結論から言います
消防設備士の「機械の基礎知識」で最初に出てくるのが力のつりあいとモーメントです。
ポイントはたった2つ:
- 力のつりあい:物体に働く力の合計がゼロなら、物体は動かない
- モーメント:力×距離=回転させる力。これもゼロなら回転しない
つまり、「動かない(静止している)」ということは、「力もモーメントもつりあっている」ということです。消火器を壁掛けにしたとき落ちないのも、消火器のレバーを握る力の加減も、すべてこの原理で説明できます。
力の三要素
まず「力」そのものを整理しましょう。力には3つの要素があります。
この3つのうちどれか1つでも変われば、力の効果は変わります。
たとえばドアを押すとき、同じ力でも「ドアノブ付近(蝶番から遠い)」を押すのと「蝶番の近く」を押すのでは、開きやすさが全然違いますよね。これは「作用点」が変わったからです。この感覚が、あとで出てくるモーメントの理解につながります。
力の合成と分解
物体には複数の力が同時に働くことがほとんどです。複数の力を1つにまとめるのが「力の合成」、逆に1つの力を複数に分けるのが「力の分解」です。
同一直線上の力の合成
一番シンプルなケースです。
| 状況 | 合力の求め方 |
|---|---|
| 同じ向きの2力 | 合力 = F₁ + F₂(足し算) |
| 反対向きの2力 | 合力 = F₁ - F₂(引き算)、向きは大きい方 |
具体例:消火器(重さ50N)を棚に置いたとき、下向きに重力50Nが働き、棚が上向きに50Nで支えています。合力は 50 − 50 = 0N。だから消火器は静止しています。
角度がある2力の合成(平行四辺形の法則)
2つの力が角度をもって同時に働く場合は、平行四辺形の法則で合力を求めます。
2つの力を隣り合う2辺として平行四辺形を描き、その対角線が合力になります。
力の分解
合成の逆です。1つの力を、指定された2方向の分力(ぶんりょく)に分けます。
たとえば斜面上の消火器には重力が真下に働いていますが、これを「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えます。斜面に沿う分力が消火器を滑らせようとする力で、垂直な分力が斜面を押す力です。
力のつりあい
物体が静止している(動かない)とき、その物体に働くすべての力はつりあっていると言います。
一直線上の力のつりあい
条件はシンプルです:
右向きの力の合計と左向きの力の合計が等しい。上向きの力の合計と下向きの力の合計が等しい。これが力のつりあいです。
3力のつりあい
1点に3つの力が働いてつりあっている場合、重要な性質があります:
- 3力の作用線は1点で交わる
- どの1力も、残り2力の合力と大きさが等しく、向きが反対
これは試験でよく問われるポイントです。「3力がつりあうとき、3つの力の作用線は1点で交わる」――この文言を覚えておきましょう。
力のモーメント
ここからが試験の本丸です。モーメントとは、物体を回転させようとする力の大きさのことです。
モーメントの公式
ここで重要なのは、d(距離)は「支点から作用点」ではなく「支点から力の作用線までの垂直距離」だということです。力の作用線とは、力の向きに沿って無限に延ばした直線のことです。
身近な例で理解する
ドアを開ける場面で考えてみましょう。
蝶番(ちょうつがい)が支点です。ドアノブ(蝶番から80cm)を10Nの力で押すと:
M = 10N × 0.8m = 8N·m
同じ10Nでも、蝶番から20cmの位置を押すと:
M = 10N × 0.2m = 2N·m
モーメントは4分の1しかありません。だからドアは蝶番の近くを押しても開きにくいのです。「力が同じでも、距離が大きいほどモーメントは大きくなる」――これがモーメントの本質です。
モーメントの向き
モーメントには時計回りと反時計回りの2方向があります。
| 向き | 表し方 |
|---|---|
| 時計回り(右回り) | 一般に正(+)とする |
| 反時計回り(左回り) | 一般に負(−)とする |
※ 正負の取り方は問題によって異なりますが、試験では「時計回りを正」とするのが一般的です。大切なのは、一つの問題の中で統一することです。
モーメントのつりあい
物体が回転しないでいるとき、その物体に働くモーメントの合計はゼロです。
これは「てこの原理」そのものです。
てこの原理
シーソーで考えましょう。支点から2mの位置に体重300Nの子ども、反対側に体重600Nの大人が座ります。つりあうには大人は支点から何mの位置に座ればよいでしょうか?
モーメントのつりあいから:
300N × 2m = 600N × d
600 = 600d
d = 1m
大人は支点から1mの位置に座ればつりあいます。重い人(大きな力)は支点に近く、軽い人(小さな力)は支点から遠く。これがてこの原理です。
試験のポイント
偶力(ぐうりょく)
最後に偶力を押さえましょう。偶力とは、大きさが等しく、向きが反対で、作用線が異なる(平行な)2つの力のことです。
偶力の特徴
偶力のモーメント
身近な例:水道の蛇口をひねるとき、親指と人差し指で反対方向に力を加えていますよね。これが偶力です。蛇口は移動せず、その場で回転するだけ。合力はゼロだけど、モーメント(回転力)はしっかり発生している――これが偶力の本質です。
試験の頻出ポイント
物体が静止する条件(まとめ)
ここまでの内容をまとめると、物体が完全に静止するには2つの条件を同時に満たす必要があります。
力だけがつりあっても、モーメントがつりあっていなければ物体は回転します(偶力がその例です)。両方の条件を満たして初めて「静止」です。
まとめ問題
理解度をチェックしましょう。
【問題1】力の三要素として、正しい組み合わせはどれか。
(1)大きさ、速さ、作用点
(2)大きさ、向き、作用点
(3)大きさ、向き、重さ
(4)速さ、向き、作用点
【問題2】長さ2mの棒の左端を支点として、右端に下向き20Nの力を加えた。このときのモーメントの大きさはいくらか。
(1)10N·m
(2)20N·m
(3)40N·m
(4)80N·m
【問題3】偶力について、正しいものはどれか。
(1)偶力の合力は、2つの力の和に等しい
(2)偶力のモーメントは、支点の位置によって変化する
(3)偶力は物体を回転させるだけで、移動させない
(4)偶力は同じ向きの2力で構成される
【問題4】下図のように、支点Oから左に3mの点Aに下向き40Nの力が、支点Oから右に2mの点Bに下向きの力Fが働いている。棒が水平につりあうとき、力Fの大きさはいくらか。ただし、棒の重さは無視する。
(1)20N
(2)40N
(3)60N
(4)80N
【問題5】物体が静止しているための条件について、正しいものはどれか。
(1)力のつりあいだけを満たせばよい
(2)モーメントのつりあいだけを満たせばよい
(3)力のつりあいとモーメントのつりあいの両方を満たす必要がある
(4)力の合力が最小であればよい