結論:腐食は「金属が元に戻ろうとする現象」、防食は「それを食い止める技術」
消火器の本体が赤く塗装されているのは、目立たせるためだけではありません。実は塗装そのものが防食(ぼうしょく)=さび止めの役割を果たしています。
消防設備士の試験では、腐食の原因(特にガルバニ腐食)と防食の方法(めっき・塗装・犠牲陽極法など)がよく出題されます。「なぜ異種金属を接触させてはいけないのか」「なぜステンレスはさびにくいのか」――これらの疑問に答えられるようにしておきましょう。
腐食とは?――金属が化学変化で劣化すること
腐食(ふしょく)とは、金属が周囲の環境(水・酸素・酸・アルカリなど)と化学反応を起こして、表面から徐々に溶けたり、さびたりして劣化する現象です。
鉄が赤さびになるのは、鉄が酸素と水と反応して酸化鉄に変化しているということです。金属は自然界ではもともと酸化物(鉱石)として存在していたので、腐食は「金属が元の安定した状態に戻ろうとする反応」とも言えます。
腐食の2つのタイプ
腐食は発生のメカニズムによって大きく2種類に分かれます。
乾食(かんしょく)= 化学的腐食
水分がなくても起こる腐食です。高温環境で金属が酸素や硫黄と直接反応して酸化します。
- 例:高温の炉の中で鉄が酸化してスケール(酸化皮膜)ができる
- 消火器との関連は薄いが、基礎知識として押さえておく
湿食(しっしょく)= 電気化学的腐食
水分が存在する環境で、電気化学反応によって起こる腐食です。日常で目にするさびのほとんどがこのタイプです。
- 例:雨ざらしの鉄柵が赤さびになる、海沿いの金属が激しく腐食する
- 消火器との関連が深い(湿気の多い場所に置かないルールの根拠)
ガルバニ腐食(異種金属接触腐食)――試験最頻出!
湿食の中でも特に重要なのがガルバニ腐食(異種金属接触腐食、電食とも呼ばれる)です。
ガルバニ腐食とは
2種類の金属が水分を介して電池のような状態になり、イオン化傾向の大きい(卑(ひ)な)金属が溶け出すのです。
イオン化傾向とは
金属が電子を放出してイオンになりやすい順番のことです。イオン化傾向が大きい金属ほど腐食しやすいです。
※太字は消火器関連でよく出る金属
たとえば鉄(Fe)と銅(Cu)を接触させて水分があると、イオン化傾向の大きい鉄が優先的に腐食します。
消火器との関係
消火器の部品には鉄・銅・アルミニウムなど複数の金属が使われています。これらが直接接触した状態で湿気にさらされると、ガルバニ腐食が発生するおそれがあります。
だから消火器の整備では、異種金属の接触部分にはパッキンや絶縁材を挟むこと、湿気の多い場所に設置しないことが重要なのです。
防食の方法――腐食を防ぐ4つのアプローチ
1. 被覆防食(ひふくぼうしょく)
金属の表面を別の材料で覆って、水や酸素に触れさせない方法です。もっとも一般的な防食法です。
- 塗装:消火器本体の赤い塗装がまさにこれ。見た目と防食の一石二鳥
- めっき:金属の薄い膜を電気や溶融で付ける(後述)
- ライニング:ゴムや樹脂で内面をコーティング(配管の内側などに使用)
2. 電気防食(でんきぼうしょく)
電気化学的な方法で腐食を防ぐ技術です。
犠牲陽極法(ぎせいようきょくほう):
守りたい金属よりもイオン化傾向の大きい金属を取り付けて、そちらを優先的に腐食させる方法です。
たとえば鉄製の構造物に亜鉛(Zn)の板を取り付けると、イオン化傾向は Zn > Fe なので、亜鉛が先に溶けて鉄を守ります。亜鉛が「犠牲」になって鉄を守るので「犠牲陽極法」と呼ばれます。
外部電源法:
外部から電流を流して、守りたい金属を強制的に陰極(−)にする方法です。地中に埋められたガス管や水道管の防食に使われます。
3. 環境制御
腐食が起こりにくい環境をつくる方法です。
- 除湿(湿度を下げて水分を減らす)
- 防錆油(ぼうせいゆ)の塗布
- 乾燥剤の使用
消火器を湿気の少ない場所に設置するルールは、この考え方に基づいています。
4. 耐食材料の選択
そもそも腐食しにくい金属を使う方法です。
ステンレス鋼がその代表例です。ステンレスに含まれるクロム(Cr)が空気中の酸素と反応して、表面に不動態皮膜(ふどうたいひまく)という極めて薄い酸化膜をつくります。この皮膜が金属内部への腐食の進行をブロックします。
・厚さはわずか数ナノメートル(目に見えない)
・傷がついても、酸素があれば自然に再生する
・クロムを約10.5%以上含む鋼がステンレスと呼ばれる
めっきの種類と特徴
被覆防食の中でも、試験で問われやすいめっきについて詳しく見ておきましょう。
電気めっき
電気を使って金属の薄い膜を付ける方法です。めっきしたい物を電解液に浸し、電流を流すと、めっき金属が表面に均一に析出します。
- 膜厚が薄く均一にできる
- 装飾用にも使われる(クロムめっきなど)
溶融めっき
溶かした金属の中に製品を浸してめっきする方法です。溶融亜鉛めっき(通称:ドブ漬け)が代表例です。
- 膜厚が厚く、防食効果が長持ち
- 屋外のガードレール・鉄塔・配管などに広く使われる
- 亜鉛は鉄より腐食しやすい(イオン化傾向:Zn > Fe)ので、傷がついても亜鉛が先に溶けて鉄を守る=犠牲防食効果もある
亜鉛めっきの「二重の防食効果」
亜鉛めっきが優れているのは、被覆防食と犠牲防食の2つが同時に働くからです。
消火器と腐食・防食の関係まとめ
ここまでの知識が、消火器のどんなルールにつながっているかを整理します。
- 本体容器の塗装(赤色25%以上):識別性+被覆防食
- 湿気の多い場所に設置しない:湿食(電気化学的腐食)を防ぐ
- 異種金属の接触部に絶縁材を使用:ガルバニ腐食の防止
- 点検時に塗装の剥がれをチェック:被覆防食が破れると腐食が進行する
- ステンレス製部品の使用:不動態皮膜による耐食性
まとめ問題
問題1(基礎)
腐食のうち、水分の存在下で電気化学反応によって起こるものを何と呼ぶか。
(1)乾食
(2)湿食
(3)風化
(4)酸化
問題2(ガルバニ腐食)
鉄と銅を接触させた状態で水分のある環境に置いた場合、優先的に腐食するのはどちらか。その理由として正しいものを選べ。
(1)銅が腐食する。銅のほうが硬いため
(2)鉄が腐食する。鉄のほうがイオン化傾向が大きいため
(3)銅が腐食する。銅のほうが密度が高いため
(4)両方とも同じ速さで腐食する
問題3(防食方法)
守りたい金属よりもイオン化傾向の大きい金属を取り付けて、そちらを優先的に腐食させることで本体を守る防食法はどれか。
(1)外部電源法
(2)被覆防食法
(3)犠牲陽極法
(4)不動態処理法
問題4(応用・めっき)
溶融亜鉛めっき(ドブ漬け)が鉄の防食に優れている理由として、最も適当なものはどれか。
(1)亜鉛は鉄より硬いため、表面を物理的に保護できる
(2)亜鉛の膜による被覆防食と、傷ついた際の犠牲防食の二重効果がある
(3)亜鉛は熱伝導率が低いため、鉄の温度変化を防げる
(4)亜鉛は鉄よりイオン化傾向が小さいため、鉄に電子を供給できる
問題5(応用・ステンレス)
ステンレス鋼がさびにくい理由として正しいものはどれか。
(1)表面に厚い亜鉛の層があるため
(2)鉄の含有量が極めて少ないため
(3)クロムが酸素と反応して不動態皮膜を形成するため
(4)炭素含有量が多く、硬いため