甲種3類

ハロゲン化物消火設備の構造と機能|HFC-23・HFC-227ea・FK-5-1-12の違いをわかりやすく解説

結論から言います。

ハロゲン化物消火設備は、フッ素を含む化合物を放出して、燃焼の連鎖反応を化学的に止めて消火する設備です。「不活性ガス消火設備」が酸素を奪う"窒息消火"だったのに対し、ハロゲン化物は酸素がまだあるのに火を消す"抑制消火(負触媒効果)"が特徴です。

少ない量で素早く消火でき、消火後に残留物も残りません。サーバールームや電算機室で多く採用されています。

ハロゲン化物消火設備 ── 押さえるべき3つのポイント
ハロンと代替剤
ハロン1301は製造禁止
代替剤はHFC-23
HFC-227ea・FK-5-1-12
負触媒効果
燃焼の連鎖反応を
化学的に遮断する
少量で高い消火力
環境への影響
HFC系は温室効果あり
FK-5-1-12はGWP=1
環境性能が選定に影響

ハロンの歴史 ── なぜ代替剤が必要になったのか

ハロゲン化物消火設備を理解するには、まずハロンの歴史を知る必要があります。

ハロン1301 ── かつての最強消火剤

ハロン1301(ブロモトリフルオロメタン・CBrF₃)は、消火剤として理想的な性質を持っていました。

  • 少量で消火できる(消火濃度が低い)
  • 電気絶縁性が高い(精密機器に安全)
  • 人体への毒性が比較的低い
  • 消火後に残留物が残らない

まさに「完璧な消火剤」と言えるほどの性能で、電算機室・通信機室・美術品収蔵庫などで広く使われました。

オゾン層の破壊 ── モントリオール議定書

しかし1980年代、ハロンに含まれる臭素(Br)がオゾン層を破壊することが判明します。ハロン1301のオゾン破壊係数(ODP)は10.0と非常に高い値でした。

これを受けて、1987年のモントリオール議定書によりハロンの段階的な削減が決定され、日本では1994年に新規製造が全面禁止されました。

クリティカルユース(必要不可欠用途)
ハロンは新規製造禁止ですが、既存設備での使用は認められています。これを「クリティカルユース」と呼びます。代替剤では対応できない重要施設(航空機・船舶・軍事施設など)で、回収・再利用したハロンが限定的に使われ続けています。ただし試験では「新設のハロゲン化物消火設備」=代替消火剤が前提です。

ハロン代替消火剤 ── 3種類の詳細

ハロン1301の製造禁止を受けて開発されたのが、以下の3種類の代替消火剤です。いずれもオゾン層を破壊しません。

HFC-23(トリフルオロメタン)

化学式 CHF₃
沸点 -82.1℃
常温での状態 気体
貯蔵状態 圧縮液化ガス
ODP 0(オゾン層破壊なし)
GWP 14,800(非常に高い)

沸点が-82.1℃と非常に低いため、容器から放出されるとすぐに気化してガスになります。消火濃度は約12.4〜16.3%で、不活性ガスより少ない量で消火できます。ただしGWP(地球温暖化係数)が14,800と極めて高いのが欠点です。

HFC-227ea(ヘプタフルオロプロパン)

化学式 CF₃CHFCF₃
沸点 -16.4℃
常温での状態 気体(加圧で液化可能)
貯蔵状態 圧縮液化ガス
ODP 0(オゾン層破壊なし)
GWP 3,220(高い)

ハロン代替消火剤の中で最も普及しているのがHFC-227eaです。消火濃度は約7.0〜9.0%と3種類の中で最も低く、少ない量で効率的に消火できます。GWPはHFC-23より低いですが、それでも3,220と高い数値です。

FK-5-1-12(ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オン)

化学式 CF₃CF₂C(O)CF(CF₃)₂
沸点 49.2℃
常温での状態 液体
貯蔵状態 液体(窒素ガスで加圧)
ODP 0(オゾン層破壊なし)
GWP 1(極めて低い)

3種類の中で唯一、常温で液体の消火剤です。沸点が49.2℃と高いため、容器内では液体のまま存在し、放出後に熱で気化して消火します。

最大の特徴はGWPが1という環境性能の高さです。HFC系の温室効果問題を解決する「次世代の消火剤」として注目されています。ただし、消火に必要な量はHFC-227eaより多くなります。

FK-5-1-12の貯蔵方法
FK-5-1-12は常温で液体なので、そのままでは放出できません。容器内に窒素ガス(N₂)を封入して加圧し、その圧力で液体を押し出します。放出された液体は配管や噴射ヘッドを通る過程、あるいは防護区画の熱で気化して消火作用を発揮します。

3種類の消火剤を比較

項目 HFC-23 HFC-227ea
沸点 -82.1℃ -16.4℃
常温の状態 気体 気体
消火濃度 12.4〜16.3% 7.0〜9.0%
GWP 14,800 3,220
普及度 中程度 最も普及
項目 FK-5-1-12
沸点 49.2℃
常温の状態 液体
消火濃度 4.2〜5.9%(体積比)
GWP 1
普及度 増加中
試験対策:3つの消火剤の覚え方
HFC-23 → 沸点が最も低い(-82℃)。GWPが最も高い(14,800)
HFC-227ea → 最も普及。消火濃度が最も低い(少量で消火)
FK-5-1-12 → 唯一の液体。GWPが最も低い(1)。環境に最も優しい

消火原理 ── 負触媒効果のメカニズム

ガス系消火設備の全体像」で簡単に紹介した負触媒効果を、もう少し詳しく見てみましょう。

燃焼の連鎖反応とは

火が燃え続けるためには、燃焼の連鎖反応が必要です。具体的には、炎の中で以下の反応が繰り返されています。

  • 燃料(可燃物)が熱で分解 → 活性ラジカル(H・やOH・)が発生
  • ラジカルが酸素と反応 → 熱とさらに新しいラジカルを生成
  • 新しいラジカルがまた反応 → 連鎖的に燃焼が続く

この連鎖反応が途切れなく続くことで、火は燃え続けます。

ハロゲン化物が連鎖反応を止める仕組み

ハロゲン化物が炎の中に放出されると、高温で分解されてハロゲンラジカル(F・やBr・)が生まれます。このハロゲンラジカルが、燃焼に必要なH・やOH・を捕捉(トラップ)してしまいます。

燃焼の連鎖反応を維持するためのラジカルが奪われるため、連鎖が途切れて火が消えるのです。

負触媒効果のイメージ
燃焼中 → H・やOH・ラジカルが次々発生
ハロゲン化物を放出
F・
ハロゲンラジカルがH・やOH・を捕捉
連鎖反応が途切れる
酸素はあるのに火が消える → 消火完了
不活性ガスとの決定的な違い
不活性ガス → 酸素濃度を下げて「燃えられない環境」を作る(物理的)
ハロゲン化物 → 酸素がある状態で「燃焼反応そのもの」を止める(化学的)

だからハロゲン化物は不活性ガスより少ない量で消火できます。部屋全体の酸素を入れ替える必要がないからです。

ハロゲン化物消火設備の構成機器

基本構成は「不活性ガス消火設備」とほぼ同じです。「貯蔵容器→容器弁→集合管→選択弁→配管→噴射ヘッド」の流れは変わりません。

ただし、消火剤の性質の違いからいくつかの相違点があります。

ハロゲン化物消火設備の構成
1
貯蔵容器 ── 消火剤を充てんしたボンベ群
2
容器弁・起動装置 ── 電気式またはガス圧式
3
集合管 ── 複数ボンベからの消火剤を合流
4
選択弁 ── 放出先の防護区画を選択
5
配管 ── 鋼管で消火剤を搬送
6
噴射ヘッド ── 防護区画内に消火剤を均一に放出

不活性ガスとの構造上の違い

項目 不活性ガス ハロゲン化物
容器の数 多い(大量のガスが必要) 少ない(少量で消火)
貯蔵圧力 CO₂:6MPa / IG系:15〜30MPa 2.5〜4.2MPa程度
低圧式 あり(CO₂のみ) なし
放出方式 全域・局所・移動式 全域・移動式のみ

ハロゲン化物は少量で消火できるため、必要な貯蔵容器の数が少なくて済みます。貯蔵容器室のスペースがコンパクトになるのもメリットです。

放出方式 ── 全域放出方式と移動式

全域放出方式

ハロゲン化物消火設備のメインの方式です。防護区画を密閉し、消火剤を部屋全体に行き渡らせて消火します。

不活性ガスの全域放出方式と基本的な動きは同じですが、必要な消火濃度が低いため、放出時間が短く済む傾向があります。

移動式

ホースリールとノズルを備え、人が手動で消火剤を噴射する方式です。HFC-23・HFC-227ea・FK-5-1-12のいずれでも移動式があります。

局所放出方式 ── なぜ認められないのか

ガス系消火設備の全体像」でも触れましたが、ハロゲン化物消火設備には局所放出方式が認められていません

その理由は消火原理にあります。ハロゲン化物は燃焼の連鎖反応を化学的に止めることで消火します。これが機能するためには、対象物の周囲に一定濃度以上のガスが維持される必要があります。

局所放出方式のように開放空間で噴射すると、ガスがすぐに拡散して消火に必要な濃度を維持できません。CO₂の局所放出は「重いガスが対象物の周囲に滞留する」性質を利用していますが、ハロゲン化物にはそのような滞留効果が弱いのです。

分解生成物に注意
ハロゲン化物は炎の中で分解されて消火作用を発揮しますが、分解時にフッ化水素(HF)などの有害な分解生成物が発生します。HFは目や皮膚に対して刺激性があります。消火後は速やかに排出装置で換気してから入室する必要があります。

安全装置

ハロゲン化物消火設備の安全装置は、不活性ガス消火設備と基本的に同じです。

  • 音響警報装置 ── 放出前に退避を警報
  • 遅延装置 ── 起動から放出まで20秒以上の遅延
  • 放出表示灯 ── 「消火ガス放出中」を表示
  • 閉止弁(非常停止装置) ── 人が取り残された場合に放出を中止
  • 自動閉鎖装置 ── 開口部を自動で閉じて密閉
  • 排出装置 ── 消火後にガスと分解生成物を排出

ハロゲン化物はCO₂ほど人体への危険性は高くありませんが、分解生成物(HF等)のリスクがあるため、安全装置の省略はできません

起動方式のまとめ
不活性ガスもハロゲン化物も、起動方式は同じです。
手動起動 ── 人が退避を確認してから起動ボタンを押す(原則)
自動起動 ── 感知器の信号で自動的に起動する(常時無人の場所で採用)
どちらの場合も、遅延装置と音響警報は必ず作動します。

ハロゲン化物消火設備と不活性ガス消火設備の総合比較

項目 不活性ガス ハロゲン化物
消火原理 窒息(酸素を薄める) 抑制(反応を止める)
必要量 多い 少ない
局所放出 ○(CO₂のみ) ×
環境問題 なし HFC系は温室効果
分解生成物 なし あり(HF等)
コスト 比較的安い 高い

まとめ

  • ハロゲン化物消火設備は負触媒効果(抑制消火)で燃焼の連鎖反応を止める
  • ハロン1301はオゾン層破壊のため1994年に製造禁止(クリティカルユースのみ残存)
  • 代替消火剤はHFC-23・HFC-227ea・FK-5-1-12の3種類
  • HFC-227eaが最も普及、FK-5-1-12はGWP=1で環境に最も優しい
  • FK-5-1-12は唯一常温で液体(N₂加圧で放出)
  • 局所放出方式は認められていない(ガスが拡散して濃度を維持できないため)
  • 消火時に分解生成物(HF等)が発生するため、消火後は換気が必要

次の記事では、粉末消火設備の構造と機能を詳しく解説します。

理解度チェック問題

【問題1】ハロン1301に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)ハロン1301はオゾン層を破壊しないが、温室効果が高いため製造禁止になった。
(2)モントリオール議定書に基づき、日本では1994年にハロンの新規製造が全面禁止された。
(3)ハロン1301は現在、すべての既存設備から撤去が義務づけられている。
(4)ハロン1301の製造禁止を受けて、不活性ガス消火設備が代替として開発された。

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正解:(2)
ハロン1301は臭素(Br)によるオゾン層破壊のため、モントリオール議定書に基づいて日本では1994年に新規製造が全面禁止されました。(1)はオゾン層を破壊するのが製造禁止の主な理由なので誤りです。(3)は既存設備での使用(クリティカルユース)は認められており、撤去義務はありません。(4)は不活性ガス消火設備はハロン以前から存在しており、「代替として開発された」のはHFC-23やHFC-227ea等のハロン代替消火剤です。

【問題2】ハロン代替消火剤に関する記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)HFC-227eaは、ハロン代替消火剤の中で最も広く普及している。
(2)FK-5-1-12は常温で液体であり、容器内で窒素ガスにより加圧して貯蔵する。
(3)HFC-23は3種類の中でGWPが最も低く、環境に最も優しい消火剤である。
(4)3種類のハロン代替消火剤は、いずれもオゾン破壊係数(ODP)が0である。

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正解:(3)
HFC-23のGWPは14,800で、3種類の中で最も高いです。GWPが最も低い(=環境に最も優しい)のはFK-5-1-12(GWP=1)です。(1)HFC-227eaが最も普及しているのは正しいです。(2)FK-5-1-12は沸点49.2℃で常温液体であり、N₂加圧で貯蔵するのは正しいです。(4)3種類ともODP=0(オゾン層破壊なし)は正しいです。

【問題3】ハロゲン化物消火設備の放出方式に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)ハロゲン化物消火設備は、全域放出方式・局所放出方式・移動式のすべてが認められている。
(2)ハロゲン化物消火設備は全域放出方式のみで、移動式は認められていない。
(3)局所放出方式が認められていないのは、ガスが拡散して消火に必要な濃度を維持できないためである。
(4)局所放出方式が認められていないのは、ハロゲン化物の人体への毒性が高すぎるためである。

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正解:(3)
ハロゲン化物は負触媒効果で消火するため、対象物の周囲に一定濃度以上のガスが維持される必要があります。局所放出方式では開放空間でガスが拡散してしまい、消火に必要な濃度を維持できないため認められていません。(1)は局所放出方式が認められていないため誤りです。(2)は移動式は認められているため誤りです。(4)は毒性ではなく消火原理の問題です。

【問題4(応用)】新設のサーバールームに消火設備を導入する際、環境への影響を最小限に抑えることが設計条件として求められた。ハロゲン化物消火設備を選定する場合、最も適切な消火剤はどれか。その理由も含めて正しいものを選べ。

(1)HFC-23。沸点が最も低く、ガスとして素早く拡散するため消火速度が速い。
(2)HFC-227ea。最も普及しており、施工実績が豊富で信頼性が高い。
(3)FK-5-1-12。GWPが1と極めて低く、地球温暖化への影響が最も小さい。
(4)ハロン1301。消火性能が最も高く、環境への影響はクリティカルユースで免除される。

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正解:(3)
環境への影響を最小限にするという条件なら、FK-5-1-12が最適です。GWP(地球温暖化係数)が1と極めて低く、HFC-23(14,800)やHFC-227ea(3,220)と比べて桁違いに環境負荷が小さいです。(1)のHFC-23はGWPが最も高く環境条件に合いません。(2)のHFC-227eaは普及度は高いですがGWP=3,220で環境条件の最適解ではありません。(4)のハロン1301は新規製造禁止であり、新設の設備には使用できません。

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