結論から言います
防火対象物点検報告制度とは、一定の建物について「防火管理がちゃんと行われているか」を専門家が点検し、消防署に報告する仕組みのことです。
「あれ?点検報告制度なら、もう消防法17条の3の3で習ったけど……」と思った方、いい疑問です。あちらは設備の点検(消火器やスプリンクラーがちゃんと動くか?)。こちらは管理の点検(避難経路が確保されているか?防火管理者は選任されているか?消防計画は作られているか?)です。
設備がいくら正常でも、避難経路に荷物が山積みだったら意味がない――この"管理の穴"を塞ぐための制度です。
なぜこの制度ができたの?
この制度が生まれた直接のきっかけは、2001年の新宿歌舞伎町ビル火災です。雑居ビルの火災で44人が亡くなるという大惨事でした。
調査の結果、浮かび上がったのは消防用設備の問題ではなく、防火管理のずさんさでした。
- 階段に大量の荷物が放置され、避難経路がふさがっていた
- 防火管理者が選任されていなかった
- 避難訓練が一度も行われていなかった
- 防火扉の管理がまったくされていなかった
つまり、消火器があっても、スプリンクラーがあっても、"管理"がダメなら人は死ぬということが証明されてしまったのです。
この事件を受けて2002年に消防法が改正され、防火対象物点検報告制度が創設されました。設備の点検だけでなく、防火管理そのものを第三者がチェックする仕組みが必要だと認識されたわけですね。
根拠条文(消防法第8条の2の2)
(前略)防火対象物(中略)の管理について権原を有する者は、総務省令で定めるところにより、定期に、防火対象物における火災の予防に関する専門的知識を有する者で総務省令で定める資格を有するもの(中略)に、当該防火対象物における防火管理上必要な業務等について点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。
――消防法 第8条の2の2 第1項(要約)
現代語訳
対象となる建物の管理権原者は、防火の専門知識を持つ有資格者に定期的に点検させて、結果を消防署に報告しなければならない――ということです。
ポイントは「防火管理上必要な業務等について」という部分。設備のチェックではなく、防火管理の"中身"を点検するということですね。
対象となる建物
すべての建物が対象ではありません。特に危険度が高い建物に限定されています。
ポイント
- 対象は特定防火対象物だけ。非特定は対象外です
- 「300人以上」は試験で頻出の数字。しっかり覚えましょう
- 特定一階段等防火対象物は避難経路が1本しかなく極めて危険なので、人数に関係なく対象です
設備の点検との違い
消防用設備等の点検報告(消防法17条の3の3)と混同しやすいので、違いを整理しましょう。
| 設備の点検 | 防火対象物点検 | |
|---|---|---|
| 根拠法 | 法17条の3の3 | 法8条の2の2 |
| 何を点検? | 消防用設備が動くか | 防火管理が行われているか |
| 点検する人 | 消防設備士 or 消防設備点検資格者 | 防火対象物点検資格者 |
| 報告頻度 | 特定:1年 / 非特定:3年 | 年1回 |
| 対象建物 | 消防用設備等がある建物 | 特定で300人以上 等 |
特に注意したいのは「点検する人」が違うということ。消防設備の点検は消防設備士や消防設備点検資格者が行いますが、防火対象物点検は防火対象物点検資格者という別の資格者が行います。名前が似ているので試験でもひっかけに使われます。
何を点検するの?
防火対象物点検では、防火管理の実施状況を幅広くチェックします。主な点検項目は以下のとおりです。
- 防火管理者が選任されているか
- 消防計画が作成・届出されているか
- 消防計画に基づく避難訓練が実施されているか
- 廊下・階段・避難口に障害物がないか
- 防火戸・防火シャッターが正常に閉鎖できるか
- カーテン等の防炎対象物品に防炎性能があるか
歌舞伎町ビル火災で問題になったことが、そのまま点検項目になっていますね。設備が"動くか"ではなく、建物全体の防火管理が"回っているか"を見るのがこの制度の特徴です。
防火基準点検済証と特例認定
防火基準点検済証
防火対象物点検の結果、基準に適合していると認められた建物は「防火基準点検済証」を表示できます。
これは建物の利用者に「この建物は防火管理がちゃんとされていますよ」とアピールするためのマークです。
特例認定(法8条の2の3)
さらに、3年間継続して基準に適合し、消防法令違反がない建物は、消防長又は消防署長に申請して特例認定を受けることができます。
特例認定を受けた建物は3年間、防火対象物点検と報告が免除されます。「3年間実績を積む → 3年間免除」というサイクルですね。
ただし、この間に消防法令違反があれば認定は取り消しになります。
まとめ
- 防火対象物点検は「防火管理が行われているか」の点検(消防法8条の2の2)
- 設備の点検(17条の3の3)とは別の制度。点検する人も違う
- きっかけは歌舞伎町ビル火災。設備があっても管理がずさんなら被害は拡大する
- 対象:特定防火対象物で収容人員300人以上、特定一階段等は人数不問
- 報告は年1回、防火対象物点検資格者が実施
- 3年連続で基準適合なら特例認定 →3年間点検免除
理解度チェック!まとめ問題
Q1. 対象となる建物
防火対象物点検報告制度の対象となる建物はどれか。
A)延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物
B)収容人員300人以上の特定防火対象物
C)すべての防火対象物
D)高さ31m超の高層建築物
Q2. 設備の点検との区別
防火対象物点検報告制度(消防法8条の2の2)に関する記述で正しいものはどれか。
A)消防設備士が点検を行う
B)点検対象は消防用設備等の作動状況である
C)防火対象物点検資格者が防火管理の実施状況を点検する
D)報告頻度は特定防火対象物が1年、非特定防火対象物が3年である
Q3. 制度の本質を考える(応用問題)
消防用設備等の点検報告制度(法17条の3の3)があるにもかかわらず、防火対象物点検報告制度(法8条の2の2)が別途設けられた本質的な理由はどれか。
A)消防用設備等の点検頻度が不十分だったから
B)消防設備士の数が不足していたから
C)設備が正常に動作しても、避難経路の確保や訓練の実施など防火管理自体が不適切なら被害が拡大するため
D)特定防火対象物の設備が他の建物より劣化しやすいから