不活性ガス消火設備は、二酸化炭素や窒素などを防護区画へ放射し、主に酸素濃度を低下させて消火する設備です。消防設備士第3類で扱い、消防法施行令第16条と消防法施行規則第19条に、消火剤・放出方式・構成機器・安全対策が定められています。
この記事では、4種類の消火剤、全域放出方式・局所放出方式・移動式、CO₂の高圧式・低圧式、起動装置と安全対策を、現行法令に沿って整理します。
最初に押さえる3点
- 消火剤はCO₂・窒素・IG-55・IG-541の4種類
- 局所放出方式と移動式に使用する消火剤はCO₂
- 全域放出方式のCO₂は、20秒以上の遅延装置、緊急停止装置、閉止弁、標識などの保安措置を区別して覚える
不活性ガス消火設備の4種類の消火剤
消防法施行規則第19条第5項第2号は、使用できる不活性ガス消火剤を次の4種類としています。
| 消火剤 | 規則上の組成 | 使用できる放出方式 |
|---|---|---|
| 二酸化炭素(CO₂) | 二酸化炭素 | 全域放出・局所放出・移動式 |
| 窒素 | 窒素 | 全域放出 |
| IG-55 | 窒素50:アルゴン50 | 全域放出 |
| IG-541 | 窒素52:アルゴン40:二酸化炭素8 | 全域放出 |
IG-541の「8」は室内のCO₂濃度ではない
IG-541の「窒素52:アルゴン40:二酸化炭素8」は、消火剤そのものの容量比です。放射後の室内CO₂濃度が8%になるという意味ではなく、この数値だけから「人がいても安全」と判断することもできません。規則第19条は、4種類のいずれを使う場合でも、常時人がいない部分以外には全域放出方式または局所放出方式を設けないと定めています。
全域放出方式でも消火剤を自由に選べない
全域放出方式で使用できる消火剤は、防護区画の用途・面積・体積によって分かれます。規則第19条第5項第2号の2の要点は次のとおりです。
| 防護区画 | 使用する消火剤 |
|---|---|
| 鍛造場、ボイラー室、乾燥室など多量の火気を使用する部分、ガスタービン発電機がある部分、指定可燃物を貯蔵・取扱う部分 | CO₂ |
| その他の部分で、面積1,000m²以上または体積3,000m³以上 | CO₂ |
| 上記以外 | CO₂・窒素・IG-55・IG-541 |
また、駐車の用に供される部分と、通信機器室で常時人がいない部分には、全域放出方式を設けます。設置可否は「水損が少ない」「機器室に向く」といった一般論だけで決めず、消防法施行令第13条と規則第19条の条件を合わせて確認します。
3つの放出方式
全域放出方式
壁・床・天井などで区画された防護区画の全域へ消火剤を放出する方式です。噴射ヘッドは、消火剤が防護区画の全域へ均一かつ速やかに拡散するように配置します。放射前に換気装置を停止し、必要な開口部を自動閉鎖するなど、消火剤を区画内に保持する措置も必要です。
噴射ヘッドの最低放射圧力は、CO₂高圧式が1.4MPa、CO₂低圧式が0.9MPa、窒素・IG-55・IG-541が1.9MPaです。放射時間も消火剤と用途で異なり、窒素・IG-55・IG-541は必要量の90%以上を1分以内に放射します。CO₂は、通信機器室が3.5分、一定の指定可燃物が7分、その他が1分です。
局所放出方式
防護対象物へ直接消火剤を放射する方式です。防護対象物のすべての表面を噴射ヘッドの有効射程内に入れ、放射によって可燃物が飛散しない位置にヘッドを設けます。使用する消火剤はCO₂で、必要量を30秒以内に放射できる構造とします。
移動式
固定した貯蔵容器からホースを引き出し、人がノズルを火元へ向けて放射する方式です。設備全体を持ち運ぶという意味ではありません。使用する消火剤はCO₂で、火災時に煙が著しく充満するおそれのある場所以外に設けます。
CO₂の高圧式と低圧式
消防法施行規則第19条では、CO₂の貯蔵方法を高圧式と低圧式に分けています。区別の基準は、未出典の標準容器本数や用途規模ではなく、貯蔵温度と容器の構成です。
| 比較項目 | 高圧式 | 低圧式 |
|---|---|---|
| 法令上の定義 | CO₂を常温で容器に貯蔵 | CO₂を−18℃以下で容器に貯蔵 |
| 主な貯蔵設備 | 貯蔵容器、容器弁など | 低圧式貯蔵容器、液面計、圧力計、自動冷凍機、圧力警報装置、破壊板、放出弁 |
| 噴射ヘッドの最低放射圧力 | 1.4MPa | 0.9MPa |
低圧式貯蔵容器には、内部温度を−20℃以上−18℃以下に保持できる自動冷凍機を設けます。また、2.3MPa以上または1.9MPa以下で作動する圧力警報装置、液面計、圧力計などが必要です。
窒素・IG-55・IG-541は容器に貯蔵しますが、規則上の「高圧式」「低圧式」はCO₂の貯蔵方法を説明する用語です。「4種類すべてに高圧式がある」と一括りにせず、CO₂とそれ以外を分けて読みます。
構成機器と消火剤の流れ
全域放出方式の一般的な流れは、次のように整理できます。ただし、選択弁や集合管などは設備の構成に応じて用いるため、すべての設備に同じ機器が必ず付くわけではありません。
貯蔵容器 → 容器弁・放出弁 → 集合管 → 選択弁 → 配管 → 噴射ヘッド
貯蔵容器と容器弁・放出弁
貯蔵容器は消火剤を保管する容器です。常温でCO₂を貯蔵する容器と、窒素・IG-55・IG-541を貯蔵する容器には、所定の基準に適合する容器弁を設けます。CO₂低圧式貯蔵容器には放出弁を設けます。
集合管と選択弁
複数の貯蔵容器からの配管をまとめるのが集合管です。1組の貯蔵容器を複数の防護区画または防護対象物で共用する場合は、区画・対象物ごとに選択弁を設けます。選択弁は防護区画外に置き、どの区画用か表示します。
配管と噴射ヘッド
配管は消火剤を噴射ヘッドまで運びます。全域放出方式では区画全体へ均一に拡散する配置、局所放出方式では対象物の全表面を有効射程に入れる配置が必要です。配管口径やヘッドは、圧力損失計算を含む所定の基準に基づいて選定します。
起動用ガス容器
全域放出方式のCO₂設備には起動用ガス容器を設けます。起動用ガス容器の圧力で、貯蔵容器の容器弁などを作動させます。消火剤を貯蔵する主容器と、設備を起動するための容器を混同しないようにします。
起動方式は消火剤で異なる
| 消火剤 | 起動方式 | 要点 |
|---|---|---|
| CO₂ | 手動式が原則 | 常時人がいない場所など、手動式が不適当な場所は自動式にできる。全域放出方式には緊急停止装置が必要 |
| 窒素・IG-55・IG-541 | 自動式 | 自動火災報知設備の感知器と連動する |
手動起動装置は、防護区画外で内部を見通すことができ、操作した人が容易に退避できる出入口付近などに設けます。操作部の高さは床面から0.8m以上1.5m以下、外面は赤色です。放出操作は、先に音響警報装置を起動しなければ行えない構造とします。
自動式は自動火災報知設備の感知器と連動します。全域放出方式のCO₂を自動起動する場合は、二以上の火災信号によって起動する構造とし、自動手動切替え装置を設けます。
CO₂全域放出方式の安全対策
CO₂は人体に影響を与え、場合によっては生命の危険が生じます。特に全域放出方式では、装置の名称と役割を分けて理解することが大切です。
| 装置・措置 | 役割 |
|---|---|
| 音響警報装置 | 起動装置と連動し、消火剤を放射する前に区画内の人へ知らせる。原則として音声警報 |
| 遅延装置 | 起動操作から容器弁・放出弁の開放までを20秒以上とし、退避の時間を確保する |
| 緊急停止装置 | 消火剤の放出を停止する旨の信号を制御盤へ送る |
| 閉止弁 | 集合管または操作管を閉止し、工事・整備・点検時などの誤放出を防ぐ |
| 放出表示灯 | 防護区画の出入口などで、消火剤が放出されたことを表示する |
| 標識 | CO₂が人体へ危害を及ぼすおそれと、放出後は原則立入禁止であることを示す |
| 排出措置 | 放出された消火剤と燃焼ガスを安全な場所へ排出する |
閉止弁と緊急停止装置は別のもの
緊急停止装置は制御盤へ停止信号を送る装置です。閉止弁は集合管または操作管に設ける弁です。「非常停止」の一語でまとめず、信号による停止と、配管・操作管の閉止を分けて覚えます。
工事・点検で人が入るときの維持方法
消防法施行規則第19条の2は、全域放出方式のCO₂設備について、次の維持方法を定めています。
- 工事・整備・点検などで防護区画内に人が入るときは、閉止弁を閉止状態にする
- 同じ場合、自動手動切替え装置を手動状態にする
- 通常時は閉止弁を開放状態にする
- 放出後は、消火剤が排出されるまで防護区画へ人を立ち入らせない
- 制御盤の付近に、設備の構造と工事・整備・点検時の手順を定めた図書を備える
消防庁のシミュレーションでは、一般的な地下駐車場・立体駐車場のモデルで、放射開始から約10秒で防護区画内にCO₂が充満しました。放射後に避難を始めるのではなく、作業前に閉止弁と自動手動切替え装置の状態を確認して誤放出を防ぐことが前提です。
隣接部分にも保安措置が必要な場合がある
全域放出方式のCO₂設備では、防護区画と隣接部分を区画する壁・床・天井などに開口部があり、CO₂が流入するおそれがある場合、隣接部分にも排出措置、表示灯、音響警報装置を設けます。安全確認の範囲を防護区画の中だけに限定しません。
死亡事故後の基準改正
総務省消防庁によると、令和2年12月から令和3年4月にかけて、駐車場のCO₂消火設備に係る死亡事故が相次ぎました。これを受け、再発防止策に係る政省令などが令和4年9月に改正され、主な基準は令和5年4月1日から義務化されました。
既存設備を含む全域放出方式のCO₂設備について、閉止弁、標識、手順書の備付け、点検資格者、工事・点検時の維持方法などが整理・強化されています。既存設備の閉止弁に設けられた経過措置は令和6年3月31日まででした。現在は「将来の改修期限」ではなく、満たすべき現行基準として確認します。
必要消火剤量は用途別の表で計算する
全域放出方式の必要消火剤量は、すべての区画に同じ係数を掛ける単一式ではありません。規則第19条第4項では、次の条件によって表と計算方法が分かれています。
- 消火剤がCO₂か、窒素・IG-55・IG-541か
- 通信機器室、指定可燃物を扱う部分、その他の部分のどれか
- 防護区画の体積
- 自動閉鎖装置を設けない開口部の有無と面積
- 窒素・IG系では、防護区画の最低設計濃度と設計濃度
複数区画で貯蔵容器を共用する場合は、各区画について算出した量のうち最大の量以上を貯蔵します。学習時は、問題文の用途・体積・開口部・消火剤を先に特定してから、該当する法令表へ進みます。
理解度チェック
以下は、この記事の内容を確認するための当サイト作成問題です。消防試験研究センターの公開問題を転載したものではありません。
問題1 不活性ガス消火設備の局所放出方式に使用する消火剤はどれか。
- 窒素
- IG-55
- IG-541
- CO₂
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正解:4
局所放出方式と移動式に使用する不活性ガス消火剤はCO₂です。窒素・IG-55・IG-541は全域放出方式で使用します。
問題2 CO₂低圧式貯蔵容器の設備として誤っているものはどれか。
- 液面計
- 圧力計
- 自動冷凍機
- 加圧送水装置
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正解:4
低圧式には液面計、圧力計、自動冷凍機、圧力警報装置、破壊板、放出弁などを設けます。加圧送水装置は水系設備で用いる機器です。
問題3 全域放出方式のCO₂設備で、緊急停止装置の役割として正しいものはどれか。
- 放出後のCO₂を屋外へ排出する
- 放出を停止する旨の信号を制御盤へ送る
- 集合管を物理的に閉止する
- 防護区画の開口部を閉鎖する
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正解:2
緊急停止装置は停止信号を制御盤へ送ります。集合管または操作管を閉止するのは閉止弁です。
問題4 工事のため全域放出方式のCO₂設備の防護区画に人が入るとき、正しい維持状態はどれか。
- 閉止弁を開放し、自動状態にする
- 閉止弁を閉止し、手動状態にする
- 閉止弁を閉止し、自動状態にする
- 閉止弁を開放し、警報だけ停止する
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正解:2
閉止弁を閉止状態にし、自動手動切替え装置を手動状態に維持します。
問題5 IG-541の組成として正しいものはどれか。
- 窒素50:アルゴン50
- 窒素52:アルゴン40:CO₂8
- 窒素40:アルゴン52:CO₂8
- 窒素92:CO₂8
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正解:2
IG-541は、窒素52:アルゴン40:CO₂8の容量比です。IG-55は窒素50:アルゴン50です。
まとめ
- 不活性ガス消火剤はCO₂・窒素・IG-55・IG-541の4種類
- 局所放出方式と移動式に使用する消火剤はCO₂
- CO₂高圧式は常温貯蔵、低圧式は−18℃以下での貯蔵
- 低圧式には液面計・圧力計・自動冷凍機・圧力警報装置などを設ける
- CO₂は手動起動が原則、窒素・IG-55・IG-541は自動起動
- CO₂全域放出方式では、遅延装置・緊急停止装置・閉止弁・表示灯・標識を分けて覚える
- 工事・点検時に人が入る場合、閉止弁は閉止、自動手動切替え装置は手動状態にする
3設備全体の位置づけは「ガス系消火設備の全体像」、次の設備は「ハロゲン化物消火設備」で確認できます。
参考資料
- e-Gov法令検索「消防法施行令」(第13条、第16条)
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」(第19条、第19条の2)
- 総務省消防庁「二酸化炭素消火設備に係る安全対策」
- 総務省消防庁「令和6年版 消防白書:二酸化炭素消火設備に係る事故の再発防止策」
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