結論から言います。
不活性ガス消火設備は、CO₂や窒素などの「燃えないガス」を大量に放出して、部屋の酸素濃度を下げて消火する設備です。「ガス系消火設備の全体像」で紹介した3設備のうち、最も歴史が長く、最も出題頻度が高い設備です。
この記事では、高圧式と低圧式の違い、4種類の消火剤ごとの特徴、そして安全装置の仕組みを詳しく解説します。
高圧式と低圧式 ── 貯蔵方法の違い
不活性ガス消火設備の最初の分岐点は、消火剤をどうやって貯蔵するかです。高圧式と低圧式の2種類があります。
高圧式
消火剤を常温・高圧でボンベ(容器)に貯蔵する方式です。
CO₂の場合、25℃で約6MPa(メガパスカル)の圧力がかかっています。容器1本あたりの充てん量は限られるため、大きな防護区画では何十本ものボンベを並べて使います。
4種類の消火剤すべてで高圧式が採用されています。最もオーソドックスな方式です。
低圧式
消火剤を低温・低圧で大型タンクに貯蔵する方式です。
CO₂を-18℃以下に冷却して、約2.1MPaの低い圧力で液体のまま保存します。冷凍機で常に冷やし続ける必要がありますが、1つのタンクに大量のCO₂を貯蔵できるのがメリットです。
| 比較項目 | 高圧式 | 低圧式 |
|---|---|---|
| 貯蔵温度 | 常温 | -18℃以下 |
| 貯蔵圧力 | 約6MPa(25℃) | 約2.1MPa |
| 容器の形 | ボンベ(小型・多数) | 大型タンク(1基) |
| 冷凍機 | 不要 | 必要 |
| 対応消火剤 | 全4種類 | CO₂のみ |
| 向いている規模 | 小〜中規模 | 大規模 |
CO₂消火設備(高圧式)の構造
CO₂消火設備の高圧式は、不活性ガス消火設備の中で最も基本的な構成です。ここをしっかり理解すれば、他の消火剤の設備も応用がききます。
各構成機器を詳しく見ていきましょう。
貯蔵容器(ボンベ)
高圧ガスを貯蔵する鋼製のボンベです。CO₂の場合、内容積は主に68Lのものが使われ、1本あたり約45kgのCO₂が充てんされます。
ボンベは貯蔵容器室に設置します。防護区画の外に設ける専用の部屋で、温度が40℃以下に保たれる場所に置きます。温度が上がると容器内の圧力も上がり、安全弁が作動してしまうためです。
容器弁と起動装置
容器弁は各ボンベの口に付いている弁で、通常は閉じています。火災時に起動装置からの信号で開放されます。
起動装置には2つの方式があります。
- 電気式 ── 電磁弁(ソレノイドバルブ)で容器弁を開く。最も一般的
- ガス圧式 ── 起動用ガス容器から小さなガスボンベの圧力で容器弁を開く
ガス圧式では、まず起動用ガス容器(小型のCO₂ボンベやN₂ボンベ)の弁が開き、そのガス圧で本体の容器弁を一斉に開放します。多数のボンベを同時に開ける必要がある大規模設備で使われます。
集合管
複数のボンベから出たCO₂を1本の配管に合流させる部分です。水系設備でいうポンプの吐出側にあたります。
選択弁
1つの貯蔵容器群で複数の防護区画を守る場合に使います。火災が発生した区画に通じる配管だけを開放し、他の区画には放出しないようにするための弁です。
防護区画が1つだけなら選択弁は不要です。
噴射ヘッド
防護区画の天井や壁に設置され、CO₂を部屋全体に均一に放出するためのノズルです。全域放出方式では、部屋のすみずみまでCO₂が行き渡るように複数のヘッドを配置します。
CO₂消火設備(低圧式)の構造
低圧式は高圧式のボンベ群の代わりに、1基の大型貯蔵タンクを使います。
低圧式では、CO₂がタンク内で液体の状態で保存されています。放出時には、タンク内の圧力(約2.1MPa)でCO₂が配管を通って噴射ヘッドまで押し出されます。
低圧式が選ばれるのは、防護区画が大きくてCO₂の必要量が多い場合です。高圧式だとボンベが何十本も必要になり、貯蔵容器室のスペースも巨大になります。低圧式なら1基のタンクにまとめて貯蔵できるため、省スペースです。
低圧式 → タンクの液面の高さで残量を確認する(液面計)
高圧式はボンベが満タンか空かを1本ずつ量りますが、低圧式は液面の高さで一目瞭然です。
窒素・IG-55・IG-541の構造
窒素(N₂)・IG-55・IG-541の消火設備は、基本的にCO₂高圧式と同じ構成です。貯蔵容器→容器弁→集合管→選択弁→配管→噴射ヘッドの流れは変わりません。
ただし、いくつか重要な違いがあります。
| 項目 | CO₂ | N₂・IG系 |
|---|---|---|
| 貯蔵状態 | 液化ガス(液体) | 圧縮ガス(気体) |
| 貯蔵圧力 | 約6MPa(25℃) | 約15〜30MPa |
| 容器の数 | 比較的少ない | 多い(気体は体積が大きい) |
| 低圧式 | あり | なし |
| 局所放出 | あり | なし |
| 移動式 | あり | なし |
最大の違いは貯蔵状態です。CO₂は高圧で液化できるため、液体として効率よく貯蔵できます。一方、窒素やIG系ガスは常温では液化できず、気体のまま高圧で圧縮して貯蔵します。気体は体積が大きいため、同じ量の酸素を置換するのにより多くの容器が必要になります。
4種類の消火剤の比較
| 項目 | CO₂ | N₂ |
|---|---|---|
| 成分 | CO₂ 100% | N₂ 100% |
| 貯蔵状態 | 液化ガス | 圧縮ガス |
| 人体への危険 | 非常に高い | 比較的低い |
| 必要容器数 | 少ない | 多い |
| 局所・移動式 | あり | なし |
| 項目 | IG-55 | IG-541 |
|---|---|---|
| 成分 | N₂ 50% + Ar 50% | N₂ 52% + Ar 40% + CO₂ 8% |
| 貯蔵状態 | 圧縮ガス | 圧縮ガス |
| 人体への危険 | 比較的低い | 最も低い |
| 必要容器数 | 多い | 多い |
| 局所・移動式 | なし | なし |
放出方式の詳細
全域放出方式
防護区画を密閉して、部屋全体にガスを充満させる方式です。不活性ガス消火設備のメインの方式で、4種類すべての消火剤で使えます。
全域放出方式で重要なのは部屋の密閉性です。ガスが漏れると必要な濃度に達しません。そのため、火災時には以下の装置が自動的に作動します。
- 自動閉鎖装置 ── 防護区画の開口部(窓・ドア・換気ダクト)を自動で閉じる
- 換気装置の停止 ── 空調や換気扇を自動停止する
局所放出方式(CO₂のみ)
部屋全体ではなく、燃えている対象物に直接CO₂を噴射する方式です。密閉できない場所や、防護対象が限定されている場合に使います。
局所放出方式が使えるのはCO₂だけです。CO₂は液化ガスとして貯蔵されるため、放出時に液体から気体に膨張し、対象物を覆うように滞留しやすい性質があります。一方、窒素やIG系は気体のままなので、対象物の周囲にとどまらずに拡散してしまいます。
移動式(CO₂のみ)
ホースリールとノズルを備えた据え置き型の大型消火器のような方式です。人が手動でホースを引き出し、火元に向けてCO₂を噴射します。
移動式もCO₂のみ対応です。窒素やIG系は高圧(15〜30MPa)すぎて、ホースで手持ち噴射するには危険かつ非効率です。
安全装置 ── CO₂の危険性を防ぐ仕組み
ガス系消火設備、特にCO₂消火設備は人命に関わる危険性があるため、安全装置が非常に重要です。
音響警報装置
ガス放出前に「消火ガスが放出されます。退避してください」と音声や警報音で知らせます。防護区画内だけでなく、入口付近にも設置して、人が中に入らないようにします。
遅延装置
起動信号を受けてから実際にガスが放出されるまでに20秒以上の遅延時間を設けます。この間に人が防護区画から退避するための時間です。
ただし、常時人がいない場所(無人の電気室など)では、遅延時間を短くしたり省略したりすることもあります。
放出表示灯
防護区画の入口に設置され、ガス放出中は「消火ガス放出中」と表示して点灯します。放出後に誰かが誤って入室することを防ぎます。
閉止弁(非常停止装置)
万が一、退避が間に合わず人が取り残された場合に、ガスの放出を手動で中止するための弁です。防護区画の入口付近に設置されます。
排出装置(換気装置)
消火後に防護区画内のガスを排出するための換気装置です。ガスが残ったままでは入室できないため、消火確認後に排出装置を作動させます。
ただし、常時人がいない場所(無人の機械室など)では自動起動にすることもできます。自動起動の場合でも、遅延装置と音響警報は必ず作動します。
まとめ
- 不活性ガス消火設備はCO₂・N₂・IG-55・IG-541の4種類
- 貯蔵方式は高圧式と低圧式があり、低圧式はCO₂のみ
- CO₂は液化ガス、N₂・IG系は圧縮ガスとして貯蔵する
- 局所放出方式と移動式はCO₂のみ対応
- IG-541はCO₂8%を含み、呼吸中枢を刺激して安全性を高めている
- CO₂消火設備は人体に非常に危険なため、遅延装置(20秒以上)・音響警報・閉止弁が必須
- 構成機器:貯蔵容器→容器弁→集合管→選択弁→配管→噴射ヘッド
次の記事では、ハロゲン化物消火設備の構造と機能を詳しく解説します。
理解度チェック問題
【問題1】不活性ガス消火設備の貯蔵方式に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)低圧式は、窒素消火設備とIG-541消火設備でも採用されている。
(2)高圧式のCO₂は、常温で気体のまま圧縮して貯蔵されている。
(3)低圧式のCO₂は、-18℃以下に冷却して約2.1MPaの低い圧力で貯蔵する。
(4)窒素やIG系ガスは、液化して低圧式で貯蔵するのが一般的である。
【問題2】不活性ガス消火設備の安全装置に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)CO₂消火設備の全域放出方式では、放出前に20秒以上の遅延時間を設ける必要がある。
(2)音響警報装置は、防護区画内とその入口付近に設置する。
(3)放出表示灯は、ガスの放出中に「消火ガス放出中」の表示が点灯する。
(4)閉止弁は、消火後にガスを排出するための換気装置である。
【問題3】CO₂消火設備と窒素消火設備を比較した記述のうち、正しいものはどれか。
(1)CO₂は圧縮ガスとして、窒素は液化ガスとして貯蔵する。
(2)CO₂は局所放出方式が認められているが、窒素は全域放出方式のみである。
(3)窒素の方がCO₂より人体への危険性が高いため、安全装置がより厳重である。
(4)CO₂も窒素も、高圧式と低圧式の両方の貯蔵方式が採用されている。
【問題4(応用)】ある大規模な通信機器室にCO₂消火設備を設置することになった。防護区画の容積が非常に大きく、必要なCO₂量が膨大である。この場合に低圧式を採用するメリットとして、最も適切なものはどれか。
(1)低圧式は高圧式より放出速度が速いため、大きな区画でも素早く消火できる。
(2)低圧式は冷凍機が不要なため、維持管理のコストを削減できる。
(3)低圧式は1基の大型タンクにまとめて貯蔵できるため、多数のボンベを並べるスペースが不要になる。
(4)低圧式は常温で貯蔵するため、高圧式より貯蔵容器の安全性が高い。