消防設備士と電気工事士は、どちらも建物設備に関わる国家資格ですが、対象とする設備と法令上の業務範囲が異なります。
消防設備士は消防用設備等の工事・整備・点検、電気工事士は電気工作物の設置・変更に伴う電気工事を担います。一方の免状だけで、もう一方の資格が必要な作業まで行えるわけではありません。
この記事の結論
- 消防設備士は設備の類ごとに免状が分かれ、甲種は工事・整備・点検、乙種は整備・点検を行える。
- 電気工事士は第一種・第二種に分かれ、扱える電気工作物の範囲が異なる。
- 電気工事士試験は第一種・第二種とも受験制限がないが、第一種免状の交付には原則3年以上の実務経験が必要。
- 電気工事士免状は、甲種特類を除く甲種消防設備士試験の受験資格の一つになる。
- 電気工事士免状による科目免除は自動ではなく、受験申請時の手続きが必要。
- どちらを先に取るかは、電気工事をしたいのか、消防設備の工事・整備・点検をしたいのかで決める。
消防設備士と電気工事士の違い
| 比較項目 | 消防設備士 | 電気工事士 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 消火設備、警報設備、避難設備など | 屋内配線、配線器具、電気機器などの電気工作物 |
| 資格区分 | 甲種特類・甲種第1~5類、乙種第1~7類 | 第一種、第二種 |
| 業務範囲 | 甲種は該当類の工事・整備・点検、乙種は該当類の整備・点検 | 第一種・第二種と電気工作物の区分により範囲が決まる |
| 試験の受験資格 | 乙種は不要。甲種は必要。甲種特類には別の要件がある | 第一種・第二種とも制限なし |
| 試験方法 | 筆記と、写真・イラスト・図面等による記述式の実技 | 学科と、工具を使って配線を完成させる技能 |
| 取得後の注意 | 定められた期間ごとに消防設備士講習を受ける義務がある | 免状に通常の更新制はないが、第一種は5年以内ごとの定期講習が必要 |
消防設備士ができる仕事
消防試験研究センターは、甲種消防設備士は免状の類に対応する消防用設備等の工事・整備・点検、乙種消防設備士は整備・点検を行えると案内しています。
- 第1類:屋内・屋外消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備など
- 第2類:泡消火設備など
- 第3類:不活性ガス、ハロゲン化物、粉末消火設備など
- 第4類:自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、火災通報装置など
- 第5類:金属製避難はしご、救助袋、緩降機
- 第6類:消火器
- 第7類:漏電火災警報器
免状は類別です。たとえば甲種第4類を持っていても、第1類のスプリンクラー設備の工事を行えるわけではありません。
また、消防用設備等の点検がすべて消防設備士だけの独占業務という説明も正確ではありません。一定の防火対象物では消防設備士または消防設備点検資格者に点検させる必要がありますが、対象物によっては関係者が自ら点検できる場合があります。
電気工事士ができる仕事
電気工事士は、電気工事の欠陥による災害を防ぐため、電気工作物の設置・変更に伴う一定の電気工事に従事する資格です。
第二種電気工事士
第二種電気工事士は、一般用電気工作物等の電気工事に従事できます。住宅、商店、小規模な事務所などの屋内配線が代表例です。
第二種免状だけでは自家用電気工作物の工事はできません。ただし、所定の講習等を経て認定電気工事従事者認定証を取得すると、最大電力500kW未満の需要設備のうち、600V以下で使用する部分の簡易電気工事に従事できる制度があります。
第一種電気工事士
第一種電気工事士は、一般用電気工作物等に加え、最大電力500kW未満の需要設備である自家用電気工作物の電気工事に従事できます。ただし、ネオン工事や非常用予備発電装置工事などの特殊電気工事には別の資格区分があります。
第一種は「試験合格」と「免状交付」を分けて考えます
第一種電気工事士試験は実務経験がなくても受験できます。ただし、試験合格者が第一種免状の交付を受けるには、対象となる電気工事について原則3年以上の実務経験が必要です。試験合格前の対象実務も算入できます。
同じ現場で両資格が関係する場合
自動火災報知設備は第4類消防設備士の対象です。一方、その設備へ電源を供給するための作業などが電気工事士法上の電気工事に当たる場合は、電気工事士の資格範囲も関係します。
このため、消防設備会社や電気設備会社では、甲種第4類と電気工事士の両方が業務に役立つことがあります。ただし、次の点には注意が必要です。
- 一つの工事の全作業を同じ資格者が担当する必要はなく、資格者ごとに担当を分けることもできる。
- 電気工事士免状だけで自動火災報知設備の工事を行えるわけではない。
- 消防設備士免状だけで、電気工事士法上の電気工事を行えるわけではない。
- 必要資格は設備名だけでなく、電気工作物の区分と具体的な作業内容で判断する。
- 現場で判断が分かれる場合は、所轄消防署、産業保安監督部、電気工事業者等へ作業前に確認する。
旧本文にあった「受信機の電源側端子と線路側端子が一律の資格境界である」「両資格があれば全作業を単独で担当できる」という説明は、工事条件を省略した断定になるため削除しました。
試験の違い
| 比較項目 | 消防設備士 | 電気工事士 |
|---|---|---|
| 知識試験 | 四肢択一式の筆記 | 四肢択一式の学科。筆記方式またはCBT方式 |
| 実技・技能 | 写真、イラスト、図面等を使う記述式。工具による実演ではない | 持参した工具と支給材料で配線を完成させる |
| 学習範囲 | 消防法令、設備の構造・機能、基礎知識、整備・工事など | 電気理論、配線設計、材料・工具、施工、検査、配線図、法令など |
| 難しさの性質 | 類ごとの設備知識と、記述・図面の読み取りが必要 | 学科に加え、時間内に欠陥なく施工する技能が必要 |
合格率だけで「どちらが簡単」とは決められません。消防設備士は受験する類で内容が変わり、電気工事士は学科と技能の両方に合格する必要があります。固定の勉強時間や、手先の器用さだけで向き不向きを断定するのは避けましょう。
電気工事士免状が消防設備士試験に与えるメリット
甲種試験の受験資格になる
第一種または第二種電気工事士免状の交付を受けている人は、甲種特類を除く甲種消防設備士試験の受験資格を満たします。
必要なのは試験の合格証ではなく、電気工事士免状です。第一種試験に合格していても免状交付前であれば、公式の受験資格欄にある「電気工事士免状の交付を受けている者」には該当しません。
申請により科目免除を受けられる
電気工事士免状を持つ人は、消防設備士試験の受験申請時に手続きすると、受験する類に応じた科目免除を受けられます。資格を持っているだけで自動的に免除される制度ではありません。
| 受験区分 | 免除なし | 電気工事士免状で免除申請 |
|---|---|---|
| 甲種第4類 | 筆記45問・実技7問・3時間15分 | 筆記22問と実技1問が免除。残りは筆記23問・実技6問・2時間30分 |
| 乙種第7類 | 筆記30問・実技5問・1時間45分 | 筆記14問と実技5問が免除。残りは筆記16問・実技なし・1時間 |
旧本文の「甲種第4類は45問から32問になる」は、現行の公式一覧表と一致しません。電気工事士免状のみで免除申請する場合、甲種第4類の残りは筆記23問、実技6問です。
免除範囲は受験する類と保有資格の組合せで変わります。詳しくは、現行基準で確認済みの消防設備士の科目免除と、受験時点の公式一覧表を確認してください。
消防設備士免状で電気工事士試験は免除されるか
電気技術者試験センターが案内する第一種・第二種電気工事士の学科試験免除対象に、消防設備士免状は掲載されていません。
つまり、電気工事士から消防設備士へ進む場合には受験資格・科目免除の制度がありますが、消防設備士から電気工事士へ進む場合に同じ制度が逆向きに適用されるわけではありません。
どちらを先に取るべきか
電気工事を仕事にしたい場合
住宅や店舗の配線、照明、コンセント、配線器具などの電気工事を担当したいなら、第二種電気工事士から検討するのが自然です。試験に受験制限がなく、免状取得後は一般用電気工作物等の電気工事に従事できます。
消防設備の点検・整備から始めたい場合
消火器、自動火災報知設備、避難器具など、勤務先が扱う消防設備が明確なら、その設備に対応する乙種から始める方法があります。乙種消防設備士試験に受験資格はありません。
「初心者は必ず乙種第6類」という決まりはありません。自動火災報知設備を扱う会社なら第4類、消火器を扱う会社なら第6類というように、求人票と勤務先の業務を基準に選びます。
甲種第4類で自動火災報知設備の工事をしたい場合
甲種第4類を目標にし、ほかの甲種受験資格を持っていない人には、先に第二種電気工事士免状を取得する順序が合理的な場合があります。電気工事士免状が甲種の受験資格になり、申請すれば電気分野等の科目免除も受けられるためです。
ただし、指定学科の卒業、所定単位、他資格、実務経験など、別の甲種受験資格を既に持つ人は、電気工事士を先に取らなければ甲種第4類を受けられないわけではありません。
勤務先が決まっている場合
会社が実際に必要としている免状を優先します。資格名の知名度だけでなく、次を確認してください。
- 点検、整備、工事のどこを担当するのか。
- 消防設備なら、どの類の設備を扱うのか。
- 電気工事なら、一般用か自家用か、どの工事区分を扱うのか。
- 資格手当は免状保有だけで付くのか、実務従事や選任が条件か。
- 受験料、免状申請、講習、工具・教材費を会社が負担するか。
ダブルライセンスのメリットと限界
消防設備士と電気工事士の両方を持つと、消防設備と電気設備が接続する工事、消防設備会社の改修業務、電気設備会社の防災設備業務などで担当候補になれる範囲が広がります。
ただし、免状を二つ持てば必ず年収が上がる、資格手当が一定額付く、一人で独立できるという共通ルールはありません。給与と役割は、会社の事業内容、担当業務、実務経験、地域、夜間・休日勤務、施工管理や書類作成の責任によって変わります。
求人を比較するときは、資格手当の金額だけでなく、基本給、固定残業代、賞与、担当工事、夜間作業、出張、運転、講習費用、資格更新管理まで確認してください。
よくある質問
電気工事士免状があれば甲種消防設備士を受験できますか
甲種特類を除き、受験資格の一つになります。第一種・第二種のどちらでも対象ですが、試験合格だけでなく電気工事士免状の交付を受けていることが必要です。
第一種電気工事士は実務経験がないと受験できませんか
受験はできます。実務経験が関係するのは、試験合格者が第一種免状の交付を申請するときです。原則3年以上の対象実務が必要で、試験合格前の実務も算入できます。
消防設備士の実技試験では工具を使いますか
使いません。消防設備士の実技試験は、写真・イラスト・図面等を用いた記述式です。電気工事士の技能試験は、工具と支給材料を使って配線を完成させます。
ダブルライセンスなら一人で自動火災報知設備を設置できますか
免状だけで一律には判断できません。作業内容、電気工作物の区分、消防設備の類、特殊電気工事の有無、届出、会社の施工体制などを確認する必要があります。
どちらの年収が高いですか
資格名だけでは比較できません。消防設備士は資格であり、勤務先は消防設備会社、ビル管理会社、電気・設備工事会社などに分かれます。電気工事士も担当設備、経験、施工管理、勤務条件で賃金が変わります。根拠のない平均年収やダブルライセンス加算ではなく、応募先の労働条件を比較してください。
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まとめ
- 消防設備士は消防用設備等、電気工事士は電気工作物の電気工事を扱う。
- 消防設備士は類別で、甲種は工事・整備・点検、乙種は整備・点検を行える。
- 電気工事士は第一種・第二種で作業範囲が異なる。
- 第一種・第二種電気工事士試験は誰でも受験できるが、第一種免状の交付には原則3年以上の実務経験が必要。
- 電気工事士免状は、甲種特類を除く甲種消防設備士試験の受験資格になる。
- 甲種第4類の電気工事士免除は、筆記22問と実技1問。残りは筆記23問・実技6問。
- 取得順は一律ではなく、担当したい設備と勤務先の業務から決める。
参照した公式ページ
- 消防試験研究センター「消防設備士について」
- 消防試験研究センター「消防設備士試験」
- 消防試験研究センター「甲種について」
- 消防試験研究センター「試験科目及び問題数」
- 消防試験研究センター「試験の方法・合格基準」
- 消防試験研究センター「一部免除一覧表(甲種)」
- 消防試験研究センター「一部免除一覧表(乙種)」
- 電気技術者試験センター「電気工事士の資格概要」
- 電気技術者試験センター「第一種電気工事士の試験概要」
- 電気技術者試験センター「第二種電気工事士の試験概要」
- 電気技術者試験センター「電気工事士の免状交付」
- 経済産業省「第一種電気工事士の定期講習Q&A」
資格範囲、受験資格、科目免除、講習制度は改定されることがあります。受験・作業時は、消防試験研究センター、電気技術者試験センター、経済産業省、所轄行政機関の最新情報を確認してください。
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