乙種6類

消火薬剤の種類と性質|粉末・強化液・泡・ガス系を横断比較

結論から言います

消火薬剤は種類が多くて混乱しがちですが、「粉末」「液体」「ガス」の3グループに分ければスッキリ整理できます。

  • 粉末系 — リン酸アンモニウム・炭酸水素ナトリウム・炭酸水素カリウム
  • 液体系 — 強化液(炭酸カリウム水溶液)・機械泡(水成膜泡など)
  • ガス系 — 二酸化炭素(CO₂)・ハロゲン化物(ハロン1301など)

試験では「この薬剤の性質は?」「この薬剤はどの火災に使える?」という形で出題されます。個別の消火器の記事(粉末強化液機械泡CO₂・ハロゲン化物)ではそれぞれの消火器に焦点を当てましたが、この記事では薬剤そのものの性質を横断的に比較します。

 

消火薬剤の全体像

まずは全薬剤を一覧で見てみましょう。

消火薬剤の3グループ
粉末系
リン酸アンモニウム
炭酸水素ナトリウム
炭酸水素カリウム

固体の微粉末
主に抑制消火

液体系
強化液(炭酸カリウム水溶液)
機械泡(水成膜泡など)

水ベースの液体
冷却・窒息消火

ガス系
二酸化炭素(CO₂)
ハロン1301
ハロン2402

気体で放射
窒息・抑制消火

 

粉末系薬剤の性質

粉末系は3種類。化学名と適応火災の対応が試験の最重要ポイントです。

 

リン酸アンモニウム(ABC粉末)

項目 内容
化学式 NH₄H₂PO₄
適応火災 A・B・C火災
消火原理 抑制消火+被膜形成
淡黄色〜淡桃色

日本でもっとも普及している消火薬剤です。A火災にも対応できる唯一の粉末薬剤――これが最大の特徴。

なぜA火災に使えるのか? リン酸アンモニウムは熱を受けると分解し、ガラス状の被膜(メタリン酸)を形成します。この被膜が燃焼面を覆い、酸素を遮断し続けるため再燃を防げます。炭酸水素系にはこの性質がありません。

 

炭酸水素ナトリウム(BC粉末)

項目 内容
化学式 NaHCO₃
適応火災 B・C火災
消火原理 抑制消火(負触媒作用)
白色

いわゆる「重曹(じゅうそう)」と同じ物質です。熱分解でCO₂と水蒸気を発生させ、燃焼の連鎖反応を抑制します。A火災には被膜を形成できないため不適応です。

 

炭酸水素カリウム(BC粉末)

項目 内容
化学式 KHCO₃
適応火災 B・C火災
消火原理 抑制消火(負触媒作用)
淡紫色(灰紫色)

炭酸水素ナトリウムと同じBC粉末ですが、消火能力はナトリウムの約2倍です。カリウム(K)はナトリウム(Na)より原子が大きく、燃焼反応に関与する活性ラジカル(OH・Hなど)をより効率的に捕まえるためです。

 

粉末薬剤に共通する性質

3種類の粉末薬剤には、共通する重要な性質があります。

  • 吸湿性 — 粉末は空気中の水分を吸って固まりやすい。固まると放射できない
  • 固結防止剤 — 吸湿による固結を防ぐため、シリコーン系の撥水処理剤が添加されている
  • 電気絶縁性 — 粉末は電気を通さない。だからC火災(電気火災)に使える
  • 消火速度が速い — 微粉末が炎全体を一気に覆うため、初期消火に優れる
  • 冷却効果が弱い — 抑制消火が主なので、可燃物の温度を下げにくく再燃しやすい

試験のポイント

粉末薬剤の色の違いは試験で問われることがあります。リン酸アンモニウム=淡黄色〜淡桃色、炭酸水素ナトリウム=白色、炭酸水素カリウム=淡紫色。色で薬剤の種類を見分けるという実務的な知識です。

 

液体系薬剤の性質

 

強化液(炭酸カリウム水溶液)

項目 内容
主成分 炭酸カリウム(K₂CO₃)の水溶液
適応火災 棒状:A火災 / 霧状:A・B・C火災
消火原理 冷却消火(棒状)/冷却+抑制消火(霧状)
液性 アルカリ性
凝固点 約−20℃

強化液の「強化」とは、水にアルカリ金属塩を溶かして凍りにくくした(凝固点を下げた)という意味です。普通の水は0℃で凍りますが、強化液は約−20℃まで凍らないため寒冷地でも使えます

放射方式で適応火災が変わるのが最大の特徴です。

  • 棒状放射 → 水を勢いよくまっすぐ飛ばす → 冷却効果が高い → しかし油に当てると飛散するのでB火災は×、水が導電路になるのでC火災も×
  • 霧状放射 → 細かい霧に変換 → 油面を叩く力が弱くB火災OK、霧は導電路にならずC火災もOK

もうひとつの重要な性質は再燃防止力です。水ベースなので冷却効果が高く、燃えている物の温度をしっかり下げられます。粉末消火器で初期消火した後に強化液で冷却して再燃を防ぐ――という併用が実務ではよく行われます。

 

機械泡(水成膜泡・合成界面活性剤泡)

項目 内容
主成分 界面活性剤+水
適応火災 A・B火災
消火原理 窒息消火(泡で覆う)+冷却
C火災 不適応(泡に含まれる水が電気を通す)

機械泡の「機械」とは、ノズルの機械的な構造で空気を巻き込んで泡を作る方式のことです(化学反応で泡を作る「化学泡」と区別するための呼び方)。

泡の種類は主に2つあります。

  • 水成膜泡(すいせいまくあわ) — フッ素系界面活性剤を使用。泡が消えた後も薄い水の膜が油面を覆い続けるため、再燃防止に優れる。現在の主流
  • 合成界面活性剤泡 — 一般的な界面活性剤を使用。水成膜泡より安価だが、膜の持続力はやや劣る

泡消火薬剤がB火災(油火災)に強い理由は、泡が油面を面で覆い尽くすからです。油と空気の接触を完全に遮断するので、窒息効果が非常に高い。ただし、泡は水を含んでいるためC火災には使えません。

 

ガス系薬剤の性質

 

二酸化炭素(CO₂)

項目 内容
化学式 CO₂
適応火災 B・C火災
消火原理 窒息消火
貯蔵状態 液化ガス(高圧で液体化)
放射温度 約−79℃(ドライアイス状)

CO₂は消火器内では高圧で液化された状態で貯蔵されています。放射すると一気に気化・膨張し、周囲の酸素を押しのけて窒息消火します。

重要な性質がいくつかあります。

  • 電気絶縁性 — 気体なので電気を通さない → C火災に使える
  • 残留物ゼロ — ガスなので放射後に何も残らない → 精密機器・電子機器のある場所に最適
  • 冷却効果が弱い — 窒息消火が主なのでA火災には不適応(再燃する)
  • 酸欠リスク — 狭い空間で大量放射すると、酸素が不足して人体に危険
  • 凍傷リスク — 放射時にドライアイス状になるため、直接触れると凍傷になる

注意

CO₂消火器は地下室・無窓階などの密閉空間での使用に注意が必要です。CO₂は空気より重い(比重約1.5)ため、低い場所に溜まりやすく、酸素濃度が急激に低下します。

 

ハロゲン化物(ハロン1301・ハロン2402)

項目 内容
適応火災 B・C火災
消火原理 抑制消火(負触媒作用)+窒息
貯蔵状態 液化ガス
残留物 なし(ガスで蒸発)

ハロゲン化物の消火原理は、粉末と同じ抑制消火(負触媒作用)です。燃焼の連鎖反応に関与する活性ラジカルを捕まえて、反応を止めます。

CO₂と同じく残留物がないため精密機器に適していますが、大きな問題があります。

  • オゾン層を破壊する — ハロンはフロンの仲間で、成層圏のオゾン層を壊す物質
  • モントリオール議定書により、1994年以降生産が中止されている
  • 既存のハロン消火器は回収・再利用(リサイクル)で対応
  • 新規充てんはリサイクルハロンのみ。新品の製造はできない

試験のポイント

「ハロゲン化物消火薬剤が新規製造されなくなった理由」は試験の定番です。答えは「オゾン層保護のため、モントリオール議定書に基づき生産中止」。「毒性が強いから」ではありません。理由を正確に覚えましょう。

 

消火薬剤の横断比較表

全薬剤を一目で比較できる表です。

薬剤 適応火災 消火原理
リン酸アンモニウム A・B・C 抑制+被膜形成
炭酸水素ナトリウム B・C 抑制(負触媒)
炭酸水素カリウム B・C 抑制(負触媒)
強化液(棒状) A 冷却
強化液(霧状) A・B・C 冷却+抑制
機械泡 A・B 窒息+冷却
CO₂ B・C 窒息
ハロゲン化物 B・C 抑制+窒息

 

次に、試験で問われやすい性質の違いを比較します。

薬剤 冷却効果 残留物
粉末(3種共通) 弱い あり(粉が飛散)
強化液 強い あり(液体が残る)
機械泡 中程度 あり(泡・液体)
CO₂ 弱い なし
ハロゲン化物 弱い なし
薬剤 電気絶縁性 使用上の注意
粉末 あり 視界不良・精密機器汚損
強化液(棒状) なし 感電の危険
強化液(霧状) あり 棒状ほどの冷却力はない
機械泡 なし 感電の危険
CO₂ あり 酸欠・凍傷
ハロゲン化物 あり 密閉空間での毒性

 

薬剤の「弱点」を逆から読む

横断比較のコツは、弱点から逆算することです。「なぜこの薬剤はこの火災に使えないのか?」を理解していれば、適応火災は丸暗記しなくても判断できます。

不適応の3パターン(おさらい)
A火災に使えない
理由:再燃する

冷却効果がない
被膜を形成できない

該当:BC粉末・CO₂
ハロゲン化物

B火災に使えない
理由:油が飛散する

液体を勢いよく
油面にぶつけると危険

該当:強化液(棒状)

C火災に使えない
理由:感電する

水分が電気を通して
導電路になる

該当:強化液(棒状)
機械泡

この3パターンは適応火災と消火器の選び方の記事で詳しく解説しています。薬剤の性質とセットで覚えておくと、どの問題にも対応できます。

 

薬剤の劣化と保管

消火薬剤は永久に使えるものではありません。劣化の特徴も薬剤ごとに異なります。

  • 粉末薬剤 — 吸湿して固結(かたまり)すると、放射時に噴き出せなくなる。防湿のために撥水処理されているが、長期間で効果が落ちる。点検時に固結がないか確認する
  • 強化液 — 液体が沈殿・変色したり、pH(酸性・アルカリ性)が規定値から外れたりする。沈殿物が詰まると放射に支障が出る
  • 機械泡 — 界面活性剤の劣化で発泡倍率が下がる(泡立ちが悪くなる)。泡立ちが悪いと窒息効果が低下する
  • CO₂・ハロゲン化物 — ガス系は薬剤そのものの劣化はほぼない。ただし容器やバルブからの漏れで量が減ることがある。重量測定で残量を確認する

試験のポイント

「CO₂消火器の薬剤量の確認方法」は試験頻出です。答えは「重量(質量)を測定する」。CO₂消火器には指示圧力計がなく、液化ガスは温度で圧力が変わるため圧力では残量がわかりません。重量で判断するのが唯一の方法です。

 

まとめ問題

記事の内容が理解できたか、チェックしてみましょう!

 

【問題1】
粉末消火薬剤のうち、A火災に適応するものが他の粉末薬剤と異なる理由として、正しいものはどれか。

(1)消火速度がほかの粉末薬剤より速いため
(2)電気絶縁性がほかの粉末薬剤より高いため
(3)熱分解によりガラス状の被膜を形成するため
(4)冷却効果がほかの粉末薬剤より高いため

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正解:(3)熱分解によりガラス状の被膜を形成するため
リン酸アンモニウム(ABC粉末)は熱を受けるとメタリン酸に分解し、ガラス状の被膜を形成して燃焼面を覆います。この被膜が酸素を遮断し続けるためA火災にも対応できます。消火速度・電気絶縁性・冷却効果は粉末薬剤として共通の性質であり、A火災への適応を分ける要素ではありません。

 

【問題2】
強化液消火薬剤の性質として、誤っているものはどれか。

(1)主成分は炭酸カリウムの水溶液である
(2)凝固点が低く、寒冷地でも使用できる
(3)棒状放射でもB火災に適応する
(4)アルカリ性の液体である

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正解:(3)棒状放射でもB火災に適応する ← これが誤り
棒状放射は水をまっすぐ勢いよく飛ばすため、燃えている油面を叩いて油を飛散させる危険があります。B火災に適応するのは霧状放射のみ。同じ薬剤でも放射方式で適応火災が変わる点は、試験で最もよく出るポイントの一つです。

 

【問題3】
ハロゲン化物消火薬剤が現在新規に製造されていない理由として、正しいものはどれか。

(1)人体への毒性が強すぎるため
(2)消火能力が他の薬剤より劣るため
(3)オゾン層を破壊する物質であるため
(4)原材料のコストが高すぎるため

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正解:(3)オゾン層を破壊する物質であるため
ハロンはフロンの仲間であり、成層圏のオゾン層を破壊します。モントリオール議定書に基づき1994年以降生産が中止されました。既存のハロン消火器はリサイクル(回収・再利用)で対応しています。毒性やコストが理由ではありません。

 

【問題4(応用)】
精密機器室に設置する消火器を選ぶ際、「消火後の汚損が少ないこと」を最優先条件にした場合、もっとも適切な薬剤はどれか。その理由もあわせて考えてみましょう。

(1)リン酸アンモニウム(ABC粉末)
(2)強化液(霧状)
(3)二酸化炭素(CO₂)
(4)機械泡(水成膜泡)

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正解:(3)二酸化炭素(CO₂)
CO₂はガスとして放射され、消火後に何も残りません(残留物ゼロ)。精密機器に粉末を吹きかければ内部に入り込んで故障の原因に。液体系は水分で回路がショートします。泡も同様に水分を含みます。「汚損が少ない」=「残留物がない」と読み替えれば、ガス系(CO₂またはハロゲン化物)が最適と判断できます。ただしCO₂は酸欠リスクがあるため、使用時は換気に注意が必要です。

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