結論から言います
消火器を「何本置くか」を決めるのが能力単位(のうりょくたんい)の計算です。
ルールは2つだけ:
- 必要能力単位 = 延べ面積 ÷ 算定基準面積(端数切り上げ)
- 建物のどこからでも消火器まで歩行距離20m以下になるように配置
つまり、「消火能力が足りているか」と「すぐ手が届くか」の2つを同時に満たす必要があります。
この記事では、能力単位の意味・計算方法・歩行距離のルールを、具体例付きで解説します。
消火器の設置義務そのもの(どの建物に必要か)は、先に消火器の設置義務と設置対象の記事を読んでおいてください。
能力単位とは?
能力単位とは、消火器1本の消火能力を数値化したものです。
消火器の銘板(ラベル)には、次のような表記があります:
- A – 3:普通火災(A火災)に対して能力単位3
- B – 7:油火災(B火災)に対して能力単位7
- C:電気火災(C火災)に適応(数値なし、対応するかどうかだけ)
Aの数字が大きいほど普通火災の消火能力が高く、Bの数字が大きいほど油火災の消火能力が高い。建物に必要な消火器の本数を決めるときは、主にA火災(普通火災)の能力単位を使って計算します。
必要能力単位の計算方法
建物に必要な消火能力の合計を求める計算式はシンプルです。
ポイントは算定基準面積です。これは「能力単位1あたり何㎡をカバーできるか」を表す数値で、建物の用途と構造・内装によって変わります。
算定基準面積の一覧
算定基準面積は施行規則第6条で定められています。建物を2つのグループに分けて考えます。
表で整理するとこうなります。
| グループ | 耐火+内装制限 | その他 |
|---|---|---|
| A(特定等) | 200㎡ | 100㎡ |
| B(非特定等) | 400㎡ | 200㎡ |
2つの条件で面積が倍になる理由
「耐火構造 + 内装制限」を満たすと算定基準面積が2倍になる(=必要能力単位が半分になる)のは、次の理由です。
- 耐火構造:主要構造部(柱・壁・床・梁など)が耐火構造であれば、火災が他の区画に燃え広がりにくい
- 内装制限:壁・天井の室内に面する部分が難燃材料以上であれば、火の回りが遅くなる
つまり、建物そのものが燃えにくい構造であれば、消火器に求められる能力を減らしても安全性を確保できるということです。
逆に、木造など「その他」の構造は火が回りやすいため、より多くの消火能力が必要になります。
試験のポイント
歩行距離のルール
能力単位の計算とは別に、消火器の配置場所にもルールがあります。
施行令第10条第2項および施行規則第6条により:
「歩行距離」とは、直線距離ではなく実際に歩くルートの距離です。廊下を曲がったり、部屋を出て通路を歩いたりする距離を含みます。
なぜ歩行距離のルールがあるのか?
能力単位の計算だけでは「消火器が建物のどこにあるか」は決まりません。極端な話、建物の入口にまとめて置いても能力単位は足りるかもしれない。
しかし火災はどこで起きるかわかりません。火元から消火器が遠ければ、取りに行く間に火が大きくなってしまいます。
そこで「どの場所からでも20m以内に消火器がある」状態を確保するのが歩行距離のルールです。能力単位が「量」を保証し、歩行距離が「近さ」を保証する――2つのルールが合わさって初めて消火器の設置が意味を持ちます。
注意
付加設置(追加で必要になるケース)
前の記事で紹介した「パターン2〜4」に該当する場合、上記の基本計算とは別に消火器を追加で設置する必要があります。これを付加設置といいます。
| 対象 | 付加設置の基準 |
|---|---|
| 地階・無窓階・3階以上 | 床面積50㎡ごとに能力単位1以上を追加 |
| 少量危険物・指定可燃物 | 危険物の種類・数量に応じて追加 |
| 火気使用設備 | 設備の種類に応じて追加 |
付加設置は基本計算とは独立した追加分です。「基本の能力単位+付加設置分」が建物全体で必要な能力単位の合計になります。
具体例で計算してみよう
実際の計算を3つの例で確認しましょう。
例1:飲食店(耐火構造・内装制限あり・延べ600㎡)
ステップ1:グループを確認
飲食店は別表(三)項 → グループA(特定防火対象物)
ステップ2:算定基準面積を確認
耐火構造+内装制限あり → 200㎡
ステップ3:必要能力単位を計算
600㎡ ÷ 200㎡ = 3(能力単位)
ステップ4:消火器の本数を決める
粉末消火器10型(A-3)を使う場合 → 3 ÷ 3 = 1本
…ただし、歩行距離20m以下を満たすために、実際には2本以上必要になる可能性が高いです。600㎡の飲食店は、1本だけでは建物の端から20m以内に届かないことが多いからです。
例2:オフィスビル(耐火構造・内装制限なし・延べ1,200㎡)
ステップ1:グループを確認
事務所は別表(十五)項 → グループB(非特定防火対象物)
ステップ2:算定基準面積を確認
耐火構造だが内装制限なし → 両方を満たさないので「その他」→ 200㎡
ステップ3:必要能力単位を計算
1,200㎡ ÷ 200㎡ = 6(能力単位)
ステップ4:消火器の本数を決める
粉末消火器10型(A-3)を使う場合 → 6 ÷ 3 = 2本(最低本数)
試験のポイント
例3:木造の物品販売店舗(延べ300㎡・地階50㎡あり)
ステップ1:基本の能力単位
物品販売店舗は別表(四)項 → グループA(特定)
木造(耐火構造でない)→「その他」→ 算定基準面積100㎡
300㎡ ÷ 100㎡ = 3(能力単位)
ステップ2:付加設置の確認
地階50㎡あり → 床面積50㎡以上 → 付加設置が必要
50㎡ ÷ 50㎡ = 1(追加能力単位)
合計:3 + 1 = 4(能力単位)
粉末消火器10型(A-3)を使う場合 → 4 ÷ 3 = 1.33… → 切り上げて2本(最低本数)
能力単位のまとめ図
なぜ「能力単位」という仕組みがあるのか?
もし「消火器は○本置くこと」とだけ決めたら、どうなるでしょうか。
小さな消火器3本と大きな消火器3本では消火能力がまったく違います。しかし本数だけのルールでは同じ扱いになってしまう。逆に「この消火器を使え」と機種を指定すると、建物の状況に応じた柔軟な選択ができなくなります。
能力単位は「必要な消火能力の総量」を数値で示す仕組みです。どの消火器を何本使うかは自由。ただし合計の消火能力が基準を満たすこと――こういう設計にすることで、建物ごとの事情に合わせた柔軟な消火器選びが可能になっています。
まとめ問題
記事の内容が理解できたか、チェックしてみましょう!
【問題1】
消火器具の設置について、防火対象物の各部分から一の消火器具に至る歩行距離の基準として正しいものはどれか。
(1)直線距離で10m以下
(2)歩行距離で15m以下
(3)歩行距離で20m以下
(4)歩行距離で30m以下
【問題2】
延べ面積800㎡の物品販売店舗で、主要構造部が耐火構造であり、壁・天井の室内に面する部分の仕上げが難燃材料以上であるものの、消火器具の必要能力単位はいくつか。
(1)2
(2)4
(3)6
(4)8
【問題3】
主要構造部が耐火構造の事務所ビル(別表第一(十五)項)で、壁・天井の仕上げが難燃材料ではない場合、算定基準面積はいくつか。
(1)100㎡
(2)200㎡
(3)300㎡
(4)400㎡
【問題4(応用)】
延べ面積500㎡の旅館(耐火構造・内装制限なし)に、粉末消火器10型(能力単位A-3)を設置する場合、能力単位の計算上の最低必要本数はいくつか。
(1)1本
(2)2本
(3)3本
(4)5本