粉末消火設備は、粉末消火剤を貯蔵容器または貯蔵タンクに蓄え、窒素または二酸化炭素の圧力で配管へ送り、噴射ヘッドやノズルから放射する設備です。消防設備士第3類で扱い、消防法施行令第18条と消防法施行規則第21条に、放出方式・必要量・構成機器が定められています。
この記事では、現行法令に沿って、4種の粉末、全域放出方式・局所放出方式・移動式、加圧式・蓄圧式、定圧作動装置とクリーニング装置を整理します。
最初に押さえる3点
- 法令上の消火剤は、第一種・第二種・第三種・第四種粉末の4種類
- 放出方式は全域放出・局所放出・移動式の3方式
- 定圧作動装置は圧力を保ち続ける装置ではなく、設定圧力に達したとき放出弁を開く装置
現行法令が定める4種類の粉末
消防法施行規則第21条は、主成分によって粉末消火剤を次の4種類に分けています。
| 種別 | 規則第21条の定義 | 設置上の要点 |
|---|---|---|
| 第一種粉末 | 炭酸水素ナトリウムを主成分とするもの | 用途と放出方式に応じて選ぶ |
| 第二種粉末 | 炭酸水素カリウムを主成分とするもの | |
| 第三種粉末 | りん酸塩類等を主成分とするもの | 駐車部分と道路部分では第三種を使用 |
| 第四種粉末 | 炭酸水素カリウムと尿素との反応物 | 用途と放出方式に応じて選ぶ |
第三種粉末を単一の化学式だけで定義するのではなく、法令の表現は「りん酸塩類等を主成分とするもの」です。また、4種類を価格・消炎力・市場シェアで順位付けして設備を選ぶ規定ではありません。
駐車部分・道路部分の扱い
駐車の用に供される部分に全域放出方式または局所放出方式を設ける場合、消火剤は第三種粉末とします。道路の用に供される部分には全域放出方式・局所放出方式を設けず、移動式に使用する剤を第三種粉末とします。
3つの放出方式
| 方式 | 対象 | 主な構成 |
|---|---|---|
| 全域放出方式 | 防護区画の全域 | 貯蔵容器等、配管、区画内の噴射ヘッド、起動・警報装置 |
| 局所放出方式 | 防護対象物の表面 | 貯蔵容器等、配管、対象物に向けた噴射ヘッド、起動・警報装置 |
| 移動式 | 人がノズルを操作する範囲 | 貯蔵容器等、ホース、ノズル、ノズル開閉弁、ホースリール |
全域放出方式
噴射ヘッドから放射した粉末が防護区画の全域へ均一かつ速やかに拡散するように設けます。噴射ヘッドの放射圧力は0.1MPa以上とし、必要量を30秒以内に放射できる構造とします。
局所放出方式
防護対象物のすべての表面を噴射ヘッドの有効射程内に入れ、放射によって可燃物が飛散しない位置にヘッドを設けます。こちらも必要量を30秒以内に放射できる構造が必要です。
局所放出方式が認められる理由を「粉末が対象物の周囲に滞留するから」と物性だけで決めつけるのではなく、ヘッド配置、対象物の形状、壁の有無、必要量を規則第21条に沿って確認します。
移動式
固定した貯蔵容器等からホースを引き出し、人がノズルを操作して放射します。必要消火剤量とノズルの毎分放射量は粉末の種別ごとに異なります。
必要消火剤量の計算
必要量は3方式で計算方法が異なります。全方式を独自の「放出方式係数」で処理したり、開口部の加算を不要としたりすることはできません。
全域放出方式:体積と開口部で計算
| 消火剤 | 防護区画1m³当たり | 自動閉鎖装置のない開口部1m²当たりの加算 |
|---|---|---|
| 第一種粉末 | 0.60kg | 4.5kg |
| 第二種・第三種粉末 | 0.36kg | 2.7kg |
| 第四種粉末 | 0.24kg | 1.8kg |
自動閉鎖装置のない開口部がなければ、必要量は「防護区画の体積×表の値」です。該当する開口部があるときは、「開口面積×加算値」を加えます。
計算例:第三種粉末、体積240m³、閉鎖されない開口部2m²
体積分:240×0.36=86.4kg
開口部分:2×2.7=5.4kg
必要量:86.4+5.4=91.8kg以上
容器本数は製品の容器容量・充てん量・共用区画・設計条件を確認して決めます。20kgを標準と決めつけるなど、法令にない容器仕様で一律に切り上げる計算ではありません。
局所放出方式:対象物の条件で2通り
局所放出方式は、次のどちらに該当するかを先に確認し、算出量へ1.1を乗じた量以上とします。
- 燃焼面が一面に限定され、可燃物が飛散するおそれがない場合:防護対象物の表面積を使う
- 上記以外:防護空間の体積と、実際の壁面積の割合を使う
一面燃焼の場合の表面積1m²当たりの量は、第一種8.8kg、第二種・第三種5.2kg、第四種3.6kgです。
それ以外は、単位体積当たりの量を Q=X-Y(a/A) で求めます。aは防護対象物の周囲に実際に設けた壁の面積、Aは壁がない部分にも壁があると仮定した防護空間の壁面積です。X・Yは、第一種が5.2・3.9、第二種・第三種が3.2・2.4、第四種が2.0・1.5です。通信機器室では、Qに防護空間の体積を乗じた量へさらに0.7を乗じます。
局所放出方式を「体積×密度×1.4」にしない
規則第21条に1.4という放出方式係数はありません。表面積を使う場合と、Q式・防護空間体積を使う場合を分け、最後に1.1を乗じます。
複数区画と移動式
同じ防火対象物で貯蔵容器等を複数の防護区画・防護対象物に共用する場合は、それぞれについて計算した量のうち最大の量以上を貯蔵します。
| 消火剤 | 移動式:1ノズル当たりの貯蔵量 | 1ノズル当たりの毎分放射量 |
|---|---|---|
| 第一種粉末 | 50kg以上 | 45kg/分以上 |
| 第二種・第三種粉末 | 30kg以上 | 27kg/分以上 |
| 第四種粉末 | 20kg以上 | 18kg/分以上 |
加圧式と蓄圧式
粉末を搬送するガスは窒素または二酸化炭素です。ガスの持たせ方によって、加圧式と蓄圧式に分かれます。
| 項目 | 加圧式 | 蓄圧式 |
|---|---|---|
| ガスの持たせ方 | 加圧用ガスを別の容器に貯蔵し、起動時に貯蔵容器等へ導入する | 粉末と蓄圧用ガスを貯蔵容器内に保持する |
| 固有の主な機器 | 加圧用ガス容器、圧力調整器、定圧作動装置、放出弁 | 使用圧力範囲を緑色で示す指示圧力計 |
| 規則上の要点 | 圧力調整器は2.5MPa以下に調整できるもの | 一定の内圧以上となる貯蔵容器には基準適合の容器弁 |
「粉末設備のほとんどが加圧式」「加圧式が合理的」といった市場・優劣の断定ではなく、実物では貯蔵容器、別置きガス容器、圧力計、放出弁、定圧作動装置の有無から方式を確認します。
貯蔵・放出を担う構成機器
加圧用ガス容器 → 圧力調整器 → 粉末の貯蔵容器等 → 定圧作動装置・放出弁 → 選択弁・専用配管 → 噴射ヘッド
※加圧式の代表的な流れ。設備構成によって選択弁などの有無は異なります。
貯蔵容器・貯蔵タンク
貯蔵容器等には安全装置を設け、見やすい場所に、充てん消火剤量、消火剤の種類、最高使用圧力(加圧式)、製造年月、製造者名を表示します。加圧式の貯蔵容器等には放出弁を設けます。
充てん比は「容器の内容積の数値÷消火剤重量の数値」です。第一種0.85以上1.45以下、第二種・第三種1.05以上1.75以下、第四種1.50以上2.50以下と定められています。
加圧用・蓄圧用ガス
加圧用ガス容器は貯蔵容器等の直近に置き、確実に接続します。加圧用または蓄圧用ガスには窒素または二酸化炭素を使用します。
規則第21条は、粉末1kg当たりのガス量も定めています。加圧用窒素は35℃・1気圧換算で40L以上、加圧用二酸化炭素は20gにクリーニング必要量を加えた量以上です。蓄圧用窒素は同条件で10Lにクリーニング必要量を加えた量以上、蓄圧用二酸化炭素は20gにクリーニング必要量を加えた量以上です。クリーニング用ガスは別容器に貯蔵します。
定圧作動装置
加圧式では、起動後に貯蔵容器等が設定圧力へ達したとき、定圧作動装置が放出弁を開放します。貯蔵容器等ごとに設けます。
消防庁告示の定圧作動装置の基準も、常時閉止状態で、設定圧力に達したとき自動的に開放し、放出弁を開放できる構造としています。旧本文のように「粉末が減って下がる圧力を、放出中ずっと一定に保つ装置」と説明するのは正確ではありません。
クリーニング装置と排出装置
配管には残留消火剤を処理するクリーニング装置を設けます。貯蔵容器等には、残留ガスを排出するための排出装置を別に設けます。
規則はクリーニング装置の設置を求めていますが、「放出完了後に必ず自動で作動する」「残留粉末を外へ吹き飛ばす」と一律に決めてはいません。点検・復旧は設備の取扱説明、点検要領、所轄消防機関の指導に従います。
配管・選択弁
配管は専用とし、所定の強度・耐食性を持つ鋼管または銅管などを使用します。粉末とガスが著しく分離したり、消火剤が残留したりしないバルブ構造が必要です。
貯蔵容器等から最初の配管屈曲部までの距離は、原則として管径の20倍以上、配管の落差は50m以下とします。複数区画で容器を共用する場合の選択弁と、容器・選択弁間の安全装置または破壊板も確認します。
起動方式・警報・保安措置
全域放出方式・局所放出方式の起動装置は、手動式が原則です。ただし、常時人がいない防火対象物など、手動式が不適当な場所では自動式にできます。
- 手動起動装置:防護区画外の見通せる出入口付近など、操作後に退避しやすい場所へ設置
- 操作部の高さ:床面から0.8m以上1.5m以下
- 表示:粉末消火設備の起動装置であることと消火剤の種類を表示し、外面は赤色
- 自動式:感知器と連動し、自動手動切替え装置を設ける
- 音響警報:起動と連動し、消火剤放射前に遮断されず、区画内の人へ有効に報知
全域放出方式には、起動操作から放出弁の開放まで20秒以上となる遅延装置、手動起動時にその時間内は放出しない措置、放出を示す表示灯を設けます。20秒以上の遅延は、局所放出方式・移動式を含む粉末設備すべてへ一律に付ける規定ではありません。
秒単位の架空シーケンスを使わない
「0~3秒で選択弁、10~15秒で1.0MPa、30秒後に自動クリーニング」といった固定タイムラインは規則第21条の基準ではありません。法令上確認できる時間は、全域・局所の必要量を30秒以内に放射することと、全域放出の遅延を20秒以上とすることです。
点検で確認する主な箇所
消防庁の点検基準・点検要領では、粉末消火設備について機器点検と総合点検の項目が示されています。周期・方法を自己判断で固定せず、設備の方式と点検要領に沿って確認します。
- 貯蔵容器・貯蔵タンク、消火剤、容器弁、放出弁、安全装置
- 加圧用ガス容器、圧力調整器、定圧作動装置、指示圧力計
- 残留ガス排出装置、クリーニング装置
- 配管、バルブ、選択弁、噴射ヘッド
- 起動装置、音響警報装置、遅延装置、表示灯、制御盤、非常電源
- 移動式のホース、ノズル、ノズル開閉弁、ホースリール
放射後は、設備をそのまま再使用できる状態とは限りません。残留ガス・粉末の処理、清掃、消火剤とガスの再充てん、機器の復旧を有資格者・関係者が所定の手順で行います。
理解度チェック
以下は、この記事の内容を確認するための当サイト作成問題です。消防試験研究センターの公開問題を転載したものではありません。
問題1 消防法施行規則第21条が定める第二種粉末の主成分はどれか。
- 炭酸水素ナトリウム
- 炭酸水素カリウム
- りん酸塩類等
- 炭酸水素カリウムと尿素との反応物
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正解:2
第二種粉末は炭酸水素カリウムを主成分とするものです。
問題2 全域放出方式で第三種粉末を使用し、防護区画の体積が100m³、自動閉鎖装置のない開口部が2m²ある。必要量はどれか。
- 36.0kg以上
- 38.7kg以上
- 41.4kg以上
- 60.0kg以上
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正解:3
体積分は100×0.36=36.0kg、開口部分は2×2.7=5.4kgなので、合計41.4kg以上です。
問題3 加圧式粉末消火設備の定圧作動装置の役割として正しいものはどれか。
- 放出中の圧力を常に一定に調節する
- 設定圧力に達したとき放出弁を開放させる
- 配管内の残留粉末を自動で排出する
- 蓄圧式容器の使用圧力を緑色で示す
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正解:2
起動後、貯蔵容器等が設定圧力に達したとき放出弁を開放させます。4は指示圧力計です。
問題4 移動式で、1ノズル当たり30kg以上を貯蔵する粉末はどれか。
- 第一種だけ
- 第二種・第三種
- 第四種だけ
- 4種類すべて
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正解:2
第二種・第三種は30kg以上です。第一種は50kg以上、第四種は20kg以上です。
問題5 全域放出方式の粉末消火設備について正しいものはどれか。
- 必要量を10秒以内に放射する
- 噴射ヘッドの放射圧力は0.1MPa以上
- 開口部があっても消火剤は加算しない
- 起動後の遅延は10秒以上
解答を見る
正解:2
放射圧力は0.1MPa以上、必要量は30秒以内に放射します。自動閉鎖装置のない開口部は剤種別の量を加算し、遅延は20秒以上です。
まとめ
- 粉末消火剤は第一種・第二種・第三種・第四種の4種類
- 駐車部分と道路部分に使用する剤は第三種粉末
- 全域放出・局所放出は必要量を30秒以内に放射する
- 全域放出の必要量は体積で計算し、閉鎖されない開口部があれば加算する
- 局所放出は対象物の条件によって表面積式とQ式に分かれ、算出量へ1.1を乗じる
- 加圧式は圧力調整器・定圧作動装置、蓄圧式は指示圧力計が重要
- 定圧作動装置は、設定圧力に達したとき放出弁を開放する
- 配管にはクリーニング装置、貯蔵容器等には残留ガスの排出装置を設ける
第3類3設備の比較は「ガス系消火設備の全体像」、不活性ガスは「不活性ガス消火設備」、ハロゲン化物は「ハロゲン化物消火設備」で確認できます。
参考資料
- e-Gov法令検索「消防法施行令」(第13条、第18条)
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」(第21条)
- 総務省消防庁「粉末消火設備の定圧作動装置の基準」
- 総務省消防庁「不活性ガス消火設備等の噴射ヘッドの基準」
- 総務省消防庁「消防用設備等の点検基準、点検要領、点検票」
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