力のつりあいとモーメントは、物体が移動しない条件と回転しない条件を分けて考えるための基礎です。平面内の剛体が静止するには、力の合計だけでなく、任意の点まわりのモーメントの合計もゼロでなければなりません。
最初に押さえる6点
- 力の三要素は「大きさ・向き・作用点」
- 力は向きを持つため、ベクトルとして合成する
- モーメントの大きさは M = F × d
- d は支点から力の作用線までの垂直距離
- 静止条件は、合力ゼロと合モーメントゼロの両方
- 偶力のモーメントは M = F × d で、基準点によらない
消防試験研究センターの試験科目表では、乙種第5類・第6類の「基礎的知識(機械)」は各5問です。ただし、これは科目全体の問題数であり、力のつりあいやモーメントが毎回何問出るという意味ではありません。
力の三要素
力は、次の3つで表します。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| 大きさ | どれだけ強い力か。単位はN(ニュートン) |
| 向き | 上向き、下向き、右向きなど、力が働く方向 |
| 作用点 | 物体のどこに力が加わるか |
同じ大きさの力でも、向きや作用点が変われば物体への効果は変わります。たとえばドアでは、同じ向き・同じ大きさで押しても、蝶番に近い位置よりドアノブ付近を押す方が大きな回転効果を得られます。
力の合成と分解
複数の力を1つの力にまとめたものを合力といいます。反対に、1つの力を指定した方向の成分に分けたものが分力です。
同一直線上にある2力
- 同じ向き:大きさを足し、向きは元の力と同じ
- 反対向き:大きさの差を取り、向きは大きい方の力と同じ
右向き50Nと左向き50Nが同じ物体に働けば、合力は0Nです。ただし、力が別々の作用線上にある場合は、合力がゼロでも回転効果が残ることがあります。
角度を持つ2力
2力が同じ作用点に働く場合、平行四辺形の対角線が合力を表します。2力が直角なら、合力の大きさは三平方の定理で求められます。
例:直角に働く3Nと4N
合力 R = √(3² + 4²) = 5N
斜面の問題では、重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解するなど、扱いやすい方向へ分けて考えます。
力のつりあい
この記事では、物体が静止している静的つりあいを扱います。平面内では、力を水平方向と鉛直方向に分けて考えると整理しやすくなります。
平面内の力のつりあい
ΣFx = 0
ΣFy = 0
机の上に置いた物体には、下向きの重力と上向きの支持力が働きます。物体が静止し、ほかに鉛直方向の力がなければ、両者の大きさは等しくなります。
3力の作用線に関する条件
平面内の剛体に平行ではない3つの力だけが働いてつりあっている場合、その3力の作用線は1点で交わります。「3力なら必ず1点で交わる」と条件を省かず、平行な3力の場合とは分けて考えます。
力のモーメント
力のモーメントは、ある点または軸のまわりに物体を回転させようとする効果を表します。平面問題で力が腕に対して垂直に働く場合、その大きさは次の式で求めます。
モーメントの大きさ
M = F × d
- M:モーメント(N·m)
- F:力の大きさ(N)
- d:基準点から力の作用線までの垂直距離(m)
基準点から作用点までの距離をそのまま使えるのは、力がその距離に対して垂直に働く場合です。基準点から作用点までの距離をr、両者のなす角をθとすれば、一般には M = Fr sinθ となります。
ドアの例
蝶番から0.8m離れた位置を、ドア面に対して垂直に10Nで押すとします。
M = 10N × 0.8m = 8N·m
蝶番から0.2mの位置を同じ10Nで押せば、モーメントは2N·mです。力が同じなら、作用線までの垂直距離が大きいほどモーメントも大きくなります。
時計回りと反時計回り
平面問題では、時計回りと反時計回りのどちらかを正、もう一方を負として計算します。正負の決め方は一通りに固定されていないため、問題の指定に従います。指定がなければ、自分で決めた向きを途中で変えないことが重要です。
この記事の計算例
向きまで計算するときは反時計回りを正、時計回りを負とします。大きさだけを問う例では正の値で示します。
静止する剛体の条件
平面内の剛体が静止するには、並進方向の加速度と回転方向の角加速度がともにゼロである必要があります。そのため、次の3式を同時に満たすか確認します。
平面内の静止条件
ΣFx = 0
ΣFy = 0
ΣM = 0
合力がゼロでも、合モーメントがゼロでなければ回転のつりあいは成立しません。反対に、ある点まわりの合モーメントがゼロでも、合力が残っていれば並進方向のつりあいは成立しません。
てこの原理
支点の左右に力が働き、棒が水平につりあう単純な問題では、時計回りと反時計回りのモーメントの大きさが等しくなります。
てこのつりあい
F1 × d1 = F2 × d2
支点から2mの位置に300N、反対側に600Nが下向きに働く場合を考えます。600Nの力が支点からdメートルの位置でつりあうなら、
300N × 2m = 600N × d
d = 1m
となります。実際の構造物では棒の自重や支持反力なども考慮しますが、問題文で「棒の重さは無視する」と指定された場合は、与えられた力に絞って計算します。
偶力
偶力とは、大きさが等しく、向きが反対で、平行かつ同一直線上にない2力の組です。2力の合力はゼロですが、回転させる効果は残ります。
| 確認点 | 偶力の性質 |
|---|---|
| 2力の大きさ | 等しい |
| 2力の向き | 反対 |
| 作用線 | 平行で、同一直線上にない |
| 合力 | 0 |
| モーメント | M = F × d。基準点を変えても同じ |
ここでFは片方の力の大きさ、dは2つの作用線の間の垂直距離です。力が2つあるからといって、Fを2倍しません。
計算で間違えやすい点
- cmをmへ直していない:50cmは0.5mです。N·mで答えるときは距離をmにそろえます。
- 作用点までの斜め距離を使っている:使うのは作用線までの垂直距離です。
- 時計回りと反時計回りを同じ符号にしている:最初に決めた正負を最後まで統一します。
- 偶力のFを2倍している:M = F × d のFは片方の力です。
- 合力だけで静止と判断している:剛体では合モーメントも確認します。
オリジナル確認問題
問題1
力の三要素として正しい組み合わせはどれですか。
- 大きさ・速さ・作用点
- 大きさ・向き・作用点
- 重さ・向き・速度
- 大きさ・加速度・距離
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2。力の三要素は、大きさ・向き・作用点です。
問題2
同じ作用点に3Nと4Nの力が直角に働いています。合力の大きさはいくらですか。
- 1N
- 5N
- 7N
- 12N
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2。R = √(3² + 4²) = 5Nです。
問題3
支点から2m離れた位置に、腕に対して垂直に20Nの力を加えました。支点まわりのモーメントの大きさはいくらですか。
- 10N·m
- 20N·m
- 40N·m
- 80N·m
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3。M = 20N × 2m = 40N·mです。
問題4
支点の左3mに40N、右2mにFがそれぞれ下向きに働き、棒が水平につりあっています。棒の重さを無視するとき、Fはいくらですか。
- 20N
- 40N
- 60N
- 80N
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3。40N × 3m = F × 2mより、F = 60Nです。
問題5
平面内の剛体が静止するための条件として適切なものはどれですか。
- ΣFx = 0だけでよい
- ΣM = 0だけでよい
- ΣFx = 0、ΣFy = 0、ΣM = 0を満たす
- 力の大きさがすべて等しければよい
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3。並進と回転の両方についてつりあいを確認します。
問題6
壁掛け部を単純化し、支点から重力の作用線までの水平距離を0.15m、下向きの力を60Nとします。支点まわりのモーメントの大きさはいくらですか。
- 4N·m
- 9N·m
- 15N·m
- 90N·m
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2。M = 60N × 0.15m = 9N·mです。0.15mを1.5mと取り違えると90N·mになるため、小数点の位置を確認します。この例は力学計算を説明するための単純化であり、実際の取付部の設計条件を示すものではありません。
まとめ
- 力は大きさ・向き・作用点で表し、向きを含めて合成する
- モーメントの大きさは M = F × d で、dは作用線までの垂直距離
- 平面内の剛体の静止条件は、ΣFx = 0、ΣFy = 0、ΣM = 0
- 正負の向きは問題の指定に従い、途中で変えない
- 偶力は合力がゼロでもモーメントが残り、その大きさはF × d
続く機械分野は「荷重・応力・ひずみ」「材料の性質」「圧力・流体の基礎」で整理しています。
一次情報・参考資料
- 消防試験研究センター「試験科目及び問題数」
- NASA Glenn Research Center「Equilibrium」
- United States Naval Academy「Engineering Fundamentals」
- NIST Guide to the SI「Moment of Force or Torque」
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