結論から言います。
避難器具の設置義務は、施行令第25条で規定されています。設置が必要かどうかは3つの条件で判断します。
- 条件1:別表第一に掲げる防火対象物であること
- 条件2:避難階及び11階以上の階ではないこと
- 条件3:その階の収容人員が用途別の基準値以上であること
基準となる収容人員は用途によって4段階に分かれ、病院・福祉施設が最も厳しい20人以上、事務所・工場など一般建物が最も緩い100人以上〜です。ただし、耐火構造で2方向避難が確保されている場合は減免規定で個数を減らしたり、設置を免除できます。
設置義務の全体像 ── 3つの判定条件
避難器具が必要かどうかは、3つの条件をすべて満たした場合に設置義務が発生します。1つでも当てはまらなければ、その階には避難器具を設置しなくてもOKです。
それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。
条件1:別表第一の防火対象物であること
これは「消防用設備等の設置及び維持」で学んだ通り、施行令別表第一に掲げられたすべての防火対象物が対象です。劇場、百貨店、病院、ホテル、学校、事務所、工場など、ほとんどの建物が該当します。
一般の戸建て住宅は別表第一に含まれないため、避難器具の設置義務はありません。
条件2:避難階及び11階以上の階ではないこと
避難器具の設置義務は「避難階」と「11階以上の階」を除くすべての階が対象です。つまり、2階〜10階と地階が設置対象になります。
条件3:収容人員が基準値以上であること
ここが避難器具の設置義務の最大のポイントです。他の消火設備(屋内消火栓やスプリンクラー等)は延べ面積で設置義務が決まりますが、避難器具は各階の収容人員で決まります。
避難器具 = 各階の収容人員(その階にいる人数)で判断
避難器具は「人を逃がす」ための設備なので、人数が基準になるのは理にかなっています。
収容人員の基準 ── 用途別4段階
施行令第25条1項の表で、建物の用途に応じた収容人員の基準が定められています。用途が危険なほど、少ない人数で設置義務が発生します。
| 段階 | 対象用途 | 収容人員 |
|---|---|---|
| 最も厳しい | (6)項:病院・福祉施設・幼稚園等 | 20人以上 |
| 厳しい | (5)項イ:ホテル・旅館 | 30人以上 |
| 標準 | (1)〜(4)項:劇場・百貨店・飲食店等 | 50人以上 |
| 緩い | (5)項ロ〜(15)項:共同住宅・学校・事務所・工場等 | 100人以上〜 |
なぜ用途によって基準が異なるのか
避難器具は「人が安全に逃げるための設備」です。基準が厳しくなるのは、その用途の避難困難度が高いからです。
| 用途 | 厳しい理由 |
|---|---|
| 病院・福祉施設 | 患者・高齢者・乳幼児など自力避難が困難な人が多い。少人数でも全員避難に時間がかかる |
| ホテル・旅館 | 宿泊者は就寝中で建物に不慣れ。火災発見・避難開始が遅れやすい |
| 劇場・百貨店 | 不特定多数が出入りし、建物の構造を把握していない。パニックのリスクもある |
| 事務所・工場 | 関係者が中心で建物構造を熟知。避難訓練も行われ、冷静な避難が期待できる |
「避難器具の全体像と分類」で紹介した適応表のA・B・Cグループと同じ考え方です。避難が困難な用途ほど、少ない人数から避難器具が必要になるというのが基本原則です。
「建物全体で合算」ではないという点を間違えないようにしましょう。
地階の設置義務
地階(地下階)も避難器具の設置対象です。地階は地上に直接出られないため、階段が使えなくなった場合の避難が特に困難です。
地階の場合、避難器具として設置できるのは避難はしご(固定式・立てかけ式)や避難橋など、地上に向かって移動できる器具に限られます。緩降機や救助袋は「上から下に降りる」器具なので、地階からの避難には使えません。
設置個数の算定 ── 施行規則第27条
設置義務がある階に何個の避難器具を置くかは、施行規則第27条で定められています。
算定の基本ルール
- 設置個数は各階ごとに算定する(ビル全体ではない)
- 設置義務がある階には最低1個の避難器具が必要
- 収容人員が多い階ほど、追加の避難器具が必要になる
- 用途が危険なほど、同じ人数でも多くの器具が必要
計算の考え方
設置個数の算定は、施行規則第27条の表に基づいて行います。基本的な考え方は次の通りです。
STEP 2:施行規則27条の表で、用途区分に応じた基準を確認する
STEP 3:基準に従い個数を算定する(端数は切り上げ)
STEP 4:減免規定を適用する(該当する場合)
たとえば、百貨店((4)項)の3階に収容人員200人がいる場合を考えてみましょう。
- STEP 1:収容人員 = 200人
- STEP 2:(4)項は「50人以上で設置義務」→ 設置義務あり
- STEP 3:施行規則27条の表に従い算定 → 200人規模なら2個程度の避難器具が必要
- STEP 4:減免規定に該当するかを確認
設置する器具の種類は、「避難器具の全体像と分類」で紹介した適応表(施行規則第26条)に従って選びます。百貨店の3階なら、すべり台・避難はしご・救助袋・緩降機などが使えます。
減免規定 ── 設置を免除・軽減できる条件
施行令第25条2項には減免規定が定められています。一定の安全条件を満たす建物では、避難器具の設置個数を減らしたり、設置そのものを免除できます。
減免の基本的な考え方
避難器具は「階段が使えなくなったときの代替手段」です。つまり、階段での避難が十分に確保されていれば、避難器具の必要性は低くなります。
減免条件の詳細
| 条件 | 効果 |
|---|---|
| 主要構造部が耐火構造で、2以上の直通階段がある | 設置個数を減少できる |
| 屋外避難階段または特別避難階段が2以上ある | 避難器具の設置を免除できる |
| バルコニー等を通じて隣接建物に避難できる構造 | 設置個数を減少できる |
なぜ「2以上の階段」がポイントなのか
避難器具が必要になるのは「階段が使えないとき」です。しかし、階段が2つ以上あれば、1つが煙で使えなくなってももう1つの階段で避難できる可能性が高くなります。
さらに、屋外階段や特別避難階段は煙が侵入しにくい構造になっているため、安全性がより高いと判断されます。だから減免の効果も大きくなるわけです。
特別避難階段:附室(防煙区画された前室)を経由する構造。煙が階段室に入りにくい
屋外避難階段:建物の外側に設置。煙の影響を受けにくい
屋内避難階段:建物内部の階段。防火区画されているが、煙のリスクはある
安全度が高い階段ほど、減免の効果が大きくなります。
減免の落とし穴 ── 収容人員が多い場合
減免規定は便利ですが、収容人員が多い階では減免が適用されない場合があります。たとえば、耐火構造で2方向避難を確保していても、その階の収容人員が著しく多い場合は、減免なしで避難器具の設置が必要になります。
これは当然です。いくら階段が2つあっても、数百人が一度に階段で避難するのは現実的ではないからです。
設置義務と適応表の関係
設置義務の判定と、実際にどの器具を設置するかは別の問題です。
- 施行令25条で設置義務と個数を判定
- 施行規則26条の適応表で、その階に使える器具を選定(→ 全体像の記事で解説済み)
- 施行規則26条の2〜27条で、設置場所・降下空間・標識等の技術基準を確認(→ 次の記事で解説)
他の消火設備との設置基準の違い
これまで学んできた他の設備と比較すると、避難器具の設置基準は独特な特徴があります。
| 設備 | 設置基準の基本 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 屋内消火栓 | 延べ面積 | 施行令11条 |
| スプリンクラー | 延べ面積 + 階数 | 施行令12条 |
| 自火報 | 延べ面積 | 施行令21条 |
| 避難器具 | 各階の収容人員 | 施行令25条 |
消火設備や警報設備は「どれだけの面積を守るか」が基準ですが、避難器具は「何人を逃がすか」が基準です。目的が「人を助ける」ことに直結しているため、面積ではなく人数で判断するというわけです。
間違えやすい5つのポイント
| # | 間違い | 正しくは |
|---|---|---|
| 1 | 収容人員は建物全体で合算する | 各階ごとに判定する |
| 2 | 1階にも避難器具が必要 | 避難階(通常は1階)は除外 |
| 3 | 11階以上は特に厳しい基準がある | 11階以上は除外(特別避難階段で対応) |
| 4 | 地階は設置義務がない | 地階も設置義務あり |
| 5 | 耐火構造なら必ず設置免除 | 耐火構造だけでは不十分。2方向避難の確保も必要 |
まとめ
- 避難器具の設置義務は施行令第25条で規定。3つの条件で判断する
- 避難階と11階以上は除外。対象は2階〜10階と地階
- 基準は各階の収容人員。面積ではなく「人数」で判断するのが特徴
- 用途別4段階:病院等20人 > ホテル30人 > 劇場等50人 > 事務所等100人〜
- 設置個数は各階ごとに算定。収容人員が多い階ほど多く必要
- 減免規定:耐火構造 + 2方向避難(特に屋外階段・特別避難階段)で個数削減・免除
- 適応表(どの器具を使うか)は全体像の記事で確認
次の記事では、避難器具の設置場所と降下空間の具体的な基準を解説します。
理解度チェック問題
【問題1】避難器具の設置義務に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)避難器具の設置義務は、建物全体の収容人員で判断する。
(2)避難階には、収容人員にかかわらず避難器具の設置義務がない。
(3)11階以上の階には、通常の設置基準に加えて追加の避難器具が必要である。
(4)地階には避難器具の設置義務がない。
【問題2】避難器具の設置義務における収容人員の基準として、正しいものはどれか。
(1)病院((6)項)── 収容人員50人以上で設置義務が発生する。
(2)ホテル((5)項イ)── 収容人員20人以上で設置義務が発生する。
(3)百貨店((4)項)── 収容人員50人以上で設置義務が発生する。
(4)すべての防火対象物に共通して、収容人員100人以上で設置義務が発生する。
【問題3】避難器具の減免規定に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)主要構造部が耐火構造で、直通階段が2以上設けられている場合は、設置個数を減少させることができる。
(2)特別避難階段が2以上設けられている場合は、避難器具の設置を免除できる。
(3)主要構造部が耐火構造であれば、階段の数にかかわらず設置を免除できる。
(4)屋外避難階段は、煙の影響を受けにくいため、屋内避難階段より減免の効果が大きい。
【問題4(応用)】次の建物について、避難器具の設置義務の有無を判断する場合、設置義務がある階の組み合わせとして正しいものはどれか。
建物の概要:
・主要構造部は耐火構造、直通階段は1つ
・1階:事務所(避難階)、収容人員80人
・2階:飲食店((3)項)、収容人員60人
・3階:事務所((15)項)、収容人員40人
・12階:事務所((15)項)、収容人員150人
(1)2階のみ
(2)2階と3階
(3)2階と12階
(4)2階、3階、12階