甲種5類

緩降機・救助袋の構造と機能|調速器・交互式・垂直式・斜降式をわかりやすく解説

結論から言います。

緩降機(かんこうき)救助袋は、甲種5類の試験で最も出題頻度が高い2つの避難器具です。緩降機は「調速器でロープの降下速度を自動制御する器具」、救助袋は「布製のシュートの中を滑り降りる器具」です。

どちらも甲5・乙5の工事・整備の対象であり、構造・機能・部品名称は試験の頻出テーマです。

この記事で押さえるポイント
緩降機
調速器の仕組み
降下速度の基準
交互式の構造
救助袋
垂直式と斜降式
展張の手順
降下空間の確保
共通事項
取付具・支持金具
使用荷重と安全率
検定制度

緩降機の構造

避難器具の全体像」で概要を学びましたが、ここからは緩降機の内部構造と各部品の役割を詳しく見ていきます。

緩降機の構成部品

緩降機は大きく4つの部品で構成されています。

緩降機の構成
1
調速器 ── 降下速度を自動制御するブレーキ装置
2
ロープ ── 使用者の荷重を支えるワイヤーロープ
3
着用具 ── 体に巻くベルト(2個、ロープの両端に取り付け)
4
取付具 ── 建物に固定するための金具(支持金具)

調速器(ちょうそくき)── 緩降機の心臓部

調速器は緩降機の最も重要な部品です。使用者が降下するときにロープの速度を自動的に制御し、安全な速度に保ちます。

方式 制動原理
遠心力ブレーキ式 回転速度が上がると遠心力でブレーキシューが広がり制動
油圧式 オイルの粘性抵抗で速度を制御

主流は遠心力ブレーキ式です。ロープが繰り出されると調速器内部のドラムが回転し、回転速度が上がると遠心力でブレーキシューが外側に広がってケース内面に押し付けられ、摩擦力で制動します。速度が上がるほどブレーキが強くかかる仕組みなので、自動的に一定速度が維持されます。

降下速度の基準
緩降機の降下速度は、使用荷重(100kg)を加えた状態で16cm/秒以上 150cm/秒以下(おおむね毎秒0.16m〜1.5m)と定められています。速すぎると着地時に危険、遅すぎると避難に時間がかかりすぎるため、この範囲に収まるよう調速器が設計されています。

交互式の仕組み

現在主流の緩降機は交互式です。ロープの両端にそれぞれ着用具(ベルト)がついており、1人が降下すると反対側のベルトが上がってくる仕組みです。

交互式の使用手順
1
1人目がベルトAを体に巻いて窓から降下
2
1人目が降りると、ベルトBが窓の位置まで上がってくる
3
2人目がベルトBを体に巻いて降下
4
2人目が降りると、ベルトAが再び上がってくる → 繰り返し

交互式のメリットは、次の人が待っている間にベルトが自動的に上がってくるため、連続して複数人が避難できることです。1人ずつですが、ベルトの回収作業が不要なのでスムーズに避難が進みます。

着用具(ベルト)

着用具は使用者の体に巻いて使うベルトです。

  • 胸部に巻くタイプが主流(脇の下を通して胸の前で固定)
  • 使用荷重に耐える強度を持つ
  • 着用方法が簡単であること(パニック時でも短時間で装着できる設計)
  • 降下中にすり抜けない構造であること
着用具の装着は試験でも実務でも重要
着用具の装着方法を間違えると、降下中にベルトがずれたり体から抜けたりする危険があります。必ず脇の下を通して胸部でしっかり固定すること。消防設備士の点検時にも、着用具のベルトや金具に損傷・変形がないかを確認します。

ロープ

緩降機のロープは通常ワイヤーロープ(鋼製)が使われます。

  • 使用荷重:100kgに耐えること
  • 安全率:10以上(破断荷重が使用荷重の10倍以上)
  • ロープの長さは設置階から地面までの距離に合わせて設定
  • ロープにキンク(ねじれ・くせ)がないことが重要

取付具(支持金具)

取付具は、緩降機を建物の窓枠やバルコニーに固定するための金具です。

取付方法 内容
固定式 アンカーボルトで壁面・床面に常時固定
半固定式 取付金具を壁面に固定し、緩降機本体は着脱可能

取付具は使用者の体重+衝撃荷重に耐える必要があり、コンクリートや鉄骨など構造体に固定しなければなりません。ブロック壁やALC板(軽量気泡コンクリート)など強度が不十分な部材には取り付けできません。

救助袋の構造

救助袋は、布製の袋状のシュート(滑り台)の中を滑り降りて避難する器具です。外から見えないため高所恐怖症の人でも使いやすく、高層階にも対応できます。

垂直式救助袋

項目 内容
構造 内袋と外袋の二重構造。内袋がらせん状
降下方式 袋の中をらせん状に滑り降りる
降下速度の制御 体と袋の摩擦で自然に減速
設置スペース 比較的小さい(垂直に垂れ下がるため)
対応階 高層階にも対応可能

垂直式の特徴は二重構造にあります。外袋が袋全体の形を保ち、内袋がらせん状に形成されていて、使用者は内袋の中をぐるぐると回りながら滑り降ります。この回転によって直線的に落下するのを防ぎ、摩擦で速度が制御されます。

斜降式救助袋

項目 内容
構造 斜めに張られたシュート(すべり台状)
降下方式 斜めに滑り降りる(すべり台と同じ感覚)
降下速度の制御 傾斜角度と袋の摩擦で制御
設置スペース 大きい(斜めに張るため地上に広い場所が必要)
対応者 高齢者・身体の不自由な方にも使いやすい

垂直式と斜降式の比較

項目 垂直式 斜降式
降下方向 真下にらせん降下 斜めに直線降下
設置スペース 小さい 大きい
使いやすさ やや不安感あり 直感的で使いやすい
高層階対応 適している 傾斜距離が長くなるため制限あり
地上側の固定 袋の下端を地上で保持 下端を地上のアンカー等に固定

救助袋の構成部品

  • 袋本体 ── 帆布や合成繊維などの強靭な布製。難燃性・耐候性が必要
  • 取付枠 ── 窓やバルコニーの開口部に固定する金属フレーム
  • 入口金具 ── 袋の入口部分。使用者が安全に袋に入れるよう形状が工夫されている
  • 誘導綱 ── 垂直式で袋の下端を地上側で保持するためのロープ
  • 支持金具 ── 建物側に固定する金具(アンカーボルト等)

救助袋の展張(てんちょう)手順

救助袋は普段は折りたたまれて格納されています。使用時に展張(広げて使える状態にする)作業が必要です。

救助袋の展張手順(垂直式)
1
格納箱のふたを開け、取付枠を窓枠やバルコニーに固定
2
袋本体を窓の外に投げ下ろす(自重で展張)
3
地上の人が袋の下端を保持(誘導綱で固定)
4
袋が安定したら、1人ずつ袋の中に入って降下
展張時の注意点
垂直式の場合、袋の下端を地上側で必ず保持する必要があります。保持しないと風で袋が揺れ、安全に降下できません。斜降式の場合は下端を地上の固定点にしっかり結びつけ、適切な角度で張られていることを確認してから使用します。

共通する重要事項

使用荷重と安全率

緩降機と救助袋はどちらも人の体重を支える器具です。強度に関する基準が定められています。

項目 基準
使用荷重 100kgに耐えること
ロープの安全率 10以上(破断荷重÷使用荷重≧10)
取付金具の安全率 4以上
安全率とは
安全率は「荷重・応力・ひずみ」で学んだ概念です。安全率 = 破断荷重 ÷ 使用荷重。

ロープの安全率が10ということは、100kgの使用荷重に対して1,000kgまで耐えるロープを使うということです。経年劣化や衝撃荷重を考慮した十分な余裕を持たせています。

取付金具の安全率は4以上。100kgの荷重に対して400kg以上に耐える金具が必要です。

降下空間

避難器具を使って降下する際には、降下空間(降下経路上の空間)が確保されていなければなりません。

  • 降下空間に障害物がないこと(庇(ひさし)・看板・植栽・電線など)
  • 降下した人が安全に着地できるスペースがあること
  • 緩降機は降下中に壁面から一定距離離れていること
  • 救助袋は袋が展張できるだけの十分な空間があること

検定制度

緩降機と救助袋は、「検定制度」で学んだ検定対象品目です。

  • 緩降機 ── 検定対象。型式承認+型式適合検定が必要
  • 金属製避難はしご ── 検定対象
  • 救助袋 ── 検定対象

検定に合格していない製品は、消防用設備等として設置・販売が認められません

緩降機と救助袋の使い分け

観点 緩降機 救助袋
1人あたりの時間 やや長い 比較的短い
操作の難しさ ベルト装着が必要 袋に入るだけ
高所恐怖 外が見えるため恐怖感あり 袋の中で外が見えない
設置スペース 小さい 大きい(特に斜降式)
コスト 比較的安い 比較的高い
地上側の補助 原則不要 必要(袋の保持・固定)

実務では、設置スペースとコストの関係で緩降機が多く採用されます。一方、病院や福祉施設など自力避難が困難な人が多い場所では、操作が簡単で恐怖感の少ない救助袋が適しています。

まとめ

  • 緩降機は調速器・ロープ・着用具・取付具の4部品で構成
  • 調速器は遠心力ブレーキ式が主流。速度が上がるほどブレーキが強くかかる
  • 降下速度は16cm/秒以上 150cm/秒以下
  • 交互式はロープ両端にベルトがついており、交互に降下できる
  • 救助袋は垂直式(らせん降下・省スペース)と斜降式(斜め降下・使いやすい)の2種類
  • 垂直式は二重構造(外袋+内袋)でらせん状に滑り降りる
  • ロープの安全率は10以上、取付金具の安全率は4以上
  • 緩降機・救助袋・金属製避難はしごは検定対象品目

次の記事では、避難はしご・すべり台・その他の避難器具を解説します。

理解度チェック問題

【問題1】緩降機の調速器に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)調速器は使用者が手動で操作してブレーキをかける装置である。
(2)遠心力ブレーキ式は、回転速度が上がるとブレーキシューが広がり制動力が増す。
(3)降下速度が速くなるほどブレーキが弱くなるため、高層階では使用できない。
(4)調速器は消耗品ではないため、点検の対象外である。

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正解:(2)
遠心力ブレーキ式の調速器は、ドラムの回転速度が上がると遠心力でブレーキシューが外側に広がり、ケース内面との摩擦力で制動します。速度が上がるほどブレーキが強くかかるので、自動的に一定速度が維持されます。(1)は調速器は「自動的」に速度を制御する装置で、手動操作は不要です。(3)は速度が上がるほどブレーキが「強く」なるので、高層階でも使用できます。(4)は調速器は避難器具の心臓部であり、当然点検の対象です。

【問題2】救助袋に関する記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)垂直式救助袋は、内袋と外袋の二重構造でらせん状に滑り降りる。
(2)斜降式救助袋は、垂直式より設置スペースが大きい。
(3)垂直式の使用時は、地上で袋の下端を保持する必要がある。
(4)救助袋は展張不要で、格納状態のまますぐに使用できる。

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正解:(4)
救助袋は普段は折りたたまれて格納されており、使用時には展張(広げて使える状態にする)作業が必要です。取付枠を固定し、袋を投げ下ろし、地上側で下端を保持してから使用します。展張不要ですぐに使えるわけではありません。(1)(2)(3)はいずれも正しい記述です。

【問題3】避難器具の安全率に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)緩降機のロープの安全率は4以上と定められている。
(2)取付金具の安全率は10以上と定められている。
(3)ロープの安全率10とは、使用荷重100kgに対して破断荷重1,000kg以上という意味である。
(4)安全率の基準は、緩降機と救助袋で大きく異なる。

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正解:(3)
安全率 = 破断荷重 ÷ 使用荷重です。ロープの安全率10以上ということは、使用荷重100kgに対して破断荷重が100kg × 10 = 1,000kg以上でなければならないということです。(1)はロープの安全率は「10以上」が正しいです。(2)は取付金具の安全率は「4以上」が正しいです。(ロープ=10、金具=4の組み合わせがよく出題されます)。(4)は基本的な安全率の考え方は共通です。

【問題4(応用)】ある8階建てのビルの5階に避難器具を設置する。この階は病院(入院施設あり)として使用されている。次のうち、この階に最も適切な避難器具はどれか。その理由も含めて考えよ。

(1)緩降機
(2)救助袋(斜降式)
(3)避難ロープ
(4)避難はしご(つり下げ式)

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正解:(2)
病院(入院施設あり)は、患者の中に歩行困難な方や高齢者が含まれるため、操作が簡単で身体的な負担が少ない器具が求められます。救助袋(斜降式)は袋の中に入ってすべり台のように降りるだけなので、身体の不自由な方でも比較的安全に使えます。(1)の緩降機はベルトの装着が必要で、空中に露出しながら降下するため患者には不向きです。(3)の避難ロープは握力と体力が必要であり、病院には不適切です(そもそも病院の適応表では認められていません)。(4)の避難はしご(つり下げ式)は自力で梯子を降りる必要があり、入院患者には困難です。

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