結論から言います。
ガス系消火設備(不活性ガス・ハロゲン化物・粉末)の設置義務は、施行令第13条がスタート地点です。この条文は「水噴霧・泡・不活性ガス・ハロゲン化物・粉末」の5設備をまとめて規定しており、どの設備を選ぶかは防護対象の性質で決まります。
技術基準は設備ごとに分かれており、不活性ガスは施行規則第19条、ハロゲン化物は施行規則第20条、粉末は施行規則第21条で定められています。
設置義務 ── 施行令第13条
施行令13条の「5設備の選択関係」
「屋内消火栓設備の設置義務」や「泡消火設備の設置義務」でも触れましたが、消火設備には選択関係があります。
施行令13条が対象とする場所には、以下の5設備のいずれかを設置する必要があります。
- 水噴霧消火設備(甲1)
- 泡消火設備(甲2)
- 不活性ガス消火設備(甲3)
- ハロゲン化物消火設備(甲3)
- 粉末消火設備(甲3)
どの設備を選ぶかは法律で指定されているわけではなく、防護対象の性質と設置場所の条件によって最適なものを選びます。
油火災で水損NG → 粉末消火設備
電気火災で残留物NG → 不活性ガス・ハロゲン化物消火設備
密閉できない場所 → 粉末消火設備(局所放出)・CO₂(局所放出)
施行令13条の設置対象
施行令13条で5設備のいずれかが必要になる主な対象を見ていきましょう。
| 対象 | 面積基準 |
|---|---|
| 駐車場(屋上) | 床面積 300㎡以上 |
| 駐車場(1階) | 床面積 500㎡以上 |
| 駐車場(地階・2階以上) | 床面積 200㎡以上 |
| 道路の用に供される部分 | 床面積 600㎡以上 |
| 危険物施設 | 指定数量の倍数に応じて |
| 指定可燃物 | 指定数量の1000倍以上 |
地下・上階ほど危険なので基準が厳しく(200㎡)、1階は逃げやすいので緩く(500㎡)、屋上は中間(300㎡)です。
ガス系消火設備が選ばれる典型的な場所
施行令13条の対象の中で、ガス系消火設備が選定される典型的な場所を整理します。
| 場所 | 選ばれる設備 | 理由 |
|---|---|---|
| 電気室・変電室 | 不活性ガス / ハロゲン化物 | 水損を避けたい |
| 通信機器室 | ハロゲン化物 | 残留物も水損もNG |
| サーバールーム | ハロゲン化物 | 精密機器の保護 |
| 美術品収蔵庫 | 不活性ガス(IG系) | 安全性重視・分解生成物NG |
| 駐車場 | 泡 / 粉末 | 油火災対応・コスト |
| ボイラー室 | 粉末(局所放出) | 密閉困難・油火災対応 |
防護区画の要件 ── 全域放出方式の条件
全域放出方式でガスや粉末を放出する場合、防護区画の密閉性が消火の成否を左右します。施行規則では防護区画の構造に厳しい条件を設けています。
壁・床・天井の構造
防護区画の壁・床・天井は、以下のいずれかの構造でなければなりません。
- 耐火構造 ── コンクリート壁など、火災に耐える構造
- 不燃材料で造られたもの ── 鉄板やコンクリートブロックなど
なぜ耐火構造が必要かというと、全域放出方式では部屋全体を消火剤で満たすため、壁に穴が開いたり燃え抜けたりすると消火剤が漏れてしまい、必要な濃度を維持できないからです。
開口部の制限と自動閉鎖装置
防護区画には窓やドア、換気口などの開口部があります。全域放出方式では、これらの開口部からガスが漏れないようにする必要があります。
- 開口部には自動閉鎖装置を設けて、ガス放出前に自動で閉鎖する
- 自動閉鎖できない開口部の面積は防護区画の壁面積の3%以下(不活性ガスの場合)
- 換気装置はガス放出前に自動停止する
消火剤の必要量
全域放出方式で最も重要なのが、「防護区画を消火に必要な濃度にするために、どれだけの消火剤が必要か」という計算です。
不活性ガス消火設備の必要量
防護区画の体積と消火濃度から算出します。
消火濃度は防護対象物(何が燃えるか)によって異なります。
| 消火剤 | 表面火災 | 深部火災 |
|---|---|---|
| CO₂ | 34% | 50% |
| N₂・IG-55・IG-541 | 防護対象物ごとに規定 | (表面火災と同じ) |
深部火災 ── 固体の内部まで燃え進む火災(木材、紙、繊維など)
深部火災は表面を消しても内部がくすぶって再燃するため、より高い消火濃度が必要です。CO₂の場合、表面火災は34%、深部火災は50%と大きく異なります。
ハロゲン化物消火設備の必要量
考え方は不活性ガスと同じですが、消火濃度が低いため必要量は少なくなります。
| 消火剤 | 消火濃度の目安 |
|---|---|
| HFC-23 | 12.4〜16.3% |
| HFC-227ea | 7.0〜9.0% |
| FK-5-1-12 | 4.2〜5.9% |
HFC-227eaの消火濃度は7〜9%程度で、CO₂の34%と比べると格段に少ない量で消火できることがわかります。
粉末消火設備の必要量
粉末は体積ではなく、防護区画の体積1㎥あたりの薬剤量で規定されます。
| 放出方式 | 必要量の考え方 |
|---|---|
| 全域放出 | 防護区画の体積 × 単位体積あたりの薬剤量 |
| 局所放出 | 防護対象物の表面積に基づく薬剤量 |
放出時間の基準
消火剤を何秒以内に放出しなければならないか ── これも設備ごとに決まっています。試験で非常によく問われるポイントです。
| 設備 | 全域放出(表面火災) | 全域放出(深部火災) |
|---|---|---|
| CO₂ | 1分以内 | 7分以内 |
| N₂・IG-55・IG-541 | 60秒以内 | 210秒(3.5分)以内 |
| ハロゲン化物 | 10秒以内 | |
| 粉末 | 30秒以内 | |
粉末が次(30秒) → 沈降前に消火を完了させたい
CO₂は表面1分/深部7分 → 深部火災は内部まで浸透させる時間が必要
IG系は表面60秒/深部210秒 → CO₂より大量のガスを送る必要あり
ハロゲン化物の「10秒」が断トツで短いのがポイントです。
安全装置の技術基準
「不活性ガス消火設備」で解説した安全装置には、それぞれ技術基準が定められています。
| 安全装置 | 基準 |
|---|---|
| 音響警報装置 | 防護区画内および入口付近。音声の場合「消火ガスが放出されます」の内容 |
| 遅延装置 | 起動から放出まで20秒以上の遅延時間 |
| 放出表示灯 | 防護区画の出入口付近に設置。放出中に点灯 |
| 閉止弁 | 防護区画の出入口付近に設置。手動で放出を中止できる |
| 排出装置 | 消火後に消火剤を排出するための換気装置 |
| 自動閉鎖装置 | 全域放出方式の開口部に設置。放出前に自動閉鎖 |
自動起動方式(常時無人の場所)── 感知器の信号で自動起動
どちらの方式でも、音響警報装置と遅延装置は省略できません。自動起動の場合でも、放出前に十分な退避時間を確保する必要があるためです。
貯蔵容器の設置基準
ガス系消火設備の貯蔵容器(ボンベやタンク)は、防護区画の外に設けた専用の場所に設置します。
貯蔵容器室の条件
- 温度が40℃以下に維持される場所(温度上昇で容器内圧力が危険になるため)
- 直射日光や雨水がかからない場所
- 点検・整備がしやすい場所
- 容器の搬出入が容易な場所
CO₂低圧式の追加条件
「不活性ガス消火設備」で解説した低圧式の場合、さらに以下の条件が加わります。
- 貯蔵タンクに液面計を設ける(残量確認用)
- タンク内を-18℃以下に保つ冷凍機を設ける
- タンクの圧力が2.1MPaを超えた場合に警報を発する装置
配管の基準
ガス系消火設備の配管は、高圧のガスや粉末を搬送するため、水系消火設備より厳しい基準が求められます。
- 専用の配管とする(他の設備と兼用しない)
- 配管は鋼管を使用(圧力に耐えるため)
- 耐圧試験に合格した配管を使用
- 配管の末端には噴射ヘッドを設ける
非常電源
ガス系消火設備の制御盤・音響警報装置・放出表示灯などの電気機器には、非常電源が必要です。
- 自家発電設備または蓄電池設備
- 自火報と連動する場合は、自火報の非常電源でカバーされる部分もある
ガス系3設備の技術基準 総合比較
| 項目 | 不活性ガス | ハロゲン化物 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 施行規則19条 | 施行規則20条 |
| 放出時間(表面) | CO₂:1分 / IG系:60秒 | 10秒 |
| 放出時間(深部) | CO₂:7分 / IG系:210秒 | (深部火災なし) |
| 必要量の基準 | 体積×消火濃度 | 体積×消火濃度 |
| 遅延装置 | 20秒以上 | 20秒以上 |
| 項目 | 粉末 |
|---|---|
| 根拠条文 | 施行規則21条 |
| 放出時間 | 30秒 |
| 必要量の基準 | 体積×単位体積あたりの薬剤量 |
| 遅延装置 | 20秒以上 |
まとめ
- 設置義務は施行令13条:水噴霧・泡・不活性ガス・ハロゲン化物・粉末の5設備から選択
- 駐車場の面積基準:地階・2階以上 200㎡ / 屋上 300㎡ / 1階 500㎡
- 全域放出方式の防護区画は耐火構造または不燃材料で、開口部には自動閉鎖装置
- 消火剤の必要量は防護区画の体積×消火濃度で計算(CO₂は表面34%/深部50%)
- 放出時間:ハロゲン化物10秒 < 粉末30秒 < CO₂表面1分 < IG系深部210秒 < CO₂深部7分
- 安全装置は全設備共通:音響警報・遅延装置(20秒以上)・放出表示灯・閉止弁・排出装置
- 貯蔵容器室は40℃以下、防護区画の外に設置
次の記事では、ガス系消火設備の点検・整備と試験方法を解説します。
理解度チェック問題
【問題1】ガス系消火設備の全域放出方式における放出時間の基準として、正しいものはどれか。
(1)CO₂消火設備の表面火災における放出時間は、7分以内である。
(2)ハロゲン化物消火設備の放出時間は、30秒以内である。
(3)粉末消火設備の放出時間は、10秒以内である。
(4)ハロゲン化物消火設備の放出時間は、10秒以内である。
【問題2】ガス系消火設備の防護区画に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)全域放出方式の防護区画の壁・床・天井は、耐火構造または不燃材料で造る。
(2)防護区画の開口部には自動閉鎖装置を設け、ガス放出前に自動で閉鎖する。
(3)防護区画の換気装置は、ガス放出後に自動で停止する。
(4)貯蔵容器は防護区画の外に設置し、温度40℃以下の場所に置く。
【問題3】CO₂消火設備の消火濃度に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)表面火災も深部火災も、消火濃度は同じ34%である。
(2)深部火災の消火濃度は50%で、表面火災の34%より高い。
(3)表面火災は深部火災よりも消火濃度が高い。
(4)消火濃度は防護区画の体積に関係なく一定である。
【問題4(応用)】ある電気室に不活性ガス消火設備(全域放出方式)を設置する際、「IG-541」と「CO₂」のどちらを採用するか検討している。安全性を最優先にする場合、IG-541が選ばれる理由として最も適切なものはどれか。
(1)IG-541はCO₂より消火濃度が低いため、少ない量で消火でき経済的だから。
(2)IG-541は放出時間がCO₂より短いため、素早く消火できるから。
(3)IG-541はCO₂に比べて人体への危険性が低く、消火濃度でも作業者が即座に意識を失うリスクが低いから。
(4)IG-541は環境への影響がCO₂より小さいため、環境規制をクリアしやすいから。