ヶ月に1回、総合点検は1年に1回実施する
(3)機器点検は3ヶ月に1回、総合点検は6ヶ月に1回実施する
(4)機器点検と総合点検はどちらも1年に1回実施する

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正解:(2)
消防法に基づき、機器点検は6ヶ月に1回、総合点検は1年に1回実施します。(1)の「1年/3年」は点検頻度ではなく報告頻度(特定/非特定)の話です。

【問題2】緩降機の総合点検における降下速度の基準値として、正しいものはどれか。

(1)10cm/秒 〜 100cm/秒
(2)16cm/秒 〜 150cm/秒
(3)20cm/秒 〜 200cm/秒
(4)30cm/秒 〜 120cm/秒

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正解:(2)
緩降機の降下速度は16cm/秒〜150cm/秒の範囲内であることが基準です。16cm/秒未満では避難に時間がかかりすぎ、150cm/秒を超えると着地時に衝撃が大きすぎて危険です。

【問題3】救助袋の総合点検で確認する事項として、最も適切でないものはどれか。

(1)袋を展張して降下通路にねじれ・つぶれがないことを確認する
(2)支持枠が固定され、入口が十分に開いていることを確認する
(3)袋内部の温度センサーが正常に作動することを確認する
(4)砂袋を滑らせてスムーズに降下することを確認する

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正解:(3)
救助袋に温度センサーは付いていません。救助袋は布製のシュートであり、電子部品は使用しません。(1)(2)(4)はいずれも救助袋の総合点検で実際に確認する項目です。

【問題4】乙種5類の消防設備士が行える業務として、正しいものはどれか。

(1)緩降機の新設工事と整備
(2)救助袋の整備と点検
(3)すべり台の新設工事
(4)避難はしごの新設工事と点検

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正解:(2)
乙種5類は整備と点検はできますが、工事(新設・移設)はできません。工事ができるのは甲種5類だけです。(1)(4)は工事が含まれるので乙種ではできません。(3)のすべり台は消防設備士の独占業務の対象外です(対象は金属製避難はしご・救助袋・緩降機の3種類のみ)。

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