乙種6類

力のつりあいとモーメント|消防設備士の機械基礎をわかりやすく解説

結論から言います

消防設備士の「機械の基礎知識」で最初に出てくるのが力のつりあいとモーメントです。

ポイントはたった2つ:

  • 力のつりあい:物体に働く力の合計がゼロなら、物体は動かない
  • モーメント:力×距離=回転させる力。これもゼロなら回転しない

つまり、「動かない(静止している)」ということは、「力もモーメントもつりあっている」ということです。消火器を壁掛けにしたとき落ちないのも、消火器のレバーを握る力の加減も、すべてこの原理で説明できます。

力の三要素

まず「力」そのものを整理しましょう。力には3つの要素があります。

力の三要素
1. 大きさ
どれだけ強い力か
単位:N(ニュートン)
2. 向き
どの方向に働くか
例:上向き・下向き・右向き
3. 作用点
どこに力が加わるか
例:棒の端・中央・先端

この3つのうちどれか1つでも変われば、力の効果は変わります

たとえばドアを押すとき、同じ力でも「ドアノブ付近(蝶番から遠い)」を押すのと「蝶番の近く」を押すのでは、開きやすさが全然違いますよね。これは「作用点」が変わったからです。この感覚が、あとで出てくるモーメントの理解につながります。

力の合成と分解

物体には複数の力が同時に働くことがほとんどです。複数の力を1つにまとめるのが「力の合成」、逆に1つの力を複数に分けるのが「力の分解」です。

同一直線上の力の合成

一番シンプルなケースです。

状況 合力の求め方
同じ向きの2力 合力 = F₁ F₂(足し算)
反対向きの2力 合力 = F₁ F₂(引き算)、向きは大きい方

具体例:消火器(重さ50N)を棚に置いたとき、下向きに重力50Nが働き、棚が上向きに50Nで支えています。合力は 50 − 50 = 0N。だから消火器は静止しています。

角度がある2力の合成(平行四辺形の法則)

2つの力が角度をもって同時に働く場合は、平行四辺形の法則で合力を求めます。

2つの力を隣り合う2辺として平行四辺形を描き、その対角線が合力になります。

合力の大きさのポイント
2力の角度が小さい(同じ方向に近い)→ 合力は大きくなる
2力の角度が大きい(反対方向に近い)→ 合力は小さくなる
2力が直角(90°)のとき → 合力は三平方の定理で計算
例:3Nと4Nが直角 → 合力 = √(3² + 4²) = 5N

力の分解

合成の逆です。1つの力を、指定された2方向の分力(ぶんりょく)に分けます。

たとえば斜面上の消火器には重力が真下に働いていますが、これを「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えます。斜面に沿う分力が消火器を滑らせようとする力で、垂直な分力が斜面を押す力です。

力のつりあい

物体が静止している(動かない)とき、その物体に働くすべての力はつりあっていると言います。

一直線上の力のつりあい

条件はシンプルです:

つりあいの条件
すべての力の合計(合力)= 0

右向きの力の合計と左向きの力の合計が等しい。上向きの力の合計と下向きの力の合計が等しい。これが力のつりあいです。

3力のつりあい

1点に3つの力が働いてつりあっている場合、重要な性質があります:

  • 3力の作用線は1点で交わる
  • どの1力も、残り2力の合力と大きさが等しく、向きが反対

これは試験でよく問われるポイントです。「3力がつりあうとき、3つの力の作用線は1点で交わる」――この文言を覚えておきましょう。

力のモーメント

ここからが試験の本丸です。モーメントとは、物体を回転させようとする力の大きさのことです。

モーメントの公式

力のモーメント
M = F × dM:モーメント(N·m)
F:力の大きさ(N)
d:支点から力の作用線までの距離(m)

ここで重要なのは、d(距離)は「支点から作用点」ではなく「支点から力の作用線までの垂直距離」だということです。力の作用線とは、力の向きに沿って無限に延ばした直線のことです。

身近な例で理解する

ドアを開ける場面で考えてみましょう。

蝶番(ちょうつがい)が支点です。ドアノブ(蝶番から80cm)を10Nの力で押すと:

M = 10N × 0.8m = 8N·m

同じ10Nでも、蝶番から20cmの位置を押すと:

M = 10N × 0.2m = 2N·m

モーメントは4分の1しかありません。だからドアは蝶番の近くを押しても開きにくいのです。「力が同じでも、距離が大きいほどモーメントは大きくなる」――これがモーメントの本質です。

モーメントの向き

モーメントには時計回り反時計回りの2方向があります。

向き 表し方
時計回り(右回り) 一般に正(+)とする
反時計回り(左回り) 一般に負(−)とする

※ 正負の取り方は問題によって異なりますが、試験では「時計回りを正」とするのが一般的です。大切なのは、一つの問題の中で統一することです。

モーメントのつりあい

物体が回転しないでいるとき、その物体に働くモーメントの合計はゼロです。

モーメントのつりあい条件
時計回りのモーメントの合計

反時計回りのモーメントの合計

これは「てこの原理」そのものです。

てこの原理

シーソーで考えましょう。支点から2mの位置に体重300Nの子ども、反対側に体重600Nの大人が座ります。つりあうには大人は支点から何mの位置に座ればよいでしょうか?

モーメントのつりあいから:

300N × 2m = 600N × d

600 = 600d

d = 1m

大人は支点から1mの位置に座ればつりあいます。重い人(大きな力)は支点に近く、軽い人(小さな力)は支点から遠く。これがてこの原理です。

試験のポイント

てこの計算問題は頻出です。公式「F₁ × d₁ = F₂ × d₂」を使って、力か距離の未知数を求める問題が出ます。単位の変換(cmをmに直すなど)に注意しましょう。

偶力(ぐうりょく)

最後に偶力を押さえましょう。偶力とは、大きさが等しく、向きが反対で、作用線が異なる(平行な)2つの力のことです。

偶力の特徴

偶力の3つの特徴
特徴1
合力はゼロ
(物体を移動させない)
特徴2
回転だけを生む
(純粋な回転力)
特徴3
モーメントは
どこを支点にしても同じ

偶力のモーメント

偶力のモーメント
M = F × dF:片方の力の大きさ(N)
d:2力の作用線間の距離(m)

身近な例:水道の蛇口をひねるとき、親指と人差し指で反対方向に力を加えていますよね。これが偶力です。蛇口は移動せず、その場で回転するだけ。合力はゼロだけど、モーメント(回転力)はしっかり発生している――これが偶力の本質です。

試験の頻出ポイント

「偶力の合力はゼロである」→ ○(正しい)。「偶力のモーメントは支点の位置によって変わる」→ ×(誤り)。偶力のモーメントは支点の位置に関係なく一定です。この2つは引っかけ問題の定番です。

物体が静止する条件(まとめ)

ここまでの内容をまとめると、物体が完全に静止するには2つの条件を同時に満たす必要があります。

静止の条件
条件1:力のつりあい
すべての力の合力 = 0
→ 物体は移動しない
条件2:モーメントのつりあい
すべてのモーメントの合計 = 0
→ 物体は回転しない

力だけがつりあっても、モーメントがつりあっていなければ物体は回転します(偶力がその例です)。両方の条件を満たして初めて「静止」です。

まとめ問題

理解度をチェックしましょう。

【問題1】力の三要素として、正しい組み合わせはどれか。

(1)大きさ、速さ、作用点
(2)大きさ、向き、作用点
(3)大きさ、向き、重さ
(4)速さ、向き、作用点

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正解:(2)大きさ、向き、作用点
力の三要素は大きさ・向き・作用点です。「速さ」は力の要素ではありません。この3つのうちどれか1つでも変われば、力の効果は変わります。たとえば同じ力でもドアノブを押すのと蝶番の近くを押すのでは効果が違う――これは「作用点」が異なるからです。

【問題2】長さ2mの棒の左端を支点として、右端に下向き20Nの力を加えた。このときのモーメントの大きさはいくらか。

(1)10N·m
(2)20N·m
(3)40N·m
(4)80N·m

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正解:(3)40N·m
モーメント M = F × d = 20N × 2m = 40N·m です。力の大きさ(20N)と支点からの距離(2m)をかけるだけ。単位の「N·m(ニュートンメートル)」も一緒に覚えておきましょう。

【問題3】偶力について、正しいものはどれか。

(1)偶力の合力は、2つの力の和に等しい
(2)偶力のモーメントは、支点の位置によって変化する
(3)偶力は物体を回転させるだけで、移動させない
(4)偶力は同じ向きの2力で構成される

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正解:(3)偶力は物体を回転させるだけで、移動させない
偶力は大きさが等しく向きが反対の2力なので、合力はゼロ(物体は移動しない)です。しかしモーメントは発生するため、回転だけを生みます。(1)は誤り(合力はゼロ)、(2)は誤り(偶力のモーメントは支点の位置によらず一定)、(4)は誤り(向きは反対)。水道の蛇口をひねる動作が偶力の身近な例です。

【問題4】下図のように、支点Oから左に3mの点Aに下向き40Nの力が、支点Oから右に2mの点Bに下向きの力Fが働いている。棒が水平につりあうとき、力Fの大きさはいくらか。ただし、棒の重さは無視する。

(1)20N
(2)40N
(3)60N
(4)80N

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正解:(3)60N
モーメントのつりあいから、支点Oまわりで:
左側のモーメント = 40N × 3m = 120N·m
右側のモーメント = F × 2m
つりあいの条件:120 = F × 2
F = 120 ÷ 2 = 60N
てこの原理そのものです。「力 × 距離」が左右で等しくなるように求めます。距離が短い側(2m)には、より大きな力(60N)が必要になる。これがてこの原理の核心です。

【問題5】物体が静止しているための条件について、正しいものはどれか。

(1)力のつりあいだけを満たせばよい
(2)モーメントのつりあいだけを満たせばよい
(3)力のつりあいとモーメントのつりあいの両方を満たす必要がある
(4)力の合力が最小であればよい

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正解:(3)力のつりあいとモーメントのつりあいの両方を満たす必要がある
物体が静止するには、力の合力=0(移動しない)とモーメントの合計=0(回転しない)の両方が必要です。力だけがつりあっても、モーメントがつりあっていなければ物体は回転します(偶力がその例)。「動かない+回らない=静止」と覚えましょう。

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