結論から言います。
スプリンクラー設備の設置義務は、消防設備の中で最も細かく面積基準が定められている分野です。施行令第12条では、建物の用途・面積・階数・構造を組み合わせて「どの建物のどの部分に設置するか」を判定します。
屋内消火栓は人が操作する設備ですが、スプリンクラーは自動で作動します。寝ている人、逃げられない人を火災から守る"最後の砦"だからこそ、病院や福祉施設では特に厳しい基準が設定されています。
「スプリンクラー設備の全体像と方式」の記事では湿式・乾式・予作動式など5つの方式を解説しましたが、今回は「この建物に設置が必要か?」という法令判定の話です。
❷ 自力避難困難者がいる施設 → 面積不問 or 小面積で設置
❸ 特定防火対象物の地階・無窓階 → 床面積 1,000㎡以上
❹ 4〜10階の階 → 床面積で判定
❺ 建物全体の延べ面積 → 用途別に判定
パターン❶ 11階以上の階 ─ 「高層階は無条件」
11階以上はすべてスプリンクラー必要
11階以上の階は、用途や面積に関係なく、スプリンクラー設備の設置が必要です。
用途不問・面積不問
なぜ11階なのか
理由ははしご車の限界です。一般的なはしご車の到達高さは約31m(10階程度)。11階以上になると、外部からの消火活動が極めて困難になります。
つまり、11階以上では「建物の中で自動的に消火を開始できる設備」がなければ、火災の拡大を止められないのです。
パターン❷ 自力避難困難者がいる施設 ─ 「最も厳しい基準」
病院・社会福祉施設等の特別な基準
(6)項(病院・診療所・社会福祉施設等)は、スプリンクラー設備の設置基準が最も厳しく設定されています。入院患者や高齢者など、自力で避難できない人がいるからです。
| 施設の種類 | 基準 |
|---|---|
| (6)項イ(1)〜(3) 病院(入院施設あり)・有床診療所・有床助産所で自力避難困難者入所 |
面積不問 (すべて設置) |
| (6)項ロ 老人短期入所施設・障害者支援施設等で自力避難困難者入所 |
面積不問 (すべて設置) |
| (6)項イ(4)・(6)項ハ 有床診療所(上記以外)・老人デイサービス等 |
延べ面積 275㎡以上 |
なぜこれほど厳しいのか ─ 過去の火災が教訓
社会福祉施設や有床診療所の火災では、避難できない入所者が犠牲になる事例が繰り返し発生してきました。こうした教訓から、法改正のたびに基準が強化されてきた経緯があります。
275㎡という基準が小さいのは、小規模な施設でも人が寝泊まりしている限り、スプリンクラーによる自動消火が必要という考え方に基づいています。
パターン❸ 地階・無窓階 ─ 「避難困難な階」
地階(地下の階)と無窓階(有効な開口部がない階)は、煙が充満しやすく避難が困難です。「屋内消火栓設備の設置義務と技術基準」でも解説しましたが、スプリンクラーにも別途基準があります。
| 対象 | 基準 |
|---|---|
| 特定防火対象物の地階・無窓階 (1)〜(4)項、(5)イ、(6)項、(9)イ |
床面積 1,000㎡以上 |
屋内消火栓の地階基準(150㎡)と比べると数値が大きいのは、スプリンクラーがより大がかりな設備だからです。小さい地下室には屋内消火栓、大きい地下フロアにはスプリンクラーという段階的な仕組みです。
パターン❹ 4〜10階の階 ─ 「中高層階」
4階以上10階以下の階にも、用途に応じたスプリンクラーの設置基準があります。
| 対象 | 基準 |
|---|---|
| 特定防火対象物の4〜10階 (1)〜(4)項、(5)イ、(6)項、(9)イ |
床面積 1,500㎡以上 |
地階・無窓階の1,000㎡より緩い1,500㎡なのは、4〜10階は窓があり消防隊も外部からアクセスできる可能性があるためです。ただし、はしご車の能力にも限界があるので、一定規模以上はスプリンクラーが必要になります。
パターン❺ 建物全体の延べ面積 ─ 「大規模施設」
パターン❶〜❹のいずれにも該当しなくても、建物全体の延べ面積が一定以上なら設置が必要です。
| 用途 | 基準 |
|---|---|
| (1)項(劇場等) | 舞台部の床面積 500㎡以上 |
| (4)項(百貨店・マーケット等) | 延べ面積 3,000㎡以上 |
| (5)項イ(ホテル・旅館等) | 延べ面積 6,000㎡以上 |
| (9)項イ(蒸気浴場等) | 延べ面積 6,000㎡以上 |
| (16)項イ(特定複合用途) | 延べ面積 3,000㎡以上 |
劇場の舞台が500㎡で設置になる理由
劇場の舞台は可燃性のセット、幕、衣装が集中していて、火災の拡大が非常に速い場所です。しかも観客席に面しているため、火災が起きれば多数の人命に関わります。そのため、他の用途よりも小さい面積(500㎡)で設置が求められています。
「耐火構造+内装制限」の倍読みについて
「屋内消火栓設備の設置義務」と同様に、スプリンクラー設備でも主要構造部が耐火構造で、壁・天井の仕上げが準不燃材料の場合は、面積基準が緩和されます。
ただし、パターン❷の病院・福祉施設等は面積不問なので緩和の余地がない点に注意してください。「どんなに頑丈な建物でも、自力避難困難者がいる限り設置する」という姿勢です。
設置義務の全体像 ─ 判定フロー
→ Yes → その階に設置
▼ No
Q2 病院・福祉施設等((6)項)で自力避難困難者入所?
→ Yes → 面積不問で設置
▼ No
Q3 地階・無窓階で床面積1,000㎡以上?
→ Yes → その階に設置
▼ No
Q4 4〜10階で床面積1,500㎡以上?
→ Yes → その階に設置
▼ No
Q5 延べ面積が用途別の基準以上?
→ Yes → 建物全体に設置
▼ No
→ 設置不要(ただし免除特例の確認も)
免除規定 ─ 「設置しなくてよい場合」
代替設備による免除
スプリンクラー設備の設置義務がある場合でも、同等以上の消火能力を持つ代替設備が設置されていれば、免除される場合があります。
- 水噴霧消火設備 ── スプリンクラーと同等の水系消火設備
- 泡消火設備 ── 駐車場等で有効
- 不活性ガス消火設備・ハロゲン化物消火設備・粉末消火設備 ── 特定の区画に限定して有効
施行令第32条による特例
施行令第32条では、消防長又は消防署長が建物の構造や利用状況を個別に審査し、設置を免除・緩和できる特例を定めています。
たとえば、スプリンクラー設備の設置義務がある建物でも、各室が耐火構造の壁・床で完全に区画されていて、かつ避難経路が十分確保されている場合など、総合的に安全性が認められれば免除されることがあります。
ただし、特例はあくまで「例外」であり、基本は施行令12条の基準に従います。
屋内消火栓設備との比較
「屋内消火栓設備の設置義務」の基準と比較すると、両設備の関係がよくわかります。
| 比較項目 | 屋内消火栓 | スプリンクラー |
|---|---|---|
| 作動方式 | 人が操作 | 自動作動 |
| 設置面積の目安 | 700〜1,000㎡〜 | 面積不問〜6,000㎡ |
| 11階以上 | 面積基準あり | 面積不問で設置 |
| 関係 | スプリンクラーがあれば屋内消火栓を免除できる場合あり | |
つまり、小規模な建物 → 屋内消火栓 → 大規模・高層・高リスクな建物 → スプリンクラーという段階的な仕組みになっています。
そしてスプリンクラーは屋内消火栓の上位互換的な存在なので、スプリンクラーが設置されていれば屋内消火栓の設置義務が免除されるケースがあるのです。
まとめ
2. 病院・福祉施設等 ── 自力避難困難者がいれば面積不問で設置
3. 地階・無窓階 ── 特定防火対象物は床面積1,000㎡以上で設置
4. 4〜10階 ── 特定防火対象物は床面積1,500㎡以上で設置
5. 延べ面積基準 ── 劇場の舞台500㎡、百貨店3,000㎡、ホテル6,000㎡等
6. 免除 ── 代替設備がある場合や施行令32条の特例で免除あり
7. 屋内消火栓との関係 ── スプリンクラーは上位設備。設置されれば屋内消火栓を免除可能
理解度チェック!確認問題
問1:スプリンクラー設備の設置について、正しいものはどれか。
(1)11階以上の階には、用途に関係なく設置が必要である
(2)11階以上の階でも、延べ面積が3,000㎡未満なら設置は不要である
(3)10階以下の階にはスプリンクラー設備の設置義務はない
(4)すべての防火対象物は延べ面積6,000㎡以上でスプリンクラーが必要である
問2:次の施設のうち、スプリンクラー設備の設置基準が最も厳しい(面積不問で設置が求められる)ものはどれか。
(1)延べ面積2,000㎡の百貨店
(2)延べ面積200㎡の入院施設がある病院
(3)延べ面積5,000㎡のホテル
(4)延べ面積800㎡の事務所ビル
問3:特定防火対象物の地階で、スプリンクラー設備の設置が必要となる床面積の基準は次のうちどれか。
(1)150㎡以上
(2)500㎡以上
(3)1,000㎡以上
(4)1,500㎡以上
問4:スプリンクラー設備の設置義務がある建物で、設置が免除されうる条件として、誤っているものはどれか。
(1)水噴霧消火設備が有効に設置されている場合
(2)建物の主要構造部が木造である場合
(3)泡消火設備が有効に設置されている場合
(4)施行令第32条に基づき消防長が特例を認めた場合
問5(応用):スプリンクラー設備の設置基準が「地階・無窓階は1,000㎡以上」「4〜10階は1,500㎡以上」と、地階・無窓階のほうが厳しく設定されている理由として、最も適切なものはどれか。
(1)地階・無窓階は建築コストが高いため、設備投資を抑える配慮である
(2)地階・無窓階は窓がなく煙の排出や消防隊の進入が困難で、火災時のリスクが高いから
(3)4〜10階は耐火構造が義務付けられているため、火災の拡大が遅いから
(4)地階・無窓階は利用者が少ないため、少人数でも避難できるよう基準を厳しくしている