結論:通報設備の設置義務は「3段階の面積基準」で決まる
結論から言います。
消防機関へ通報する火災報知設備(火災通報装置)の設置義務は、建物の用途に応じて3段階の面積基準で決まります(施行令第23条)。
ポイントは「自力で避難できない人がいるかどうか」です。病院や社会福祉施設のように、入院患者や高齢者がいて自力避難が難しい建物は面積に関係なく必ず設置。不特定多数が出入りする建物は500㎡以上、特定の人が利用する建物は1,000㎡以上が基準です。
さらに重要なのが電話免除のルールです。「消防に電話できる電話がある」なら通報設備は不要……が原則ですが、ホテル・病院・福祉施設は電話があっても免除されません。
施行令第23条の条文
まず、施行令第23条の原文を確認しましょう。
消防法施行令 第23条(消防機関へ通報する火災報知設備に関する基準)
第1項
消防機関へ通報する火災報知設備は、次に掲げる防火対象物に設置するものとする。
一 別表第一(六)項イ(1)から(3)まで及びロ、(十六の二)項並びに(十六の三)項に掲げる防火対象物
二 別表第一(一)項、(二)項、(四)項、(五)項イ、(六)項イ(4)、ハ及びニ、(十二)項並びに(十七)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が五百平方メートル以上のもの
三 別表第一(三)項、(五)項ロ、(七)項から(十一)項まで及び(十三)項から(十五)項までに掲げる防火対象物で、延べ面積が千平方メートル以上のもの
第2項
第一項各号に掲げる防火対象物又はその部分に消防機関へ常時通報することができる電話を設置したときは、当該設備を設置しないことができる。ただし、別表第一(五)項イ並びに(六)項イ、ロ及びハに掲げる防火対象物を除く。
条文の現代語訳
かみくだくと、こうなります。
第1項 → 以下の3グループの建物に、消防機関へ通報する火災報知設備を設置しなさい。
- 第1号 → 有床の病院・診療所・助産所、社会福祉施設、地下街・準地下街 → 面積に関係なく全部設置
- 第2号 → 劇場、遊技場、百貨店、ホテル、無床診療所、保育所、幼稚園、工場、文化財 → 500㎡以上で設置
- 第3号 → 飲食店、共同住宅、学校、図書館、浴場、駅、神社、駐車場、倉庫、事務所等 → 1,000㎡以上で設置
第2項 → 消防機関へいつでも通報できる電話を置けば、通報設備は不要にできる。ただし、ホテル・病院・診療所・社会福祉施設・保育所等は電話があっても免除できない。
カテゴリ①:面積に関係なく設置(第1号)
どんなに小さい建物でも、必ず通報設備が必要な用途です。
| 項 | 用途 | 具体例 |
|---|---|---|
| (6)項イ(1) | 病院(有床) | 入院病床のある大病院 |
| (6)項イ(2) | 有床診療所 | 入院できるクリニック |
| (6)項イ(3) | 助産施設 | 産婦人科の助産所 |
| (6)項ロ | 社会福祉施設 | 特別養護老人ホーム、障害者支援施設 |
| (16の2)項 | 地下街 | 地下ショッピング街 |
| (16の3)項 | 準地下街 | 地下道に面した店舗群 |
なぜ面積不問なのか?
共通点は「自力避難が難しい人が24時間いる」ことです。
- 有床病院・診療所 → 入院患者はベッドの上で動けないこともある
- 社会福祉施設 → 高齢者や障害のある方が生活している
- 地下街 → 地下で煙が充満すると避難経路が見えなくなる
こうした建物では、火災発生から119番通報までの時間が1秒でも惜しい。だから建物の大きさに関係なく、自動で119番に通報できる設備が必要なのです。
カテゴリ②:延べ面積500㎡以上で設置(第2号)
一定の規模以上になったら設置が必要な用途です。
| 項 | 用途 | 具体例 |
|---|---|---|
| (1)項 | 劇場・集会場 | 映画館、公会堂 |
| (2)項 | 遊技場等 | カラオケ、パチンコ店、ナイトクラブ |
| (4)項 | 物品販売 | 百貨店、スーパー |
| (5)項イ | 宿泊施設 | ホテル、旅館、民宿 |
| (6)項イ(4) | 無床の病院等 | 日帰りクリニック |
| (6)項ハ | 通所型福祉施設 | 保育所、デイサービス |
| (6)項ニ | 教育施設 | 幼稚園、特別支援学校 |
| (12)項 | 工場・スタジオ | 製造工場、テレビスタジオ |
| (17)項 | 文化財 | 重要文化財の建造物 |
なぜ500㎡なのか?
このグループには2つのタイプが混在しています。
タイプA:不特定多数が出入りする建物(劇場、百貨店、遊技場など)
→ 建物の構造に不慣れなお客さんが大勢いるため、火災時の混乱リスクが高い。500㎡を超える規模なら、自動通報で消防の到着を早める必要があります。
タイプB:就寝や長時間滞在する建物(ホテル、保育所、幼稚園など)
→ 宿泊客は夜間に就寝している、園児は自分で判断できない。火災に気づくのが遅れやすい人がいるため、一般的な施設より厳しい基準(500㎡)が適用されます。
なお、(17)項の文化財は人ではなく建物自体が「替えのきかない国の財産」だから厳しい基準になっています。
カテゴリ③:延べ面積1,000㎡以上で設置(第3号)
もっとも基準がゆるいグループです。
| 項 | 用途 | 具体例 |
|---|---|---|
| (3)項 | 飲食店 | レストラン、料理店 |
| (5)項ロ | 共同住宅 | マンション、寮 |
| (7)項 | 学校 | 小中高校、大学 |
| (8)項 | 図書館等 | 図書館、博物館 |
| (9)項 | 浴場 | 銭湯、サウナ |
| (10)項 | 車両停車場 | 鉄道の駅舎 |
| (11)項 | 神社・寺院 | 神社、教会 |
| (13)項 | 駐車場 | 立体駐車場、車庫 |
| (14)項 | 倉庫 | 物流倉庫 |
| (15)項 | 事務所等 | オフィスビル |
なぜ1,000㎡なのか?
このグループの共通点は「利用者が建物に慣れている」ことです。
- 学校 → 生徒も教員も避難訓練を受けている
- 事務所 → 従業員は毎日通っているので避難経路を把握している
- 共同住宅 → 住人は自分の家だから構造をよく知っている
避難の判断力がある人が日常的に使う建物なので、通報設備の設置基準は比較的ゆるく設定されています。それでも1,000㎡を超える大規模な建物になると、火災時に電話で正確に通報する余裕がなくなるため、自動通報設備が求められます。
なぜ3段階に分かれるのか? ― 判断基準は「避難の困難度」
3つのカテゴリを貫く共通の考え方を整理しておきましょう。
この考え方は自火報の設置基準と同じロジックです。「危険度が高い建物ほど厳しい基準」という消防法全体の原則が、ここにも一貫して表れています。
電話があれば免除できる? ―「免除できない建物」に要注意
施行令第23条第2項には、電話免除のルールがあります。
原則として、消防機関へ常時通報できる電話を設置すれば、通報設備は不要にできます。つまり「いつでも119番に電話できる固定電話があればOK」ということです。
ただし、以下の建物は電話があっても免除できません。
なぜ免除できないのか?
免除できない建物の共通点は「火災時に電話で通報する余裕がない人がいる」ことです。
- ホテル → 宿泊客は深夜に就寝中。建物の構造もわからない土地勘もないお客さんに「自分で119番して」は無理がある
- 病院 → 患者は自力で動けないことも多い。スタッフは避難誘導で手一杯になる
- 社会福祉施設 → 高齢者・障害のある方は自分で電話できない場合がある
- 保育所 → 園児が自分で通報することは不可能
こうした建物では、人間が電話をかける方式では通報が遅れるリスクが高すぎる。だから「電話があるからOK」は認められず、ボタンひとつで自動通報できる火災通報装置が義務付けられています。
携帯電話は「常時通報できる電話」に含まれない
もうひとつ重要なポイントがあります。「常時通報することができる電話」に携帯電話・スマートフォンは含まれません。
理由は単純で、携帯電話は電池切れの可能性があり、常に建物内にある保証がないからです。「常時」通報できる電話とは、建物に据え付けてある固定電話のことを指します。
自火報との連動義務
一部の建物では、火災通報装置を自火報の感知器と連動させて自動起動することが義務付けられています(施行規則第25条の2)。
連動が必要な建物
| 項 | 用途 |
|---|---|
| (6)項イ(1)・(2) | 有床病院・有床診療所 |
| (6)項ロ | 社会福祉施設 |
| (16の2)項 | 地下街 |
| (16の3)項 | 準地下街 |
連動とは?
自火報の感知器が火災を感知すると、火災通報装置が自動的に起動して119番に通報する仕組みです。人がボタンを押す必要すらありません。
通常の火災通報装置は「手動起動」――誰かがボタンを押して初めて通報が始まります。しかし連動義務のある建物では「自動起動」――感知器が煙や熱を検知した時点で、人の操作なしに119番への通報が始まります。
なぜ連動が必要なのか?
連動が義務付けられている建物の共通点は「ボタンを押せる人がいない可能性がある」ことです。
- 有床病院 → 深夜は看護師の人数が少なく、患者の避難誘導が最優先
- 社会福祉施設 → 夜間は最少人数の職員で対応。通報より避難が先
- 地下街 → 煙が充満すると通報装置の場所までたどり着けない
こうした建物では、通報のために人手を割く余裕がありません。だから感知器が自動で119番まで通報を完了させる仕組みが求められているのです。
例外:自火報の受信機と火災通報装置の両方が、常時人がいる防災センターに設置されている場合は、連動は不要です。24時間スタッフが監視していれば、手動で通報できるためです。
火災通報装置の構造や通報の流れについて詳しくは「消防機関へ通報する火災報知設備|火災通報装置のしくみ」で解説しています。
自火報の設置義務と比較してみよう
自火報の設置基準と通報設備の設置基準を比較すると、違いがよくわかります。
| 比較項目 | 自火報 | 通報設備 |
|---|---|---|
| 役割 | 建物内の人に知らせる | 消防機関(119番)に知らせる |
| 面積不問の対象 | 病院、ホテル、カラオケ等(多い) | 有床病院、福祉施設、地下街(限定的) |
| 面積基準 | 300㎡ / 500㎡ / 1,000㎡ | 500㎡ / 1,000㎡ |
| 電話免除 | なし(免除不可) | あり(ただし一部免除不可) |
自火報は「避難のきっかけ」、通報設備は「消防への救援要請」です。役割が違うので、設置基準も異なります。自火報のほうが全体的に基準が厳しい(面積不問の対象が多い、面積基準が低い)のは、まずは建物内の人が逃げることが最優先だからです。
まとめ問題
理解度をチェックしましょう。
問題1
消防機関へ通報する火災報知設備の設置義務について、面積に関係なく設置が必要な建物として、正しいものはどれか。
(1)ホテル(旅館)
(2)特別養護老人ホーム
(3)百貨店
(4)飲食店
問題2
消防機関へ通報する火災報知設備について、消防機関へ常時通報できる固定電話を設置しても、通報設備の設置が免除できない建物はどれか。
(1)映画館
(2)物品販売店舗
(3)旅館
(4)事務所
問題3
延べ面積800㎡の建物に消防機関へ通報する火災報知設備を設置する義務があるものとして、正しいものはどれか。
(1)共同住宅
(2)図書館
(3)カラオケボックス
(4)飲食店
問題4
火災通報装置の自火報との連動(自動起動)が義務付けられている理由として、最も適切なものはどれか。
(1)自火報の受信機が故障した場合のバックアップのため
(2)通報ボタンを押せる人がいない可能性があるため
(3)消防機関の出動時間を短縮するため
(4)火災通報装置の誤報を減らすため