甲種5類

避難器具の全体像と分類|8種類の特徴・適応表・甲5の業務範囲をわかりやすく解説

結論から言います。

避難器具とは、火災時に建物の階段が使えなくなったとき、窓やバルコニーから地上へ避難するための器具です。消防法施行令第25条で規定されており、すべり台・避難はしご・救助袋・緩降機・避難橋・避難ロープ・避難タラップ・すべり棒の8種類があります。

甲種5類・乙種5類の消防設備士が工事・整備を行えるのは、このうち金属製避難はしご・救助袋・緩降機の3つです。ただし試験では8種類すべての知識が問われます。

この記事で押さえる3つの柱
8種類の全体像
すべり台・避難はしご
救助袋・緩降機
その他4種類
適応表
階別・用途別に
どの器具が使えるか
施行規則第26条
甲5の業務範囲
金属製避難はしご
救助袋・緩降機
この3つが独占業務

避難設備の中での位置づけ

消防用設備等の種類」で学んだ通り、消防用設備等は消火設備・警報設備・避難設備の3つに分かれています。避難設備はさらに2つに分かれます。

分類 内容 担当する類
避難器具 物理的に避難するための器具 甲5・乙5
誘導灯・誘導標識 避難口・通路を光で示す 甲4・乙4

甲5の試験範囲は避難器具のみです。誘導灯・誘導標識は甲4・乙4の範囲なので、甲5では扱いません。

「避難設備」と「避難器具」の違い
「避難設備」は避難器具+誘導灯・誘導標識の総称です。「避難器具」は避難設備の一部で、すべり台や緩降機など物理的に人を移動させる器具を指します。試験問題で「避難設備」と「避難器具」が出てきたら、この違いを意識しましょう。

避難器具が必要な理由

建物の階段は火災時に煙の通り道になります。煙は上に昇るため、上階の人ほど階段が使えなくなるリスクが高くなります。

避難器具は、階段以外のルートで安全に地上へ避難するための「もう一つの脱出手段」です。特に2階以上の階では、窓から飛び降りるのは危険なので、安全に降下できる器具が必要になります。

避難器具8種類の全体像

施行令第25条第2項で定められている避難器具は以下の8種類です。

避難器具 8種類
主要3種類(甲5の独占業務)
避難はしご(金属製)
救助袋
緩降機(かんこうき)
その他5種類
❹ すべり台
❺ 避難橋
❻ 避難ロープ
❼ 避難タラップ
❽ すべり棒

❶ 避難はしご

窓やバルコニーからはしごを降ろして降りる器具です。最もシンプルで設置数が多い避難器具です。

種類 特徴
固定はしご 壁面に常時固定。いつでも使用可能
立てかけはしご 壁面に立てかけて使用。収納可能
つり下げはしご 窓枠やバルコニーからつり下げて使用
ハッチ用つり下げはしご バルコニーの避難ハッチに格納

金属製避難はしごは甲5・乙5の工事・整備の対象です。マンションのバルコニーにある「避難ハッチ」の中に格納されているのが、ハッチ用つり下げはしごです。

❷ 救助袋

布製の袋状のシュートの中を滑り降りて避難する器具です。外から見えないため心理的な恐怖感が少なく、高層階でも使えるのが特徴です。

種類 特徴
垂直式 袋が垂直に垂れ下がる。らせん状に滑り降りる
斜降式 袋が斜めに張られる。すべり台のように降りる

垂直式は設置スペースが小さいですが、斜降式は降下速度を制御しやすいため、高齢者や身体の不自由な方にも対応しやすい特徴があります。

❸ 緩降機(かんこうき)

ベルトを体に巻いて、ロープで緩やかに降下する器具です。「緩(ゆる)やかに降(お)りる機(き)」で緩降機です。

  • ロープの一端に着用具(ベルト)、もう一端に調速器(ブレーキ装置)が付いている
  • 調速器が降下速度を自動的に制御し、安全な速度(毎秒0.5m〜1.5m程度)で降下できる
  • 1人が降りると次の人のベルトが上がってくる交互式が主流
緩降機は甲5試験の最重要器具
緩降機は構造が複雑で、調速器の仕組み・降下速度の基準・点検方法など出題頻度が非常に高い器具です。適応表でも多くの用途・階数で設置が認められており、実務上も最も多く使われる避難器具の一つです。次の記事で詳しく構造を解説します。

❹ すべり台

遊具のすべり台と同じ原理で、傾斜面を滑り降りて避難する器具です。特別な操作が不要なため、幼児や高齢者でも直感的に使えます。

  • 保育園・幼稚園・社会福祉施設など、自力避難が困難な人が多い施設に適している
  • 設置スペースが大きいのが欠点
  • 適応表では多くの階で使用が認められている

❺ 避難橋

隣接する建物と建物を橋でつないで、火災が起きていない建物へ避難する器具です。

  • 隣の建物に直接移動できるため、地上まで降りる必要がない
  • 隣接建物がない場合は使えないため、設置場所が限定される
  • 実際の設置例は少ない

❻ 避難ロープ

ロープをつたって降りる最もシンプルな器具です。

  • 体力と握力が必要なため、使える人が限定される
  • 適応表では3階以下(一部は2階)に限定
  • コストは最も安いが、安全性は他の器具より劣る

❼ 避難タラップ

建物の外壁に固定された金属製のステップ(足場)を使って降りる器具です。固定はしごに似ていますが、ステップが壁面から突出している点が異なります。

❽ すべり棒

消防署で消防士が使うイメージの、棒を握って滑り降りる器具です。

  • 体力が必要で、使える人が限定される
  • 適応表での適用範囲は非常に限定的
  • 実務上の設置例はほとんどない

8種類の比較一覧

器具 操作の難易度 対応階
すべり台 とても簡単(幼児も可) 広い
避難はしご 簡単(はしごを降りる) 低〜中層
救助袋 簡単(袋に入るだけ) 広い
緩降機 やや難(ベルト装着) 広い
避難橋 簡単(歩いて渡る) 限定的
避難ロープ 難(握力・体力必要) 低層のみ
避難タラップ やや難(外壁を降りる) 低〜中層
すべり棒 難(握力・体力必要) 非常に限定的

適応表 ── どの階にどの器具が使えるか

避難器具は「どの器具でも自由に設置できる」わけではありません。施行規則第26条の適応表で、建物の用途に応じて使える器具が決まっています。

適応表の考え方

適応表は大きく2つの軸で読みます。

  • 縦軸:防火対象物の用途(病院・ホテル・事務所など)
  • 横軸:避難器具の種類(8種類)

そしてもう1つ重要な要素がです。同じ用途でも、2階と10階では使える器具が変わります。

適応表の基本ルール

ルール 内容
高層階ほど制限が厳しい 避難ロープは2〜3階のみ、はしごも中層まで
弱者が多い用途は安全な器具 病院・福祉施設では避難ロープ・すべり棒は不可
すべり台は万能 ほぼすべての用途・階で使用可能
地階には限定的 地階で使えるのは避難橋・避難はしごなど一部のみ

用途グループ別の傾向

適応表は用途を大きく3つのグループに分けると理解しやすくなります。

用途グループ別の適応傾向
Aグループ(厳しい)
病院・福祉施設
保育園・幼稚園
避難ロープ・すべり棒は不可
安全な器具のみ
Bグループ(標準)
ホテル・百貨店
飲食店・劇場
一般的な制限
低層で避難ロープ可
Cグループ(緩い)
事務所・工場
倉庫・学校
制限が少ない
多くの器具が使える

なぜこのようにグループ分けされるのか。理由は避難者の身体能力です。

  • Aグループ ── 患者・高齢者・乳幼児など自力避難が困難な人が多い。ロープやすべり棒は使えない
  • Bグループ ── 不特定多数が出入りし、建物に不慣れな人がいる。ある程度安全な器具が必要
  • Cグループ ── 建物を熟知した関係者が多い。比較的自由に選べる
適応表の覚え方
適応表を丸暗記しようとすると大変です。まず原則を覚えましょう。

原則:「高い階ほど安全な器具」「弱者が多い用途ほど安全な器具」

すべり台と救助袋は「安全で誰でも使える」のでほぼ万能。避難ロープとすべり棒は「危険で体力が必要」なので制限が厳しい。緩降機と避難はしごはその中間。この安全度の序列で適応表の大部分が説明できます。

甲5・乙5の業務範囲

消防設備士の甲5・乙5が工事・整備を行えるのは、8種類のうち3種類です。

器具 甲5 乙5
金属製避難はしご 工事・整備・点検 整備・点検
救助袋 工事・整備・点検 整備・点検
緩降機 工事・整備・点検 整備・点検

甲種と乙種の違いは他の類と同じで、甲種は工事ができるが乙種は整備・点検のみです。

なぜ3種類だけ?
すべり台や避難橋は建築工事の一部として施工されることが多く、消防設備士の独占業務にはなっていません。一方、金属製避難はしご・救助袋・緩降機は消防用設備等として後から設置されることが多いため、消防設備士が工事・整備を行います。

他の類との比較

甲5の特徴を、これまで学んできた他の類と比較してみましょう。

項目 甲1〜甲3 甲5
設備の目的 火を消す(消火設備) 人を逃がす(避難設備)
配管・配線 配管工事が中心 取付金具の固定が中心
計算 水力計算・消火剤量計算 荷重計算・降下空間
製図 系統図・配管図 設置位置・降下空間の図面

甲5は消火設備とはまったく異なる分野です。配管や薬剤の知識は不要で、代わりに取付金具の強度降下空間の確保が重要になります。

まとめ

  • 避難器具は火災時に階段以外のルートで避難するための器具。8種類ある
  • 甲5・乙5の工事・整備対象は金属製避難はしご・救助袋・緩降機の3種類
  • 適応表(施行規則第26条)で、用途と階に応じて使える器具が決まる
  • 原則:「高い階ほど安全な器具」「弱者が多いほど安全な器具」
  • すべり台・救助袋はほぼ万能、避難ロープ・すべり棒は制限が厳しい
  • 避難設備 = 避難器具 + 誘導灯・誘導標識(誘導灯は甲4の範囲)

次の記事では、緩降機と救助袋の構造を詳しく解説します。

理解度チェック問題

【問題1】避難器具に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)避難器具は施行令第25条で規定されており、全部で6種類ある。
(2)甲種5類の消防設備士は、すべり台を含むすべての避難器具の工事を行える。
(3)緩降機は、調速器によって降下速度が自動的に制御される器具である。
(4)救助袋は垂直式のみであり、斜降式は存在しない。

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正解:(3)
緩降機は「緩やかに降りる機器」で、調速器(ブレーキ装置)がロープの降下速度を自動的に制御します。使用者は自分でブレーキ操作をする必要がありません。(1)は避難器具は「8種類」が正しいです。(2)は甲5の工事対象は金属製避難はしご・救助袋・緩降機の「3種類」のみです。(4)は救助袋には垂直式と斜降式の2種類があります。

【問題2】避難器具の適応表に関する記述のうち、正しいものはどれか。

(1)避難ロープは体力があれば、すべての階で使用が認められている。
(2)病院や社会福祉施設では、避難ロープやすべり棒の設置は認められていない。
(3)事務所と病院では、使える避難器具の種類は同じである。
(4)すべり台は低層階でのみ使用が認められている。

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正解:(2)
病院や社会福祉施設は、患者や高齢者など自力避難が困難な人が多いため、体力が必要な避難ロープやすべり棒は認められていません。安全で誰でも使える器具(すべり台・救助袋など)を設置する必要があります。(1)は避難ロープは低層階(2〜3階程度)にしか使えません。(3)は事務所は制限が緩く、病院は厳しいため、使える器具の種類は異なります。(4)はすべり台はほぼすべての用途・階で使用可能な万能型の器具です。

【問題3】避難器具の種類と特徴に関する記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)避難はしごには、固定はしご・立てかけはしご・つり下げはしごなどがある。
(2)救助袋の垂直式は、らせん状に滑り降りる構造である。
(3)避難橋は、地上に設置した橋を渡って避難する器具である。
(4)すべり台は特別な操作が不要で、幼児でも使用できる。

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正解:(3)
避難橋は隣接する建物と建物を橋でつないで、火災が起きていない建物へ水平移動で避難する器具です。地上に設置するのではなく、建物間の高所に設置します。(1)は避難はしごの種類として正しい記述です。(2)は垂直式救助袋はらせん状の構造で、袋の中をぐるぐると回りながら滑り降ります。(4)はすべり台は幼児でも使えるため、保育園や幼稚園に適しています。

【問題4(応用)】ある10階建てのビルに避難器具を設置する。5階は病院(入院施設あり)、8階は事務所として使用されている。それぞれの階に設置できる避難器具の組み合わせとして最も適切なものはどれか。

(1)5階:避難ロープ 8階:緩降機
(2)5階:緩降機 8階:避難ロープ
(3)5階:救助袋(斜降式) 8階:緩降機
(4)5階:すべり棒 8階:避難はしご

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正解:(3)
5階は病院なので、患者や高齢者が安全に避難できる器具が必要です。救助袋(斜降式)は袋の中を滑り降りるだけなので、身体の不自由な方でも使いやすく適しています。8階の事務所には緩降機が使えます。(1)は病院に避難ロープは不可(自力避難が困難な人がいる)。(2)は8階で避難ロープは使えません(低層階のみ適応)。(4)は病院にすべり棒は不可(体力が必要・自力避難困難者には不適)、また8階で避難はしごは高すぎて認められない可能性があります。

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