甲種3類

粉末消火設備の構造と機能|加圧方式・定圧作動装置・クリーニング装置をわかりやすく解説

結論から言います。

粉末消火設備は、微細な粉末消火薬剤を加圧ガス(N₂やCO₂)の力で噴射して消火する設備です。消火器でおなじみの粉末を、設備の規模で大量に放射するイメージです。

不活性ガス消火設備」や「ハロゲン化物消火設備」と違い、粉末消火設備は消火後に粉末が残留物として残ります。その代わり、全域放出・局所放出・移動式の3方式すべてに対応しており、使い勝手の幅が広い設備です。

粉末消火設備 ── 押さえるべき3つのポイント
加圧の仕組み
粉末自体に圧力はない
加圧用ガス容器の
N₂やCO₂で噴射する
3方式すべて対応
全域放出方式
局所放出方式
移動式
クリーニング装置
放出後に配管内の
残留粉末を除去する
粉末設備ならではの機器

粉末消火設備の特徴 ── 他のガス系設備との違い

ガス系3設備の中で、粉末消火設備だけが持つ特徴を整理します。

項目 不活性ガス/ハロゲン化物 粉末
消火剤の状態 ガス(気体) 固体(粉末)
残留物 なし あり(粉末が残る)
消火原理 窒息 or 抑制 窒息+抑制のダブル効果
放出方式 制限あり 全域・局所・移動式すべて
消火速度 普通 速い
再燃のリスク 低い(ガスが充満) あり(粉末は浮遊後に沈降)

粉末消火設備の最大のメリットは消火速度の速さです。粉末が燃焼面に直接作用するため、ガス系の中で最も素早く消火できます。

一方、最大のデメリットは再燃のリスクです。粉末は噴射後に空中を浮遊しますが、やがて沈降して床に落ちます。燃焼面の粉末が薄くなると、残り火から再び燃え出す可能性があります。ガス系のように部屋全体を不活性雰囲気に保つことはできません。

粉末消火設備が選ばれる場所
粉末が残ってもいいから、コストを抑えて素早く消火したい場所に向いています。
・駐車場(車が燃えたら粉末で素早く消火)
・ボイラー室(密閉が難しく局所放出が便利)
・危険物施設(油火災にも電気火災にも対応)
サーバールームや美術品収蔵庫のように残留物が困る場所には不向きです。

粉末消火薬剤の4種類

ガス系消火設備の全体像」で紹介した4種類を、もう少し詳しく見ていきます。

種別 主成分 適応火災
第1種 炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃) B・C火災
第2種 炭酸水素カリウム(KHCO₃) B・C火災
第3種 りん酸アンモニウム(NH₄H₂PO₄) A・B・C火災
第4種 炭酸水素カリウムと尿素の反応生成物 B・C火災

第3種だけがA火災に対応する理由

第1種・第2種・第4種はいずれも炭酸水素塩がベースで、B火災(油火災)とC火災(電気火災)には有効ですが、A火災(普通火災・木材や紙など)には効果が弱いです。

第3種のりん酸アンモニウムだけが違います。加熱されるとりん酸がガラス状の被膜(メタりん酸)を形成し、燃焼面をコーティングして酸素を遮断します。この被膜効果がA火災にも有効で、冷えた後も被膜が残るため再燃防止にも効果があります。

消火器と同じ薬剤
消火薬剤の種類と性質」や「粉末消火器の構造と機能」で学んだ消火薬剤とまったく同じものです。乙6で学んだ知識がそのまま活かせます。消火器が「携帯サイズ」なら、粉末消火設備は「建物サイズ」です。

消火原理の復習 ── 窒息+抑制のダブル効果

  • 窒息効果 ── 粉末が燃焼面を覆って、炎と酸素の接触を物理的に遮断
  • 抑制効果(負触媒効果) ── 粉末が熱分解されて発生した成分が、燃焼の連鎖反応を化学的に止める

この2つの効果が同時に働くため、粉末はガス系3設備の中で最も消火速度が速いのです。

粉末消火設備の構成機器

粉末消火設備の構成は、不活性ガスやハロゲン化物とは大きく異なります。消火剤が固体(粉末)なので、「ガスの圧力で粉末を押し出す」という独自の仕組みが必要です。

粉末消火設備の構成(貯蔵→放出まで)
1
加圧用ガス容器 ── N₂またはCO₂のボンベ
ガスが粉末貯蔵容器に流入
2
粉末貯蔵容器 ── 粉末消火薬剤を貯蔵するタンク
ガス圧で粉末が押し出される
3
定圧作動装置 ── 容器内圧力を一定に保つ
4
選択弁 ── 放出先の防護区画を選択
5
配管 ── 粉末を搬送
6
噴射ヘッド ── 防護区画内に粉末を放出
消火後
7
クリーニング装置 ── 配管内の残留粉末を除去

各構成機器を詳しく見ていきましょう。

加圧用ガス容器

粉末消火設備の動力源です。粉末自体には圧力がないため、N₂(窒素)またはCO₂のガスボンベから加圧ガスを供給して粉末を押し出します。

乙6で学んだ「蓄圧式と加圧式の違い」と同じ考え方です。消火器では小さなガス容器でしたが、粉末消火設備では大型のガスボンベを使います。

粉末貯蔵容器

粉末消火薬剤を貯蔵するタンクです。不活性ガスの「貯蔵容器(ボンベ)」と違い、粉末貯蔵容器は圧力容器ではありません(蓄圧式を除く)。起動時に加圧用ガス容器からガスが送り込まれて、初めて圧力がかかります。

容器の内部には粉末がぎっしり詰まっているため、ガスが均一に行き渡るように攪拌(かくはん)する仕組みが必要です。

定圧作動装置

粉末消火設備ならではの重要な装置です。

粉末が放出されると、貯蔵容器の中身が減って内部の圧力が下がります。圧力が下がると粉末を押し出す力が弱まり、放出の勢いが途中で落ちてしまいます。

定圧作動装置は、粉末の放出に合わせて加圧ガスを追加供給し、容器内の圧力を一定に保つ装置です。最後まで安定した放出圧力を維持できます。

なぜ定圧作動装置が必要なのか
不活性ガスやハロゲン化物は消火剤自体がガス(または液化ガス)なので、容器内の圧力で自ら噴出できます。しかし粉末は固体で、自分では動けません。加圧ガスの圧力が安定しないと、粉末が均一に放出されず消火性能が落ちます。定圧作動装置は粉末消火設備の性能を支える縁の下の力持ちです。

クリーニング装置

これも粉末消火設備ならではの装置です。

消火が終わった後、配管の中には粉末が残留しています。このまま放置すると、粉末が固まって配管が詰まり、次回の使用時に放出できなくなります。

クリーニング装置は、消火後にN₂やCO₂などのガスを配管内に流して、残留粉末を吹き飛ばす装置です。放出が完了したら自動的に作動します。

試験の頻出ポイント
「定圧作動装置」と「クリーニング装置」は粉末消火設備に固有の機器です。不活性ガスやハロゲン化物には存在しません。試験では「〜は粉末消火設備に必要な装置である」の正誤を問う問題が狙われます。

蓄圧式と加圧式

粉末消火設備には、消火器と同じように蓄圧式加圧式の2つの方式があります。

加圧式(主流)

起動時に加圧用ガス容器の弁を開いて、粉末貯蔵容器にガスを送り込む方式です。通常時は粉末貯蔵容器に圧力がかかっていません。

粉末消火設備のほとんどは加圧式です。大量の粉末を扱う設備では、常時加圧しておくと容器への負担が大きく、ガス漏れのリスクも高いため、起動時だけ加圧する加圧式が合理的です。

蓄圧式

粉末貯蔵容器の中にあらかじめ加圧ガスを封入しておく方式です。起動すると、容器内の圧力ですぐに粉末が放出されます。

加圧用ガス容器が不要なのでシンプルな構成ですが、常時圧力がかかっているため定期的な圧力チェックが必要です。

項目 加圧式 蓄圧式
通常時の容器圧力 なし あり(常時加圧)
加圧用ガス容器 必要 不要
放出の速さ 加圧に数秒かかる すぐに放出開始
普及度 主流 少ない

放出方式 ── 3方式すべて対応

粉末消火設備は、ガス系3設備の中で唯一全域放出・局所放出・移動式のすべてに対応しています。

全域放出方式

防護区画を密閉して、部屋全体に粉末を噴射する方式です。噴射ヘッドから放出された粉末が空中に浮遊し、部屋全体に行き渡って消火します。

ただし、ガス系の全域放出と違い、粉末は時間が経つと沈降します。空中に浮遊している間は消火効果がありますが、床に落ちてしまうと効果が薄れます。そのため、必要量を短時間で一気に放出することが重要です。

局所放出方式

燃えている対象物に直接粉末を噴射する方式です。密閉できない場所や、防護対象が限定されている場合に使います。

粉末は固体の微粒子なので、ガスのように拡散しにくく、対象物の周囲に滞留しやすい性質があります。ハロゲン化物では認められない局所放出方式が、粉末では認められているのはこのためです。

移動式

ホースリールとノズルを使って、人が手動で粉末を噴射する方式です。大型の粉末消火器をイメージするとわかりやすいです。

放出方式の比較(ガス系3設備)
方式 不活性ガス ハロゲン化物
全域放出
局所放出 ○(CO₂のみ) ×
移動式 ○(CO₂のみ)
方式 粉末
全域放出
局所放出
移動式

安全装置

粉末消火設備の安全装置は、基本的に不活性ガス・ハロゲン化物と同じです。

  • 音響警報装置 ── 放出前に退避を警報
  • 遅延装置 ── 起動から放出まで20秒以上の遅延
  • 放出表示灯 ── 「消火剤放出中」を表示
  • 閉止弁(非常停止装置) ── 人が取り残された場合に放出を中止
  • 自動閉鎖装置 ── 全域放出方式で開口部を閉鎖

粉末自体はCO₂のように人を窒息させる危険性は低いですが、大量の粉末が噴射されると視界がゼロになり、呼吸もしづらくなります。安全装置による退避の確保は必須です。

粉末放出時の視界不良
大量の粉末が噴射されると部屋の中は真っ白になります。数十cm先も見えなくなるため、避難経路を確保する前に放出が始まると、退避できなくなる危険があります。遅延装置と音響警報で確実に退避時間を確保することが重要です。

消火器との比較

乙6で学んだ粉末消火器と、甲3の粉末消火設備は何が違うのでしょうか。

項目 粉末消火器(乙6) 粉末消火設備(甲3)
規模 携帯型(1〜6kg程度) 設備型(数百kg〜)
操作 人が手動で操作 自動起動も可能
配管 なし あり(固定配管)
防護範囲 初期消火(小規模) 部屋全体の消火も可能
クリーニング装置 不要 必要

消火薬剤は同じでも、設備レベルでは定圧作動装置・選択弁・クリーニング装置など、消火器にはない機器が追加されます。また、全域放出方式では自火報との連動や安全装置も必要です。

まとめ

  • 粉末消火設備は加圧用ガス(N₂/CO₂)で粉末を噴射して消火する
  • 消火原理は窒息+抑制のダブル効果で、消火速度が速い
  • 粉末消火薬剤は4種類、第3種(りん酸アンモニウム)だけがA火災に対応
  • 粉末設備ならではの機器:定圧作動装置(圧力を一定に保つ)とクリーニング装置(残留粉末を除去)
  • 加圧式が主流(起動時にガス容器からガスを送り込む)
  • ガス系3設備で唯一、全域・局所・移動式のすべてに対応
  • 消火後に残留物(粉末)が残るのがガス系消火設備の中で唯一のデメリット
  • 再燃リスクがあり、粉末の沈降後に残り火から再着火する可能性がある

次の記事では、ガス系消火設備の設置義務と技術基準を解説します。

理解度チェック問題

【問題1】粉末消火設備の構成機器に関する記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)加圧用ガス容器は、粉末を噴射するための動力源として窒素やCO₂を貯蔵している。
(2)定圧作動装置は、粉末の放出に伴い低下する容器内圧力を一定に保つ装置である。
(3)クリーニング装置は、消火前に配管内の粉末詰まりを点検する装置である。
(4)粉末貯蔵容器は、加圧式の場合、通常時は圧力がかかっていない。

解答を見る

正解:(3)
クリーニング装置は「消火前」ではなく「消火後」に作動する装置です。消火が完了した後、配管内に残った粉末をN₂やCO₂で吹き飛ばして除去します。放置すると粉末が固着して配管が詰まり、次回使用できなくなるためです。(1)(2)(4)はいずれも正しい記述です。

【問題2】粉末消火薬剤に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)第1種粉末(炭酸水素ナトリウム)は、A・B・C火災すべてに対応している。
(2)第3種粉末(りん酸アンモニウム)は、加熱によりガラス状の被膜を形成してA火災にも有効である。
(3)第2種粉末と第4種粉末は主成分が同じであり、消火性能も同等である。
(4)粉末消火設備に使用する薬剤は、消火器用の薬剤とは別の専用品である。

解答を見る

正解:(2)
第3種粉末のりん酸アンモニウムは、加熱されるとメタりん酸のガラス状被膜を形成し、燃焼面をコーティングして酸素を遮断します。この被膜効果により、4種類の中で唯一A火災(普通火災)にも有効です。(1)は第1種はB・C火災のみ対応でA火災には非対応です。(3)は第2種は炭酸水素カリウム、第4種は炭酸水素カリウムと尿素の反応生成物で、主成分も消火性能も異なります。(4)は消火器と同じ薬剤を使用します。

【問題3】粉末消火設備の特徴に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)粉末消火設備は全域放出方式のみ対応で、局所放出方式は認められていない。
(2)粉末は消火後に残留物が残らないため、サーバールームに最適な設備である。
(3)粉末消火設備は消火速度が速いが、粉末の沈降後に再燃するリスクがある。
(4)粉末消火設備には加圧用ガス容器が不要で、粉末の自重で噴射される。

解答を見る

正解:(3)
粉末消火設備は窒息+抑制のダブル効果で消火速度が速いのがメリットですが、粉末は時間が経つと沈降するため、残り火から再び燃え出す再燃リスクがあります。(1)は粉末は全域・局所・移動式のすべてに対応しているため誤りです。(2)は粉末は残留物が残るため、サーバールームには不向きです。(4)は粉末は固体で自力では噴射できず、加圧用ガス容器のN₂やCO₂の圧力が必要です。

【問題4(応用)】ある工場のボイラー室に消火設備を設置することになった。この部屋は完全な密閉ができず、換気口が常時開いている。また、油類を扱うためB火災のリスクが高い。この条件で粉末消火設備の局所放出方式が適している理由として、最も適切なものはどれか。

(1)粉末は固体の微粒子で拡散しにくく、密閉できない空間でも対象物の周囲に滞留して消火効果を発揮できるから。
(2)粉末消火設備はコストが安く、工場の設備投資を抑えられるから。
(3)局所放出方式は全域放出方式より粉末の使用量が多いが、確実に消火できるから。
(4)ボイラー室は常時無人であるため、安全装置が不要で設置が簡単だから。

解答を見る

正解:(1)
密閉できない空間では、ガスの全域放出方式は消火に必要な濃度を維持できません。粉末は固体の微粒子なので、ガスのように速やかに拡散せず、噴射された対象物の周囲にある程度滞留します。そのため、密閉できないボイラー室でも局所放出方式で対象物を直接消火できます。(2)はコスト面は方式選定の「技術的理由」ではありません。(3)は局所放出方式の方が通常使用量は少ないです。(4)はボイラー室でも安全装置は必要です。

-甲種3類