結論から言います。
避難はしごは、避難器具の中で最も設置数が多い器具です。構造がシンプルでコストが低く、マンションのバルコニーに設置されている「避難ハッチ」の中身も避難はしごです。金属製避難はしごは甲5・乙5の工事・整備対象であり、検定対象品目でもあります。
この記事では、避難はしごの4タイプを詳しく解説し、残りの5種類(すべり台・避難橋・避難ロープ・避難タラップ・すべり棒)もまとめて整理します。
避難はしごの構造
「避難器具の全体像」で概要を学びましたが、ここでは避難はしごの4タイプの構造と使い分けを詳しく見ていきます。
4タイプの比較
| タイプ | 設置方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 固定はしご | 壁面に常時固定 | いつでも即使用可能 |
| 立てかけはしご | 壁に立てかけて使用 | 収納可能・低層階向け |
| つり下げはしご | 窓枠等からつり下げ | 格納式・中層階まで対応 |
| ハッチ用つり下げはしご | 避難ハッチに格納 | マンションで最も多い |
固定はしご
建物の外壁に常時固定されているはしごです。
- 金属製(鋼製またはアルミ製)で壁面にアンカーボルト等で固定
- 展張作業が不要で、すぐに使えるのが最大のメリット
- 常時露出しているため、腐食・劣化の点検が重要
- 防犯上の理由で、地上から手の届かない高さから設置し、下部は収納式(はね上げ式)にすることがある
立てかけはしご
普段は収納しておき、使用時に壁面に立てかけて使うはしごです。
- 主に1階〜2階程度の低層階で使用
- 長さが限られるため、高層階には不向き
- 設置角度は壁面に対して約75度が安定する
- 地面が平坦で、はしごの脚が滑らない場所に立てかける
つり下げはしご
窓枠やバルコニーの手すりにフックをかけて、はしごをつり下げるタイプです。
- 金属製(横さんが金属パイプ)とワイヤーロープ式(横さんが丸棒、縦はワイヤー)がある
- 使用時は格納箱から取り出して展張する
- 壁面に沿ってつり下がるため、風で揺れやすいのが欠点
- 中層階(おおむね3階〜5階程度)まで対応
ハッチ用つり下げはしご
マンションのバルコニーでよく見かける避難ハッチの中に格納されているはしごです。甲5の試験で最も出題されやすいタイプです。
ハッチ用つり下げはしごの特徴は、1階分ずつ降りる方式であることです。上の階から一気に地上まで降りるのではなく、1フロアごとに下のバルコニーへ移動します。各階にハッチが設置されているため、順番に下の階へ降りていくことで最終的に地上に到達します。
避難はしごの各部の基準
| 部位 | 基準 |
|---|---|
| 横さんの間隔 | 25cm以上 35cm以下(等間隔) |
| 横さんの幅(踏み面) | 20cm以上 |
| 縦棒の間隔(内幅) | 30cm以上 |
| 使用荷重 | 130kgに耐えること |
| 材質 | 鋼製またはアルミ合金製 |
すべり台の構造
すべり台は、遊具のすべり台と同じ原理で傾斜面を滑り降りて避難する器具です。
すべり台の種類
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 直線型 | まっすぐ滑り降りる。シンプルな構造 |
| らせん型 | らせん状に回りながら降りる。省スペース |
すべり台の特徴
- 操作が最も簡単 ── 座って滑るだけ。幼児・高齢者・車椅子の方でも使える
- 適応表でほぼ万能 ── すべての用途・ほぼすべての階で設置可能
- 連続使用が可能 ── 1人ずつ間隔を空ければ連続して避難できる
- 欠点:設置スペースが大きい ── 建物外部に大きなスペースが必要
- 欠点:コストが高い ── 大型の金属構造物を施工するため
すべり台の各部の基準
| 部位 | 基準 |
|---|---|
| 滑り面の幅 | 50cm以上 |
| 側板の高さ | 滑り面から20cm以上 |
| 傾斜角度 | おおむね25度〜35度 |
| 材質 | 金属製(鋼製・ステンレス製・アルミ製) |
その他の避難器具
残りの4種類は設置例が少なく出題頻度は低めですが、基本的な特徴は押さえておく必要があります。
避難橋
隣接する建物と建物を橋でつないで水平移動で避難する器具です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 避難方向 | 水平移動(地上まで降りない) |
| メリット | 高所からの降下が不要で安全 |
| デメリット | 隣接建物がなければ設置不可 |
| 構造 | 通路幅60cm以上・手すり付き |
避難橋は建物間に常時設置される固定式と、使用時に渡す可搬式があります。実際の設置例は少ないですが、「降下ではなく水平移動で避難する唯一の器具」という点を覚えておきましょう。
避難ロープ
ロープをつたって降りる最もシンプルな器具です。
- 使用荷重:100kgに耐えること
- ロープの太さ:直径12mm以上(握りやすく、かつ強度を確保)
- ロープの端にこぶ(結び目)を30〜50cm間隔でつける(滑り止め)
- 適応制限が厳しい ── おおむね2階〜3階の低層階のみ
- 体力と握力が必要なため、病院・福祉施設では使用不可
避難タラップ
建物の外壁に固定された金属製のステップ(足場)を使って降りる器具です。
- 固定はしごに似ているが、ステップが壁面から突出している点が異なる
- 壁面に沿って垂直に降りる
- 常時固定のため、すぐに使用可能
- 設置例:工場の外壁、煙突の外側など
すべり棒
棒を握って滑り降りる器具です。消防署で消防士が使うイメージですが、避難器具としての設置例はほとんどありません。
- 体力・握力が必要で使用者が限定される
- 適応表での適用範囲は非常に限定的
- 消防署以外ではまず設置されない
- 試験での出題頻度は低い
8種類の総合比較
| 器具 | 甲5対象 | 検定対象 |
|---|---|---|
| 金属製避難はしご | ○ | ○ |
| 救助袋 | ○ | ○ |
| 緩降機 | ○ | ○ |
| すべり台 | × | × |
| 避難橋 | × | × |
| 避難ロープ | × | × |
| 避難タラップ | × | × |
| すべり棒 | × | × |
甲5の工事・整備対象かつ検定対象なのは上位3種類のみです。試験対策では、この3種類を最優先で深く学び、残り5種類は基本的な特徴を押さえておく戦略が効率的です。
避難器具に共通する構造上の要件
取付部の強度
すべての避難器具に共通して、建物への取付部は十分な強度のある構造体に固定しなければなりません。
- OK:鉄筋コンクリート壁・鉄骨の梁・コンクリートスラブ
- NG:ALC板(軽量気泡コンクリート)・ブロック壁・木造部分
操作面
避難器具は火災時のパニック状態で使うことを前提に設計されています。
- 操作方法は簡単であること(複雑な手順は不可)
- 格納箱や器具本体に使用方法の表示があること
- 暗所でも操作できるよう、操作部が蛍光塗料等で識別できること
まとめ
- 避難はしごは4タイプ(固定・立てかけ・つり下げ・ハッチ用)
- ハッチ用つり下げはしごが最も設置数が多い(マンション)
- 横さん間隔は25cm以上 35cm以下(等間隔)
- すべり台は操作が最も簡単で適応範囲が広い。保育施設・福祉施設に最適
- 避難橋は水平移動で避難する唯一の器具
- 避難ロープは適応制限が最も厳しい(低層階のみ・体力必要)
- 甲5対象+検定対象は金属製避難はしご・救助袋・緩降機の3種類のみ
- 取付部は構造体に固定(ALC板・ブロック壁は不可)
次の記事では、避難器具の設置義務と技術基準を解説します。
理解度チェック問題
【問題1】避難はしごに関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ハッチ用つり下げはしごは、上階から地上まで一気に降りる構造である。
(2)横さんの間隔は、15cm以上25cm以下と定められている。
(3)固定はしごは常時壁面に固定されており、展張作業が不要である。
(4)避難はしごの使用荷重は、緩降機と同じ100kgである。
【問題2】すべり台に関する記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)すべり台は操作が簡単で、幼児や高齢者でも使用できる。
(2)すべり台は適応表でほぼすべての用途・階で設置が認められている。
(3)すべり台は設置スペースが小さく、コストも低いため設置数が最も多い。
(4)すべり台には直線型とらせん型がある。
【問題3】避難器具の取付部に関する記述のうち、正しいものはどれか。
(1)ALC板(軽量気泡コンクリート)は強度が十分なので、取付部として使用できる。
(2)取付部は、鉄筋コンクリート壁や鉄骨梁など十分な強度のある構造体に固定する。
(3)取付部の強度は緩降機のみに求められ、避難はしごには不要である。
(4)木造建築物には避難器具を一切設置できない。
【問題4(応用)】ある3階建ての保育園で、2階に避難器具を設置することになった。園児(0歳〜5歳)が利用する施設である。次の避難器具のうち、この施設に最も適切なものはどれか。
(1)緩降機
(2)避難ロープ
(3)すべり台
(4)つり下げはしご