避難器具の設置義務は、消防法施行令第25条で判定します。ただし、「用途・対象階・収容人員の3条件」だけでは足りません。条文には5つの基準があり、下階の用途、無窓階、特定主要構造部、直通階段の数も関係します。
判定は4段階に分ける
- 令25条1項の5基準で、設置義務の有無を判定する
- 令25条2項1号で、必要個数を算定する
- 同号の適応表で、設置できる器具を選ぶ
- 規則26条で、個数の減少・設置不要の条件を確認する
どの器具を設置できるかは「避難器具の全体像と適応表」、器具の構造は「緩降機・救助袋」「避難はしご・すべり台」で整理しています。
共通して除かれる階
令25条1項は、各号の対象から避難階と11階以上の階を除いています。
- 避難階:直接地上へ通じる出入口がある階
- 11階以上の階:令25条の避難器具設置基準から除かれる階
通常は1階が避難階ですが、敷地の高低差などにより別の階が避難階になることがあります。また、「11階以上は危険だから特別避難階段で代替する」と令25条が理由まで規定しているわけではありません。ここでは、条文上の除外として押さえます。
「2階〜10階と地階ならすべて対象」ではない
各号によって、2階から対象になるもの、3階以上だけを対象にするもの、地階を対象にするものが異なります。共通除外を確認した後、次の5基準へ進みます。
令25条1項の5つの設置基準
| 号 | 用途 | 対象階 | 収容人員 |
|---|---|---|---|
| 1号 | 別表第一(6)項 | 2階以上又は地階 | 20人以上。一定用途が下階にある場合は10人以上 |
| 2号 | 別表第一(5)項 | 2階以上又は地階 | 30人以上。一定用途が下階にある場合は10人以上 |
| 3号 | (1)〜(4)項、(7)〜(11)項 | 2階以上又は地階。ただし、特定主要構造部を耐火構造とした建築物の2階を除く | 50人以上 |
| 4号 | (12)項、(15)項 | 3階以上又は地階 | 3階以上の無窓階又は地階は100人以上、その他は150人以上 |
| 5号 | 前4号に当たらない、別表第一の防火対象物 | 原則3階以上。一定の(2)・(3)項用途は2階以上 | 直通階段が2以上ない階で10人以上 |
1号:(6)項は20人、下階条件で10人
(6)項には病院、診療所、社会福祉施設、幼稚園など複数の用途区分があります。対象は2階以上又は地階で、収容人員20人以上が基本です。
ただし、下階に(1)〜(4)項、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項又は(15)項の用途がある場合は、基準が10人以上になります。「(6)項は常に20人」とだけ覚えると、この括弧書きを落とします。
2号:(5)項は30人、下階条件で10人
(5)項はホテル・旅館だけではなく、共同住宅や寄宿舎なども含む区分です。対象は2階以上又は地階で、収容人員30人以上が基本です。
1号と同じ一定用途が下階にある場合は、基準が10人以上になります。「ホテルは30人」と用途の一例だけで整理せず、(5)項全体と括弧書きを確認します。
3号:50人と耐火建築物2階の例外
(1)〜(4)項と(7)〜(11)項は、2階以上又は地階で収容人員50人以上が基準です。ただし、特定主要構造部を耐火構造とした建築物の2階は、この3号の対象から除かれます。
劇場・飲食店・百貨店だけでなく、学校、図書館、蒸気浴場など(7)〜(11)項も3号に含まれます。
4号:100人と150人を分ける
工場などの(12)項と事務所などの(15)項は、3階以上又は地階が対象です。
- 3階以上の無窓階又は地階:100人以上
- そのほかの対象階:150人以上
旧記事の「事務所は100人以上」という一律の説明は誤りです。無窓階・地階か、それ以外かで基準が変わります。
5号:直通階段が2以上ない階は10人
5号は、前4号で設置対象にならない場合を補う基準です。原則として別表第一の防火対象物の3階以上の階で、その階から避難階又は地上に直通する階段が2以上設けられておらず、収容人員10人以上なら対象になります。
(2)項・(3)項の防火対象物と、(16)項イで2階に(2)項又は(3)項用途の部分があるものは、2階から対象です。また、避難上有効な開口部を持たない壁で区画された部分がある場合は、その区画部分からの直通階段も確認します。
5号を忘れると判定が逆転する
たとえば共同住宅の3階で収容人員20人なら、2号の30人には届きません。しかし、直通階段が1つだけなら、5号の10人以上に該当し、設置義務が生じる場合があります。
収容人員は用途別に算定する
令25条の人数は、単なる在館者の実測値ではありません。消防法施行規則第1条の3の表により、従業者数、客席、病床、居住者数、床面積など、用途に応じた方法で算定します。
複合用途の防火対象物では、各用途部分を同じ用途の一つの防火対象物とみなして算定し、必要に応じて合算します。具体的な建物では用途区分、階、区画ごとの収容人員資料を確認してください。
必要個数は令25条2項1号で算定
設置義務に該当した後、必要個数を算定します。個数の根拠は消防法施行令第25条第2項第1号です。旧記事が示していた「施行規則第27条で個数を算定」は条番号が違います。
| 令25条1項の区分 | 基本個数 |
|---|---|
| 1号・2号・5号 | 100人以下は1個以上。100人を超えると、100人まで増すごとに1個追加 |
| 3号 | 200人以下は1個以上。200人を超えると、200人まで増すごとに1個追加 |
| 4号 | 300人以下は1個以上。300人を超えると、300人まで増すごとに1個追加 |
端数を含む人数帯ごとに1個加えるため、計算上はそれぞれ「100人・200人・300人で切り上げ」と考えられます。ただし、先に1項の設置義務に該当していることが前提です。
個数算定の例
| 条件 | 区分 | 減免前の個数 |
|---|---|---|
| (6)項・3階・45人 | 1号 | 1個以上 |
| 百貨店・3階・200人 | 3号 | 1個以上。201人なら2個以上 |
| 事務所・4階の無窓階・310人 | 4号 | 2個以上 |
| 共同住宅・3階・20人・直通階段1つ | 5号 | 1個以上 |
これらは条文の読み方を示すため、条件を単純化した例です。実際には避難階、下階用途、複合用途、区画、条例、規則26条の減免も確認します。
器具の適応表も令25条にある
設置できる避難器具の種類は、令25条2項1号の表で、1項の号区分と地階・2階・3階・4〜5階・6階以上の組合せにより定められています。
旧記事の「施行規則26条が適応表」という整理は誤りです。現行の規則26条は避難器具の設置個数の減免、規則27条は避難器具に関する基準の細目です。
規則26条の減免は条件ごとに読む
規則26条には、算定人数の読み替え、階段数などの控除、一定条件での設置不要が定められています。「耐火構造で2方向避難なら免除」と一行でまとめることはできません。
算定人数を2倍に読み替える条件
次の2条件をともに満たす階では、令25条2項1号の100人・200人・300人を、それぞれ200人・400人・600人に読み替えて個数を算定できます。
- 特定主要構造部を耐火構造としたものであること
- 直通階段を避難階段又は特別避難階段としたものが2以上設けられていること
単に「直通階段が2つある」だけでは、この読み替え条件を満たしません。現在の甲種第五類の公式公開問題でも、この2条件が確認されています。
避難階段などの数を差し引く規定
建築基準法令により必要とされる直通階段を、一定の屋外避難階段、要件を満たす屋内避難階段又は特別避難階段とした場合は、算定個数からその階段数を差し引くことができます。差引後が1未満なら、その階に避難器具を設置しないことができます。
このほか、所定の渡り廊下、屋上広場に設けた避難橋、用途別の区画・内装・スプリンクラー・バルコニー・避難経路などを組み合わせた減免があります。条件と効果が別々なので、建物図面を見ずに「屋外階段が2つなら必ず免除」と判断してはいけません。
公式公開問題で確認できる論点
消防試験研究センターが現在公開している第五類の問題では、設置義務について次の論点を確認できます。
- 甲種:算定人数を2倍に読み替えるときの、特定主要構造部と階段の条件
- 乙種:設置義務は防火対象物全体ではなく階ごとに判定し、地階でも義務が生じる場合があること
公式問題を転載したものではなく、公開問題から学習項目を要約しています。
判定手順
- 令別表第一の用途区分を確定する
- 避難階又は11階以上の階かを確認する
- 階・下階用途・無窓階・特定主要構造部・直通階段を確認する
- 規則1条の3で収容人員を算定する
- 令25条1項の1〜5号を順番に判定する
- 令25条2項1号で基本個数と適応する器具を確認する
- 規則26条の減免、条例、所轄消防機関の運用を確認する
- 規則27条と消防庁告示の設置細目を確認する
降下空間、操作面積、避難空地などは「避難器具の降下空間・操作面積」で扱います。
まとめ
- 設置義務は令25条1項の5基準で判定する。
- 避難階と11階以上の階は、令25条の対象から共通して除かれる。
- (6)項は20人、(5)項は30人が基本だが、一定用途が下階にあると10人になる。
- 3号は50人で、特定主要構造部を耐火構造とした建築物の2階に例外がある。
- (12)・(15)項は、無窓階又は地階の100人と、その他の150人を分ける。
- 前4号に当たらなくても、直通階段が2以上ない階では5号の10人基準を確認する。
- 基本個数は令25条2項1号、減免は規則26条、設置細目は規則27条。
- 耐火構造や直通階段だけで、一律に設置不要になるわけではない。
次に読む記事
- 避難器具の全体像と適応表 ── 第五類の対象と器具選定
- 避難はしご・すべり台の構造 ── 突子・横桟とその他の器具
- 降下空間・操作面積 ── 器具別の設置寸法
- 避難器具の点検・整備 ── 点検項目と確認方法
参考資料・一次情報
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 ── 第25条
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」 ── 第1条の3・第26条・第27条
- 消防試験研究センター「過去に出題された問題」
- 消防設備士試験 甲種の公開問題(PDF)
- 消防設備士試験 乙種の公開問題(PDF)
本記事は試験学習用の整理です。個別の建物では、用途・区画・収容人員・階段・建築時期・自治体条例などを設計図書と現行法令で確認し、所轄消防機関や有資格者の判断に従ってください。
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