結論:加圧送水装置は「水に圧力をかけて送り出す心臓部」
結論から言います。
加圧送水装置とは、水源の水に圧力をかけて消火栓やスプリンクラーヘッドまで送り届ける装置です。人間の体に例えれば心臓に当たります。
「水系消火設備の全体像」の記事で紹介した5つの水系設備すべてに共通する、最も重要な構成機器です。
加圧送水装置には3つの方式があり、建物の規模や条件に応じて使い分けます。
方式① ポンプ方式 — 最も一般的な加圧送水
ポンプ方式は、電動ポンプで水源の水を吸い上げて加圧し、配管を通じて送水する方式です。消防用ポンプには主に渦巻ポンプ(うずまきポンプ)が使われます。
渦巻ポンプのしくみ
渦巻ポンプは、ケーシング(殻)の中で羽根車(インペラー)を高速回転させ、遠心力で水を外側に押し出すポンプです。
渦巻ポンプの重要な特性を押さえておきましょう。
- 吐出量(Q) — ポンプが1分間に送り出す水の量(L/min)
- 全揚程(H) — ポンプが水を押し上げられる高さ(m)。実揚程+摩擦損失水頭+放水圧力換算水頭の合計
- 自吸能力がない — ポンプ内が空(空気だけ)の状態では水を吸い上げられない。だから呼水装置が必要
ポンプの全揚程
全揚程は試験で重要な概念です。ポンプが水を送り届けるために必要な「圧力の合計」を高さに換算したものです。
例えば、地下1階のポンプから10階建てビルの最上階の消火栓まで水を送る場合、「高低差(実揚程)+配管抵抗(摩擦損失)+消火栓で必要な放水圧力」のすべてを合計した全揚程以上の性能を持つポンプが必要です。
ポンプの起動方式
消防ポンプは、設備の種類によって起動方式が異なります。
- 屋内消火栓設備 — 消火栓箱の起動ボタンで遠隔起動(「屋内消火栓設備の構造と機能」参照)
- スプリンクラー設備 — 流水検知装置の圧力スイッチで自動起動(「流水検知装置と一斉開放弁」参照)
- 水噴霧消火設備 — 感知器連動で自動起動
方式② 高架水槽方式 — 重力で送水する
高架水槽方式は、建物の屋上に設置した水槽から重力(自然落下)で水を送る方式です。
しくみと特徴
高い位置にある水は、位置エネルギーによって下方に自然に圧力がかかります。この圧力を利用して消火栓やヘッドに水を送ります。
- ポンプが不要 — 重力だけで送水するため、停電時でも使える
- 維持管理が容易 — ポンプの点検や故障の心配がない
- 水量が限られる — 水槽の容量分しか放水できない
- 圧力は高さで決まる — 水槽とヘッドの高低差が小さいと、上層階では十分な放水圧力が得られない
圧力と高さの関係
使われる場所
高架水槽方式は、低層の建物で消火栓の数が少ない場合に限られます。高層ビルでは上層階の圧力が不足するため、ポンプ方式が使われます。
方式③ 圧力タンク方式 — 圧縮空気で押し出す
圧力タンク方式は、密閉されたタンクの中に水と圧縮空気を封入し、空気の圧力で水を押し出す方式です。
しくみと特徴
- コンパクト — タンク1つで完結するため、設置スペースが小さい
- 水量が少ない — タンク容量に限りがあるため、大量放水には向かない
- 圧力低下 — 放水するにつれてタンク内の圧力が下がっていく
- 補助的な用途 — 小規模施設やポンプの補助として使われる
3つの方式を比較
| 項目 | ポンプ方式 | 高架水槽方式 | 圧力タンク方式 |
|---|---|---|---|
| 送水の原理 | ポンプの圧力 | 重力(落差) | 圧縮空気の圧力 |
| 電源 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 送水量 | 大容量 | 水槽容量分 | タンク容量分 |
| 圧力の安定性 | 安定 | 安定(落差一定) | 低下していく |
| 採用実績 | 最も多い | 低層建物 | 小規模・補助 |
試験で出るのは圧倒的にポンプ方式です。高架水槽方式と圧力タンク方式は「こういう方式もある」レベルで押さえておけば十分です。
附属装置 — ポンプを支える重要な機器たち
ポンプ方式の加圧送水装置には、ポンプ本体のほかにいくつかの附属装置が必要です。
呼水装置 — なぜポンプに「呼び水」が必要なのか
附属装置の中で最も重要なのが呼水装置(こすいそうち)です。
なぜ必要なのか?
消防用の渦巻ポンプは自吸能力がありません。つまり、ポンプ内に空気しかない状態でモーターを回しても、水を吸い上げることができません。空気をいくら回しても空気が出るだけ――これが「空回り」です。
だから、ポンプが確実に水を吸い上げられるように、あらかじめポンプ内を水で満たしておく必要があります。これが「呼び水」です。
呼水装置の構成
呼水装置のポイントを整理します。
- 呼水槽 — 容量100L以上の小型水槽。ポンプより高い位置に設置
- 逆止弁(フート弁) — 吸水管の先端に設置。ポンプ停止時に水が落ちないようにする
- 自動給水装置 — 呼水槽の水が減ったら自動で補給する
- 減水警報装置 — 呼水槽の水位が異常に下がったときに警報を出す
水源 — 消火に必要な水を蓄える
水源は、消火に必要な水を蓄えておくタンクや水槽です。設備の種類に応じて有効水量(最低限必要な水の量)が定められています。
| 設備 | 計算の考え方 |
|---|---|
| 屋内消火栓 | 最大2栓同時使用 × 20分間 |
| スプリンクラー | ヘッド10個(基準階)× 20分間 |
| 屋外消火栓 | 最大2栓同時使用 × 20分間 |
具体的な水量の数値は法令の記事で詳しく扱いますが、考え方として「同時使用する数 × 放水量 × 放水時間」で算出することを押さえておきましょう。
補助用高架水槽 — ポンプ起動までの「つなぎ」
補助用高架水槽は、建物の屋上に設置される小型の水槽です。呼水装置の呼水槽とは別物です。
なぜ必要なのか? ―― ポンプは起動信号を受けてから実際に放水圧力が立ち上がるまでに数秒〜十数秒かかります。この間、配管内の水圧がゼロだと、消火栓を開けても水が出ません。
補助用高架水槽は、この「ポンプが立ち上がるまでのつなぎ」として配管内の圧力を維持します。高い位置にあるため、重力で配管に水圧をかけ続けられるわけです。
まとめ — 加圧送水装置と附属装置の全体像
理解度チェック! 練習問題
ここまでの内容を確認しましょう。
【問題1】加圧送水装置の方式のうち、消防用設備等で最も多く採用されている方式はどれか。
- 高架水槽方式
- 圧力タンク方式
- ポンプ方式
- 動力消防ポンプ方式
【問題2】消防用の渦巻ポンプに呼水装置が必要な理由として、正しいものはどれか。
- ポンプの回転速度を安定させるため
- 渦巻ポンプには自吸能力がなく、空気だけでは水を吸い上げられないため
- ポンプの過熱を防ぐための冷却水を供給するため
- 配管内の水圧を常時高く保つため
【問題3】ポンプの全揚程の構成要素として、正しい組み合わせはどれか。
- 実揚程、ポンプ効率、吐出量
- 実揚程、摩擦損失水頭、放水圧力換算水頭
- 吸水量、吐出圧力、ポンプ回転数
- 水源容量、配管口径、ノズル口径
【問題4】高架水槽方式の加圧送水装置の特徴として、正しいものはどれか。
- 大容量の放水が可能で、高層ビルに最も適している
- 圧縮空気で水を押し出すため、電源が必要である
- 重力で送水するため、ポンプや電源が不要である
- ポンプ方式より設置コストが高い
【問題5】補助用高架水槽の設置目的として、正しいものはどれか。
- 呼水槽の水が不足したときに自動補給するため
- 水源の有効水量を増やすため
- ポンプが起動するまでの間、配管内の圧力を維持するため
- 非常電源の代わりにポンプを駆動するため