結論から言います。
泡消火薬剤は大きく分けて3種類あります。たん白泡・合成界面活性剤泡・水成膜泡です。それぞれ泡の性質がまったく異なり、使う場所や目的によって選び分けます。
さらに、水と薬剤を混ぜる混合装置の仕組みも甲2の重要テーマです。「泡消火設備の全体像と消火原理」で学んだ「水+薬剤→泡水溶液」を作る工程を、この記事で詳しく解説します。
たん白泡消火薬剤
原料と製法
たん白泡は、動物性たん白質(主に牛や馬のひづめ、角などの加水分解物)を原料とする消火薬剤です。名前のとおり「たん白質」から作られています。
見た目は茶褐色のドロッとした液体で、独特の臭いがあります。
泡の特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 耐熱性 | 高い ── 熱で泡が壊れにくい |
| 耐油性 | 高い ── 油に触れても泡が消えにくい |
| 還元時間 | 長い ── 泡が長持ちする |
| 流動性 | 低い ── 泡がネバネバして広がりにくい |
| 発泡 | 低発泡のみ |
たん白泡の最大の強みは耐熱性と耐油性です。高温の油面に放出しても泡が壊れにくく、油に溶けずにしっかり油面を覆い続けます。そのため石油タンクの消火に適しています。
一方、流動性が低いのが弱点です。泡がネバネバしているため、広い面積に素早く広がるのが苦手です。
たん白泡のバリエーション
たん白泡をベースに改良した薬剤もあります。
- フッ素たん白泡 ── たん白泡にフッ素系界面活性剤を添加。流動性が向上し、耐油性はそのまま。石油タンクの液面下注入方式(泡をタンクの底から注入する方式)にも使える
合成界面活性剤泡消火薬剤
原料と製法
合成界面活性剤泡は、合成界面活性剤(洗剤の成分と同じ系統の化学物質)を主成分とする消火薬剤です。身近な例では、台所用洗剤を泡立てたときの泡をイメージするとわかりやすいです。
見た目は無色〜淡黄色の液体で、たん白泡のような強い臭いはありません。
泡の特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 耐熱性 | 低い ── 熱で泡が壊れやすい |
| 耐油性 | 低い ── 油に触れると泡が消えやすい |
| 還元時間 | 短い ── 泡が消えやすい |
| 流動性 | 高い ── サラサラと広がる |
| 発泡 | 低発泡〜高発泡まで対応 |
合成界面活性剤泡の最大の強みは流動性の高さと高発泡が可能なことです。サラサラした泡が素早く広がり、さらに膨張比を上げれば大量の泡で空間を埋めることもできます。
しかし、耐熱性・耐油性は3種類の中で最も低いです。高温の火災面では泡がすぐに壊れてしまいます。
主な用途
- 高発泡方式 ── 航空機格納庫や船倉など、広い空間を泡で埋める用途
- 駐車場 ── 低発泡で使用。流動性を活かして車の下にも泡を行き渡らせる
水成膜泡消火薬剤
原料と製法
水成膜泡(すいせいまくあわ)は、フッ素系界面活性剤を主成分とする消火薬剤です。英語名の頭文字をとってAFFF(Aqueous Film Forming Foam)とも呼ばれます。
泡の特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 耐熱性 | 中程度 |
| 耐油性 | 高い ── 水の膜が油面を覆う |
| 還元時間 | 中程度 |
| 流動性 | 高い ── 素早く広がる |
| 発泡 | 低発泡 |
水成膜泡の最大の特徴は「水成膜」を形成することです。泡が油面に放出されると、泡に含まれるフッ素系界面活性剤が油面の上に薄い水の膜(アクアフィルム)を作ります。
この水の膜が油面と泡の間に挟まることで:
- 油面を確実に遮断 ── 泡が多少壊れても水の膜が残る
- 再着火を防止 ── 泡が消えた後も水の膜が保護し続ける
- 即効性 ── 流動性が高く素早く広がるため、消火が速い
主な用途
- 駐車場 ── 流動性と即効性を活かして素早く消火
- 航空機の緊急消火 ── 空港の化学消防車にも使われる
- 液面下注入方式 ── フッ素たん白泡と同様、油中を通過しても泡が壊れにくい
3種類の泡消火薬剤を比較する
| 項目 | たん白泡 | 合成界面活性剤泡 | 水成膜泡 |
|---|---|---|---|
| 原料 | 動物性たん白質 | 合成界面活性剤 | フッ素系界面活性剤 |
| 耐熱性 | ◎ 高い | △ 低い | ○ 中程度 |
| 耐油性 | ◎ 高い | △ 低い | ◎ 高い |
| 流動性 | △ 低い | ◎ 高い | ◎ 高い |
| 還元時間 | ◎ 長い | △ 短い | ○ 中程度 |
| 発泡範囲 | 低発泡のみ | 低〜高発泡 | 低発泡のみ |
| 液面下注入 | × 不可 | × 不可 | ○ 可能 |
| 代表的な用途 | 石油タンク | 高発泡(格納庫) | 駐車場・空港 |
合成界面活性剤泡 → 「量産型の軽い泡」(流動性◎・高発泡可能)だけど弱い
水成膜泡 → 「バランスの万能選手」(流動性◎・耐油◎・水の膜で二重防御)
フッ素たん白泡の位置づけ
フッ素たん白泡は、たん白泡の耐久力に水成膜泡の流動性を足したハイブリッド薬剤です。液面下注入方式にも使えるため、石油タンクの消火では非常に有力な選択肢です。
混合装置 ─ 水と薬剤を混ぜる仕組み
泡消火設備では、水と泡消火薬剤を正確な比率で混ぜる必要があります。薬剤の種類によって混合比率(濃度)が決まっています。
| 薬剤の種類 | 混合比率 |
|---|---|
| たん白泡 | 3% または 6% |
| フッ素たん白泡 | 3% または 6% |
| 合成界面活性剤泡 | 3% |
| 水成膜泡(AFFF) | 3% または 6% |
たとえば3%型なら、水97Lに対して薬剤3Lを混ぜて泡水溶液100Lを作ります。この比率がズレると泡の品質が落ちるため、混合装置の精度が重要です。
混合装置の種類
プレッシャープロポーショナー方式
最も一般的な混合方式です。ポンプの吐出圧力を利用して、薬剤タンクから薬剤を押し出し、配管中の水と混合します。
薬剤タンク内にはダイヤフラム(ゴム膜)があり、水と薬剤が直接触れないように分離されています。水圧がダイヤフラムを押して、薬剤を絞り出す仕組みです。
プレッシャーサイドプロポーショナー方式
ポンプの吐出側に設けたベンチュリ管(管を絞った部分)で負圧を作り、その吸引力で薬剤タンクから薬剤を引き込む方式です。
ベンチュリ管は「配管の流体力学」で学んだベルヌーイの定理がそのまま応用されています。流速が速い=圧力が低い(負圧)→ 薬剤が吸い込まれる、という原理です。
ラインプロポーショナー方式
配管の途中にベンチュリ管を設けて薬剤を吸い込む方式です。プレッシャーサイドプロポーショナーと似ていますが、配管のライン上に直接設置する点が異なります。小規模な設備や移動式泡消火設備に使われます。
ポンププロポーショナー方式
ポンプの吐出側と吸込側の圧力差を利用して薬剤を混合する方式です。ポンプの吐出管からバイパス配管を通じて薬剤を引き込み、吸込側で水と混合します。
混合装置の比較
| 方式 | 原理 | 用途 |
|---|---|---|
| プレッシャー プロポーショナー |
水圧で薬剤タンクの ダイヤフラムを押す |
固定式の標準方式 |
| プレッシャーサイド プロポーショナー |
ベンチュリ管の 負圧で薬剤を吸引 |
固定式 |
| ライン プロポーショナー |
配管途中の ベンチュリ管で吸引 |
小規模・移動式 |
| ポンプ プロポーショナー |
ポンプの吐出側と 吸込側の圧力差 |
固定式 |
泡消火薬剤の管理上の注意
泡消火薬剤は化学薬品です。保管や使用にあたっていくつかの注意点があります。
- 異種薬剤の混合禁止 ── たん白泡と合成界面活性剤泡など、種類の異なる薬剤を混ぜると泡の性能が著しく低下する
- 温度管理 ── 凍結すると使用不可。高温でも劣化する
- 使用期限の確認 ── 薬剤は経年劣化する。定期的に品質試験を行う
- 環境への配慮 ── 特にフッ素系薬剤(水成膜泡・フッ素たん白泡)は環境残留性が問題視されており、訓練放出の規制が強化されつつある
まとめ問題
記事の内容を理解できたか、4問のクイズで確認しましょう。
【問題1】泡消火薬剤について、耐熱性と耐油性が最も高いものはどれか。
(1)合成界面活性剤泡
(2)水成膜泡
(3)たん白泡
(4)フッ素たん白泡
【問題2】高発泡の泡を発生させることができる泡消火薬剤はどれか。
(1)たん白泡
(2)フッ素たん白泡
(3)水成膜泡
(4)合成界面活性剤泡
【問題3】液面下注入方式に使用できる泡消火薬剤の組み合わせとして正しいものはどれか。
(1)たん白泡と合成界面活性剤泡
(2)フッ素たん白泡と水成膜泡
(3)たん白泡と水成膜泡
(4)合成界面活性剤泡と水成膜泡
【問題4】プレッシャープロポーショナー方式の混合装置について、正しいものはどれか。
(1)ベンチュリ管の負圧で薬剤を吸い込む方式である
(2)薬剤タンク内のダイヤフラムを水圧で押して薬剤を送り出す方式である
(3)ポンプの吐出側と吸込側の圧力差を利用する方式である
(4)配管途中に設けた絞り部で薬剤を混合する方式である