結論:差動式感知器は「温度の急上昇」で火災を見抜く
結論から言います。
差動式感知器とは、周囲の温度が急激に上昇したときに作動する熱感知器です。「差動」とは温度の変化量(差)で動くという意味で、一定時間内に温度が大きく上がれば「火災だ」と判断します。
前回の感知器全体像の記事で紹介したとおり、差動式は温度が安定した場所(オフィス・居室・廊下など)に向いている感知器です。
差動式にはスポット型と分布型の2つの形式があります。
甲種4類の試験では、スポット型の動作原理とリーク孔の役割、分布型の空気管式の構造が頻出です。
差動式スポット型感知器の構造
差動式スポット型は、内部に空気室(感熱室)を持つ感知器です。丸い本体を天井に取り付けて使います。
内部構造
密閉された空間。中の空気が温度変化で膨張・収縮する
② ダイヤフラム(膜)
空気室の底にある薄い金属の膜。空気の圧力で上下に動く
③ 接点
ダイヤフラムが押し上げられると接触して回路が閉じる
④ リーク孔(漏気孔)
空気室に開いた小さな穴。ゆっくりした温度変化を逃がす
動作原理 ― 火災のとき
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② 空気室の空気が急膨張
→ 膨張速度がリーク孔から逃げる速度を上回る
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③ ダイヤフラムが押し上げられる
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④ 接点が接触 → 回路が閉じて火災信号を発信
平常時の動作 ― なぜ誤報しないのか
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② 空気室の空気がゆっくり膨張
→ 膨張した空気がリーク孔から少しずつ逃げる
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③ ダイヤフラムは動かない → 作動しない
ポイントはリーク孔です。
リーク孔 ― 差動式のカギとなる部品
リーク孔(漏気孔)は、差動式スポット型を理解するうえで最も重要な部品です。試験でも繰り返し出題されます。
→ 膨張した空気がリーク孔からゆっくり逃げる
→ ダイヤフラムに圧力がかからない → 作動しない
■ 急激な温度変化(火災)
→ 空気の膨張が速すぎて、リーク孔から逃げ切れない
→ ダイヤフラムに圧力がかかる → 作動する
つまりリーク孔は、温度変化の「速さ」を判別するフィルターの役割を果たしています。この仕組みがあるから、差動式は日常的な温度変化では作動せず、火災のような急激な温度上昇だけに反応できるのです。
リーク孔が詰まるとどうなる?
リーク孔にほこりや汚れが詰まると、緩やかな温度変化でも空気が逃げられなくなります。すると暖房をつけただけでダイヤフラムが動いてしまい、非火災報(誤報)の原因になります。
逆にリーク孔が広がりすぎると、火災の急激な温度上昇でも空気が逃げてしまい、作動しない(失報)原因になります。
リーク孔の状態が差動式の信頼性を左右する――これは試験で問われるポイントです。
差動式分布型感知器の構造
差動式分布型は、天井に空気管や熱電対を張り巡らせて、広い範囲の温度変化を検出する感知器です。スポット型が「1点」の監視なのに対して、分布型は「面」の監視ができます。
分布型には空気管式と熱電対式の2つがあります。
空気管式 ― 銅管で広範囲をカバー
空気管式は、細い銅管(空気管)を天井面に張り巡らせ、管内の空気の膨張で火災を検出します。試験に最もよく出る分布型です。
外径約2mmの細い銅管。天井面に露出して敷設する
② 検出部
空気管の末端に接続。ダイヤフラム+接点+リーク孔を内蔵
③ 検出部の動作
火災→空気管内の空気が膨張→検出部のダイヤフラム変位→接点接触
動作原理はスポット型と同じ「空気の膨張→ダイヤフラム→接点」です。違いは、感熱部分が空気管全体に広がっていること。空気管が張られた範囲のどこで温度が急上昇しても検出できます。
空気管の敷設ルール
空気管の敷設には主な規定があります。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 管の材質 | 銅管(外径約2mm) |
| 敷設方法 | 天井面に露出して取付け |
| 1検出部あたりの空気管長 | 100m以下 |
| 取付面の高さ | 15m未満 |
なぜ銅管なの?
銅は熱伝導率が非常に高い金属です。周囲の温度変化を素早く管内の空気に伝えられるため、感度の良い検出ができます。また、銅は腐食に強く長期間使用できるという利点もあります。
なぜ露出して取り付けるの?
空気管を天井裏に隠してしまうと、室内の温度変化が管に伝わりにくくなります。室内側の天井面に露出させることで、火災の熱をダイレクトにキャッチできます。
熱電対式 ― 電気で温度変化を検出
熱電対式は、2種類の異なる金属を接合した熱電対を天井に複数設置し、温度変化による起電力(ゼーベック効果)で火災を検出する方式です。
熱電対式は空気管式と違い、空気の膨張ではなく電気信号で動作するため、応答速度が速いという特徴があります。ただし、試験に出る頻度は空気管式より低めです。
空気管式 vs 熱電対式
| 項目 | 空気管式 | 熱電対式 |
|---|---|---|
| 検出原理 | 空気の膨張 | 起電力(ゼーベック効果) |
| 感熱部 | 銅管(空気管) | 熱電対素子 |
| 応答速度 | やや遅い | 速い |
| 試験の出題頻度 | 高い | 低め |
スポット型 vs 分布型 ― どう使い分ける?
分布型の最大のメリットは、天井が高い広い空間でも対応できることです。スポット型は取付面の高さ8m未満までですが、分布型は15m未満まで使えます。空気管を広範囲に張り巡らせることで、1つの検出部で広いエリアをカバーできるのも利点です。
差動式感知器の弱点
差動式は優れた感知器ですが、原理上の弱点があります。
弱点1:緩慢な温度上昇に弱い
差動式は「急激な温度上昇」で作動する感知器です。逆に言えば、ゆっくりと温度が上がる火災(くすぶり火災など)ではリーク孔から空気が逃げてしまい、作動しない可能性があります。
この弱点を補うのが補償式感知器(差動式+定温式)です。差動式で捉えられない緩慢な温度上昇も、定温式の機能で「一定温度に達したら作動」というバックアップが効きます。
弱点2:温度変動が大きい場所に不向き
厨房やボイラー室のように、日常的に温度が急変する場所では、火災でなくても差動式が作動してしまう(非火災報)リスクがあります。こうした場所には定温式感知器を使います。
弱点3:リーク孔の詰まりによる誤報
先ほど説明したとおり、リーク孔にほこり等が詰まると、緩やかな温度変化でも空気が逃げられず、非火災報の原因になります。定期的な点検・清掃が欠かせません。
温度変動が大きい場所:定温式感知器を使う
リーク孔の詰まり:定期点検で清掃・確認
差動式感知器の試験方法
差動式感知器の作動試験は、加熱試験で行います。
スポット型の試験
加熱試験器を使って感知器を加熱し、受信機が正常に火災表示するか確認します。差動式スポット型は「急激な温度上昇」で作動するため、試験器で素早く加熱することが重要です(ゆっくり加熱するとリーク孔から空気が逃げて作動しない)。
分布型(空気管式)の試験
空気管式の試験には、作動試験のほかに以下の特有の試験があります。
| 試験名 | 目的 |
|---|---|
| 作動試験 | テストポンプで空気を送り、検出部が正常に作動するか確認 |
| 流通試験 | 空気管の詰まりがないか確認(空気が流れるか) |
| 接点水高試験 | 接点の間隔が適正か確認(水柱の高さで測定) |
| リーク試験 | 空気管の漏れがないか確認 |
空気管式は空気管の「詰まり」「漏れ」「接点の間隔」がすべて性能に影響するため、スポット型よりも試験項目が多くなります。
全体のまとめ
キーパーツ:空気室+ダイヤフラム+接点+リーク孔
リーク孔の役割:緩やかな温度変化を逃がすフィルター
スポット型:1点監視、取付面8m未満
分布型(空気管式):銅管で面監視、100m以下/1検出部、取付面15m未満
分布型(熱電対式):ゼーベック効果で検出、応答が速い
弱点:緩慢な温度上昇に弱い → 補償式で補う
不向きな場所:厨房・ボイラー室 → 定温式を使う
空気管式の試験:作動・流通・接点水高・リーク試験の4つ
まとめ問題
問題1:差動式スポット型感知器の動作原理に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)周囲の温度が一定の値に達したときに接点が閉じて作動する
(2)空気室内の空気が温度上昇で膨張し、ダイヤフラムを押し上げて接点が閉じる
(3)煙の粒子が光を散乱させることで作動する
(4)炎の赤外線を検出して作動する
問題2:差動式スポット型感知器のリーク孔に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)リーク孔は、緩やかな温度変化で膨張した空気を逃がす役割がある
(2)リーク孔が詰まると、日常的な温度変化でも作動する原因になる
(3)リーク孔が広がりすぎると、火災時に作動しない原因になる
(4)リーク孔は、火災時に煙を排出するための穴である
問題3:差動式分布型感知器(空気管式)に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)空気管は天井裏に隠蔽して設置しなければならない
(2)空気管の材質はアルミニウム管が使用される
(3)1つの検出部に接続する空気管の長さは100m以下とする
(4)取付面の高さが20m以上の場所にも設置できる
問題4(応用):差動式感知器を設置する場所として、最も不適切なものはどれか。
(1)事務所の執務室
(2)ホテルの客室
(3)厨房
(4)廊下