避難器具の点検では、器具本体だけでなく、近づけるか、操作できるか、安全に降下できるか、使用後に元の状態へ格納できるかまで確認します。
点検は二つに分ける
- 機器点検:6か月に1回。周囲、標識、器具本体、取付具・支持部、格納状況を確認する
- 総合点検:1年に1回。器具を使用状態にし、取付け等・降下・格納を確認する
消防庁の「別表第15 避難器具の点検の基準」「点検要領第15」「避難器具点検票」を軸に、点検項目と器具別の確認方法を整理します。器具の構造は「避難器具の全体像」、設置寸法は「降下空間・操作面積」を参照してください。
点検周期と報告周期は別
消防法第17条の3の3は、防火対象物の関係者に消防用設備等の定期点検と、その結果の消防長又は消防署長への報告を求めています。避難器具の点検期間は平成16年消防庁告示第9号で定められています。
| 区分 | 期間 | 目的 |
|---|---|---|
| 機器点検 | 6か月に1回 | 配置、損傷、周囲、機能などを、外観又は簡易な操作で確認する |
| 総合点検 | 1年に1回 | 全部又は一部を作動・使用させ、総合的な機能を確認する |
点検を実施する周期と、結果を消防機関へ報告する周期は同じではありません。報告は、特定防火対象物が1年に1回、その他の防火対象物が3年に1回です。点検結果は報告年でなくても維持台帳へ記録します。
延べ面積1,000m²以上の特定防火対象物、延べ面積1,000m²以上で消防長又は消防署長が指定する非特定防火対象物、特定一階段等防火対象物では、消防設備士又は消防設備点検資格者に点検させる必要があります。制度全体は「消防用設備等の点検報告制度」で確認してください。
点検基準・点検要領・点検票の役割
| 資料 | 役割 |
|---|---|
| 別表第15 | 何を確認し、どの状態を良否判定の基準にするかを定める |
| 点検要領第15 | 目視、操作、器具の使用など、具体的な点検方法と留意事項を示す |
| 別記様式第15 | 点検結果、不良内容、措置内容、器具の種別などを記録する |
旧記事は機器点検を「外観点検+機能点検」の二つへ分け、総合点検を一律の実荷重試験としていました。しかし、避難器具の公式点検票は、機器点検を五つの区分、総合点検を三つの区分で整理しています。
機器点検の5区分
- 周囲の状況
- 標識
- 器具本体
- 取付具及び支持部
- 格納状況
周囲の状況
周囲は、設置場所、操作面積等、開口部、降下空間、避難空地の順に確認します。
- 設置場所:容易に接近でき、室の出入口が施錠されておらず、器具の所在が分かること
- 操作面積等:器具に応じた面積があり、操作を妨げる障害物がないこと
- 開口部:容易かつ安全に開放でき、必要寸法と踏台などが確保されていること
- 降下空間:ひさしや看板、電線などが降下を妨げず、必要な立体空間があること
- 避難空地:必要な広さがあり、障害物がなく、安全な広場・道路などへ通じること
操作面積は器具共通の0.5m四方ではありません。避難はしご・緩降機などは器具の水平投影面積を除いて0.5m²以上、各辺0.6m以上、救助袋は幅・奥行各1.5m以上が基本です。
標識
位置標識と使用方法の標識が適正に設けられ、変形、損傷、脱落、汚損がなく、他の物品で隠れていないことを確認します。位置標識は縦0.12m以上・横0.36m以上が基本です。
器具本体の機器点検
「錆がないか」だけでなく、器具ごとに確認する部位が指定されています。
| 器具 | 主な点検部位 | 確認の要点 |
|---|---|---|
| 避難はしご | 縦棒、横桟、突子、結合部、可動部、つり下げ金具 | 変形・損傷・腐食、滑り止め、結合の緩み、可動部の機能 |
| 緩降機 | 調速機、連結部、ロープ、着用具、緊結部 | 調速機の外形と機能、ロープ・着用具の摩耗や劣化、結合状態 |
| すべり台 | 底板、側板、勾配、手すり | 表面の平滑さ、段差・隙間、滑降を妨げる変形や腐食 |
| すべり棒 | 棒本体、上下の固定部 | 表面の平滑さ、変形・損傷・腐食、固定状態 |
| 避難ロープ | ロープ本体、結合部、つり下げ金具 | ほつれ、著しい摩耗・吸湿、結び目と取付状態 |
| 避難橋 | 床板、手すり、接合部、可動部 | 安全な長さ、滑り止め、転落防止、可動部の機能 |
| 避難用タラップ | 踏み板、手すり、接合部、可動部 | 滑り止め、固定部分、回転部・折りたたみ部の機能 |
| 救助袋 | 本体布、展張部材、縫合せ部、保護装置、結合部、可動部 | 切傷・裂け・ほつれ・著しい摩耗、薬品や油による劣化、展張機構 |
緩降機は調速機を手動で往復させる
機器点検では、調速機を固定し、ロープを手動で往復させます。ロープが円滑に走行し、適度の抵抗感があり、不安定な抵抗感がないことを確認します。
- 調速機に著しい打痕、錆、封印部の異常、油漏れがないこと
- 注油を禁止するものに注油の痕跡がないこと
- ロープに損傷、著しい糸切れ・摩耗、吸湿による劣化、錆がないこと
- 着用具に薬品、油、錆、かびなど、強度を低下させるものが付着していないこと
- ロープと着用具の緊結部が堅固で、分解した痕跡がないこと
緩降機の構造と各部名称は「緩降機・救助袋の構造」で整理しています。
避難はしごとハッチ
避難はしごでは、縦棒、横桟、突子、結合部、可動部、つり下げ金具を確認します。ワイヤロープ・繊維製ロープの縦棒では、ほつれや糸切れも対象です。
避難器具用ハッチは、上蓋・下蓋を容易に開閉できること、変形・損傷・著しい腐食がないこと、排水措置が適正であること、使用方法と警告ラベルが適正であることを確認します。
救助袋
救助袋は、本体布の長さ、下部出口と降着面の間隔、本体布・展張部材・縫合せ部・保護装置・結合部・可動部を確認します。
- 切傷、裂け傷、破れ、ほつれ、著しい摩耗がないこと
- 著しい吸湿、むれ、変色がないこと
- 薬品、油、錆、かびなど強度を低下させるものが付着していないこと
- 縫合せ部に糸切れ、著しい摩耗、緩みがないこと
- 回転部、折りたたみ部、伸縮部が円滑に動くこと
取付具・支持部・格納状況
取付具は、変形、損傷、腐食、ねじれ、曲がり、固定部材の緩みや脱落を確認します。アンカーネジは、点検要領の呼び径別トルク値又は設計・製品仕様と照合し、トルクレンチなどで確認します。
- 可動部:回転部が円滑で、結合部に過大な横方向の遊びがないこと
- 支持部:変形、損傷、錆、腐食、ボルト・ナットの緩みや脱落がないこと
- 固定環:斜降式救助袋の固定環に土砂がなく、保護蓋を容易に開けられること
- 格納箱:変形、損傷、著しい腐食、雨水の浸入がなく、蓋を容易に開閉できること
- 格納状態:器具が容易に使用でき、取付具が使用を妨げない状態で格納されていること
支持部を「主要構造部だけ」と一律に判定せず、設計図書、取付方法、固定ベース、補強方法を確認します。
総合点検は取付け・降下・格納を確認する
総合点検は、機器点検の内容を完全に行った後に実施します。避難器具を実際の使用状態にして機能を確認し、点検終了後は使用に支障がない元の状態へ戻します。
一律の砂袋荷重試験ではない
別表第15の総合点検は「器具の取付け等」「降下」「格納」の3項目です。点検要領は器具の使用による確認を示しており、すべての器具へ100kg・130kg・300kgのおもりを掛ける手順ではありません。
| 器具 | 総合点検の要点 |
|---|---|
| 避難はしご | 円滑に伸長・展開して適正に取り付け、器具を使用して降下し、変形なく元の状態へ格納できること |
| 緩降機 | 安全環を止め金具で締め、取付具へ確実に取り付ける。着用具を装着して人が降下し、降下距離と時間から速度を確認する |
| すべり台・すべり棒 | 取付けや固定状態を確認し、器具を実際に使用して円滑な降下と安全な着地を確認する |
| 避難ロープ | 円滑に伸長し、下端が降着面から0.5m以下となること、足掛かり等に異常がなく安全に降下できること |
| 避難橋・避難用タラップ | 適正に架設・展開し、安全に渡る又は降下でき、円滑に格納できること |
| 救助袋 | 上部・地上の点検者が協力して展張し、人が使用方法に従って降下する。降下速度、衝撃、出口、張力、格納を確認する |
緩降機の降下点検
緩降機の総合点検では、長い方の着用具が降着面からプラスマイナス0.5mの範囲になることを確認した後、着用具を装着して人が降下します。
- 短い方のロープ側の着用具を頭からかぶり、リングが胸の中央になるように装着する
- 二本のロープを握って外壁へ出て、体重をロープへかけてつり下がる
- 壁面へ向き、体が安定したらロープから手を離して降下する
- 降下距離と降下時間から速度を算出し、降下後に器具本体・取付具を機器点検する
点検要領の判定は、平均的な降下速度が毎秒0.8~1.0m、最高速度が毎秒1.5m以内です。旧記事の「16~150cm/秒」や「100kgのおもりで測定」は、現行の降下点検手順ではありません。
消防庁の安全通知は、緩降機の降下点検を原則2人以上で行い、相互に安全確認すること、ロープの長短を確認すること、開口部から出るときに急激な荷重をかけないこと、体が安定してから降下することを求めています。
救助袋の展張・降下点検
斜降式救助袋では、上部点検者が格納箱を開けて袋本体を降ろし、地上点検者が誘導綱を扱って展張します。入口金具、袋本体、展張部材、下部支持装置、固定環などを正しい手順で組み立てます。
- 袋本体が障害物へ引っ掛からず展張できること
- 入口金具と取付具が確実で、袋本体と入口金具の結合に異常がないこと
- 下部出口が無荷重の状態で地盤面などから0.5m以下であること
- 降下者の荷重がかかったとき、力の作用が不均等にならないこと
- 人が降下したとき、速度が適正で衝撃が緩やかであること
降下時は上部と地上にそれぞれ1人以上を配置し、作業服や手袋などで危害防止を図ります。垂直式救助袋も、斜降式の点検方法・判定方法を基礎に、器具の構造に応じて確認します。
不良を見つけたときの整備
点検票には不良内容と、点検時に行った措置内容を記載します。告示・点検要領に「すべて3日以内に修繕」という一律期限はありません。危険な状態を放置せず、関係者へ報告して使用可否を管理し、製造者の取扱説明書、認定仕様、設計図書に従って整備します。
- 調速機やロープへ独自判断で注油しない
- 救助袋を一般的な布製品と同じ方法で縫い直さない
- ボルト・アンカーを外形だけで選ばず、材質、強度、寸法、締付け条件を確認する
- 整備後は該当部分を再確認し、使用に支障のない状態へ復旧する
金属製避難はしご、救助袋、緩降機の工事・整備に関する甲種第五類と乙種第五類の範囲は「避難器具の全体像」、消防設備士と点検資格者の違いは「消防設備士制度」で整理しています。
避難器具点検票の記録
別記様式第15の点検票は、設置階・設置場所ごとに、点検項目を機器点検と総合点検へ分けて記録します。
- 点検年月日、点検者、所属会社
- 設置階、設置場所、器具の種別・内容
- 正常は○、不良は×とする判定
- 不良内容と点検時の措置内容
- 使用した測定機器の機器名、型式、校正年月日、製造者名
点検票に独自の「共通8項目+固有10項目」や「試験荷重表示」という区分はありません。公式様式の項目名に沿って記録します。
確認問題
問題1
避難器具の総合点検では、すべての器具へ所定の砂袋荷重を掛ければよいでしょうか。
答え:よくありません。 器具を使用状態にし、器具別の方法で取付け等・降下・格納を確認します。
問題2
緩降機の降下点検における平均的な降下速度と最高速度の判定値は何でしょうか。
答え:平均毎秒0.8~1.0m、最高毎秒1.5m以内です。
問題3
機器点検を省略し、総合点検だけを行ってよいでしょうか。
答え:いけません。 点検要領は、機器点検の内容を完全に行った後に総合点検を実施するとしています。
これらは公式問題の転載ではなく、消防庁の点検基準・点検要領をもとに作成した確認問題です。
まとめ
- 避難器具は機器点検を6か月に1回、総合点検を1年に1回行う。
- 消防機関への報告は、特定防火対象物が1年、その他が3年ごと。
- 機器点検は、周囲、標識、器具本体、取付具・支持部、格納状況の5区分。
- 総合点検は、機器点検後に取付け等・降下・格納を確認する。
- 総合点検を一律の砂袋荷重試験として扱わない。
- 緩降機は人が降下し、平均毎秒0.8~1.0m・最高毎秒1.5m以内を確認する。
- 救助袋は、上部と地上の点検者が協力して展張・降下・格納する。
- 不良内容と措置内容は公式の避難器具点検票へ記録する。
次に読む記事
- 緩降機・救助袋の構造 ── 点検部位の名称と機能
- 避難はしご・すべり台の構造 ── 縦棒・横桟・突子とその他の器具
- 降下空間・操作面積 ── 周囲の状況を判定する寸法
- 避難器具の製図 ── 甲種第五類の図面問題
参考資料・一次情報
- e-Gov法令検索「消防法」 ── 第17条の3の3
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」 ── 第31条の6
- 平成16年消防庁告示第9号(PDF) ── 点検期間
- 消防庁「消防用設備等の点検基準、点検要領、点検票」
- 別表第15「避難器具の点検の基準」(PDF)
- 点検要領第15「避難器具」(PDF)
- 別記様式第15「避難器具点検票」(PDF)
- 消防庁「避難器具(緩降機)の点検時等における留意事項」(PDF)
本記事は試験学習用の整理です。実際の点検・整備は、器具の型式、設置時期、取扱説明書、設計図書、所轄消防機関の運用を確認し、必要な資格と安全管理のもとで実施してください。
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